第38話


それからレイラと何枚か写真を撮って、後から歩いて来ている葵達にレイラは手を振った。


「皆、まだ後ろにいるね」


「あんたが走るからでしょ」


距離がまだあるけどレイラに気づいた葵は小さく手を振り替えしてきた。それにしても透の隣を歩く葵はなんだかお似合いのカップルみたいで胸が痛むというか複雑だった。葵は元々女の人が好きって訳ではないみたいだし、ああゆう男の人の方が将来性もあって良いと思うけど、私が好きらしい。昨日の話は本当だと思うけどこういう所を見ると好きと言われた確信も何もなくなってしまう。私は所詮女だし、容姿も普通だし大した取り柄もない。惨めというか悲しいというかよく分からない気分になった。それくらいに二人は眩しく見えた。


「皆ー!凄い綺麗だね!葵ちゃんここ決めといて良かったね!」


レイラは近くまで来た葵達に嬉しそうに話し掛けた。葵はこちらを見て笑っていた。


「うん。本当に綺麗だね」


「もー私感動して走っちゃったよ。あ、ねぇねぇ、皆でも写真撮ろーよ?」


「うん」


また皆で写真を撮ることになった。ひまわりをバッグにして写真を撮ろうとしたら葵はいつの間にか私の隣に来て顔を寄せてきた。


「じゃ、撮るよ!」


そのままレイラは写真を撮って満足したかと思いきや一番背の高い透に上からひまわりを撮るように促している。


「上から撮ったって変わんねーだろ」


「変わるの!早く撮ってよ!」


「しょうがねーな」


軽く言い合いながらもいつもの二人で微笑ましくなる。翔太も何気に写真を撮っているし私も写真を撮ろうかなと思っていると葵が携帯を取り出してカメラに切り替えていた。そういえば昨日写真を撮ろうと言っていた。さっきは申し訳なかったし、私は葵の腰に腕を回して距離を縮める。


「葵、写真撮ろ?ちゃんとひまわりも入れてよ?」


「え?…うん。と、撮るよ?」


葵はひまわりをバッグにいれると私に控えめに顔を寄せて写真を撮った。私はさっきの今で上手く笑えているか不安だったけど写真の私達はよく笑っていた。葵は本当に嬉しそうに写真を眺めていて私はまた複雑な気持ちになった。


ひまわり畑を回った私達は次に水族館に向かった。人気らしい水族館はそこまで混んではいなくて、すんなり入れたがそこでもまた私の隣はレイラに占領されていた。葵は前を透と歩いていてその後ろに私達と翔太がいた。

葵には、本当に申し訳ないなと思いながら私達は水族館を見て回る。魚を見て話をしていたらレイラは私が思ったことを笑顔でいきなり口に出した。


「なんかさ、葵ちゃんと透付き合ってるみたいだよね!二人とも身長高いしお似合い!」


そうだよね、と思うと同時にその言葉に前にいた二人は振り返る。


「え?そんなこと、ないよ」


「俺、モデルにも劣らないのか。さすが俺」


葵は驚いて困った顔をしてるし透は得意気な顔をしている。本当にそんな風に見えるし頷けるけど、葵は喜ばないしこう言われるのは嫌だろう。しかし、葵の気持ちを知っているのは私だけ。翔太は感心したように言う。


「確かにな。まぁ、見た目は透は良いからな。見た目だけ」


「確かにねー。でもなんかお似合いだよね。ね、由季もそう思わない?」


私に振られてもと思うけど葵は困ったように私を見つめる。ここで同意するのは酷い気がする。私は葵がなるべく傷つかないような言葉を選んだ。


「まぁ、そう見えるかもしれないけど、葵には選ぶ権利があるから透なんかじゃかわいそうでしょ?」


「確かに!透に葵ちゃんは葵ちゃんがかわいそうだし、ありえないね!」


すかさず同意してきたレイラ。上手いこと言えた気がする。透はこんなの気にしないし葵は困り顔だけど傷ついたような表情はしていない。透はそんなことお構いなしに水槽に顔を寄せて自分を見つめていた。


「葵ちゃん美人だから俺も恐れ多いけどさ、俺モデル行けんじゃねこれ?転職するか…」


「透キモ!寒気するわ。真に受け過ぎじゃない?蹴っ飛ばしたい」


「透、気が触れたのか?大丈夫か?」


レイラと翔太は透をバカにしながら遊んでいるけど、私は葵が傷付いた表情をしていないことに安心した。



水族館を回り終える頃にはお昼をかなり過ぎてしまって、車で適当に走りながら軽く昼食を挟んだ。それから近くにあるという足湯に皆で入りに行った。足湯ではやっと葵が私の隣に来て皆と色々と話ながら足の疲れを癒した。


そして、足湯から出てから私達は次の宿に向かう。前の宿でも良かったのにレイラがどうしても行きたいみたいだから違う宿になったけど、そこは少し遠いみたいで、ここからは寄り道せずに向かう。

私は車中ひまわり畑でよく歩いたせいか少し眠くなってしまって居眠りをしていたら宿についた。


今回の宿も風情があって良かった。綺麗だし森林に囲まれていて温泉が期待できそうだ。私達は荷物を置いて、昨日の花火の時間と場所を再確認する。七時時半から始まる花火はここから車ですぐの川辺でやるらしい。夕飯が六時からだから夕飯を食べてから行けば間に合うし、良い時間だろう。


まだ夕飯まで時間があるから早速温泉に入ろうと話してきた遥に私は頷いて温泉に行くことになった。葵は芸能人なので部屋の露天風呂に入ることになったから私達は部屋で別れた。羨ましそうに見られたのは言うまでもなく、何かしてあげないと根に持ちそうだった。

そして風呂に入ってからも遥はテンションが高くて、まだ疲れていないようだった。


「露天風呂広いね!秘境って感じだね!」


遥はいつも元気だなと少し疲れを感じながら思うけど、この温泉ならテンションが上がるのは分かる。


「確かに広いし昨日とはまた違って木に囲まれてて良い感じだね」


外にある露天風呂は回りが木々に囲まれていて神秘的な印象がある。私は首まで浸かりながら外の景色を眺めた。


「ひまわり綺麗だったねー、あー、今日で最後かぁ。帰りたくないなぁ」


遥は残念そうに言った。それは同意見だ。


「そうだねぇ。でもまた行こうよ。皆でさ」


「うんうん、ありあり!超楽しみ!それまではなんとか働きつつ頑張らないと…」


「働いてまた皆でお酒飲んでたらすぐだよ」


「そうだね!由季には今年が終わるまでにいっぱい飲ませないと!」


「え?私だけ?」


遥と笑いながら雑談する。気持ち良くて足をお湯の中で揺らすと疲れがとれるみたいだった。腕の傷は上手く隠せたし見られてもないから少しホッとしていると遥はまた唐突に話し出した。


「由季ー、由季は葵ちゃんの好きな人知ってる?」


「ん?好きな人?」


今ここでこの話題とは正直困るけど遥は何度か頷いてくる。


「今日の朝、温泉入った時に話したんだけど教えてくれなくてさー。本当に気になってたんだよね。あんな可愛いんだよ?超イケメンなのかな相手は…」


「…さぁ?私もそれはよく分かんないかな」


苦笑いしながら嘘をついた。ここで私だなんて言えないし葵が秘密にしているなら私も言わない方が良い。昔の私のような発言に分からなくはないなと思っていたら遥はまた残念そうな声を出した。


「なんだー。由季も知らないのか。葵ちゃん由季のこと大好きだから知ってると思ったのに」


「まぁ、葵は芸能人だからね」


「だよねー。あぁ、気になるなぁ。…由季はいないの?いい人」


「うーん、そうだねぇ…まぁできたら良いよね、できたら」


曖昧に答える。葵のことは言うつもりはない。それに私は恋愛が長続きしなくてそんなに付き合っても来なかったし、長らく付き合っていなかった。友達と遊んでいたら充実していたし、楽しかったからそれで良いと思っていた。


「そっかー。てことは、葵ちゃんだけか恋してんのは!いいなぁ。応援しないとだね!」


「そうだね、それより遥は?」


「私は全然だよー。もう前で本当に懲りたし」


遥は本当にうんざりしたように言った。遥の元カレに関しては本当に最悪な野郎だと思う。


「まぁ、あの彼氏はないよ本当に」


「もう、分かってるから言わないでよ!でも、今考えてもムカつくわ、本当にありえないよねあいつ、私の他にも何人か女がいたとか殺意しか湧かない…」


遥はそれから元カレの愚痴を語りだして私は笑いながら聞いた。話は誤魔化せたし楽しかったけど少しだけ罪悪感があった。

風呂から上がると夕飯まで時間があるから部屋でのんびり休んでから夕食に向かう。食堂に行くと部屋によってテーブルが決まっているみたいで、そのテーブルに着席して出てくる料理を食べた。隣のテーブルには透達が座っていたので距離はあったけど皆で話ながら食べた。

山の幸も海の幸もそれはそれは美味しかった。



そして夕食を食べ終えたのは七時だ。私達は食べてからすぐに花火に向かった。車に乗って花火の場所から近くの駐車場に停めて少し歩くと屋台が見えてきた。お祭りって感じになんだか浮かれてくる。


「お、屋台あるぞ、俺甘いもん食べたいわ」


「私も私も!水飴食べたい!」


「じゃあ、屋台で買って行こうか」


後ろの翔太とレイラに声を掛ける。


「うん!そーしよ!金魚すくいやりたーい!」


「レイラ、帰るまでに死ぬぞ」


「えぇ?それ、まじ翔太。じゃあ出目金にする?」


「出目金も一緒だよ。バカかおまえ」


「え?そうなの?出目金強そうなのに」


二人は何だかんだ屋台が楽しみみたいだ。私は葵が携帯で調べながら歩くのを時折覗いて一緒に見ながら花火が上がる場所を確認した。


「屋台のもう少し先の方で花火が上がるみたいだよ」


葵は嬉しそうに言った。


「そっか。じゃあ適当に屋台で買って、川辺で待機だね」


「うん。奥の方が良く見えるみたいだけどそんなに混んでないから大丈夫じゃないかな?」


「そうだね。ま、とりあえず何か買おうか」


葵は携帯をしまう。場所は分かった。さっき夕飯は食べたけど屋台で各自飲み物やかき氷、甘いお菓子を買って花火が見える場所まで移動して立って食べながら待っていたらすぐに花火が上がりだした。


花火は本当に綺麗で思わず感嘆の声をあげる。レイラは頻りに写真を撮って興奮したようにしていたが皆花火に見いっているようだった。私は久々に花火を見て懐かしさを感じた。昔はよく見に行ったのに大人になってから花火を見ることはほとんどない気がする。


花火に目を離せないでいると隣にいた葵が隣にぴったりくっついてきた。不自然に指で私の指を触ってくる。外ではあんまりスキンシップをしてこないくせに意外だなと思いながら私もそれに少し応えながら顔を向けると葵は恥ずかしそうに笑った。


「花火綺麗だね、葵」


「うん。本当に」


私も笑ってまた花火に目を向ける。何度か花火がまた上がって見ていたけど視線を感じた私はふと葵に顔を向ける。すると葵は私のことを見ていたのか顔をこちらに向けていて目が合ってしまった。葵はそれに慌ててあからさまに視線を逸らして下を向いてしまう。花火よりも私を見ていたのか、少し恥ずかしいけど小さい声で囁いた。


「ちゃんと見てないとすぐ終わっちゃうよ?」


「……うん。…ちゃんと、見てるよ……」


追及はしないけど、葵は赤くなって小さく呟くだけだった。


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