第36話
その後、葵が散々甘えてきたから私は軽くのぼせて大変だった。風呂から上がってベッドで涼みながら休んだおかげで良くなったけど葵は心配しすぎなくらい心配していたからそれを宥める方が大変だったかもしれない。遥は帰ってきてから私の状態を見てそれはそれは笑っていた。
「そろそろ、夕ご飯だから食堂行こーよ!」
私が落ち着いてから遥は荷物を整理しながら言った。もう夕食の時間だ。
「そうだね、夕飯はブッフェなんだよね?楽しみだね」
「うんうん!おすすめらしいよ!ね、葵ちゃん」
「うん。……でも、由季、本当に大丈夫?」
葵はのぼせた私をまだ心配している。私のことには異常に気に掛けたり心配する所があるから仕方ないけど安心させるように笑った。
「大丈夫だよ。もう平気。ほら、早く行こう」
「よーし!!行こ行こ!楽しみ!」
遥に引っ張られるように私達は食堂に向かった。食堂はとても広くて席は特に決まっていないらしく、空いている場所に自由に座って良いみたいだった。席を探そうとした時、先に来て席を取っておいてくれた透達が私達を呼んできたからその席に座った。今日は翔太がいるから気を使ってくれたんだろう。それに、透達も浴衣に着替えている。風呂を堪能したようだ。
「全部取り放題らしいぞ、さっき店員に聞いた!酒は別料金だって」
透は楽しそうに言う。ちゃっかりお酒のことまで気にかけていて少し呆れた。
「そんなの部屋で缶酎ハイとか飲めば良いでしょ?それよりまずご飯だよ、適当に取って食べよう」
私が促すとレイラは目を輝かせて食べ物を見ていた。レイラは旅行のご飯を楽しみにしていたのを思い出す。
「うん!そーしよ!私全部食べたいなぁ、葵ちゃん一緒に行こう?」
「え、うん、良いよ」
レイラは葵を引っ張って料理の列に行ってしまった。相変わらずレイラはせっかちである。残された私達も適当に料理を取りに行った。海鮮に肉料理、野菜やフルーツ、デザートも豊富で色とりどりで料理は本当に美味しそうだった。料理人が鉄板で目の前で焼いてくれることもあり、料理を取りに行くだけでそれは楽しかった。
「ねぇねぇ、男風呂はどうだった?」
料理を取り終えて食事をしながらレイラは話し出した。本当に沢山持ってきたレイラは小さいくせによく食べる。透達も食べながら答えた。
「景色サイコーだったな、翔太」
「あぁ、部屋のも良かったけど大浴場はサウナが良かったな」
「なーんだ、やっぱ女風呂と一緒かぁ。サウナはやっぱ良かったよね、私も入ったよ!死にかけたけど!」
笑いながら言うレイラに葵は少し驚いていた。
「レイラちゃん、それ、大丈夫だったの?」
葵は心配そうにしている。だけどレイラはけろっとした表情で答えた。
「平気平気!牛乳飲んだら復活したから!ダイエットのために頑張ったよ」
「そっか、びっくりしちゃった」
「私は頑丈だから大丈夫だよ!それより由季だよ、由季。由季部屋のお風呂でのぼせてんの、笑えるよね」
よりによって透と翔太に言うなんて。何て言われるやら、レイラのにこにこ顔とは違って二人はおもしろそうにニヤニヤしている。私をからかいたいみたいだ。
「由季、興奮でもしてたのか?」
「はぁ?透じゃないんだからしないから」
透の馬鹿げた問いに私はバッサリ切った。
「あ、あれじゃね?ちょっと酒飲みながら入ったとか」
「そんな酒乱じゃないから」
翔太も馬鹿みたいなこと言ってきて呆れる。それでも二人は怪しがってニヤニヤしている。あれはほぼ葵のせいだけど葵には言わないように言ってある。言ったら話がややこしくなるだけだし私達のことは誰にも言ってない。それに、甘やかしていた私にも非がある。
「葵ちゃんもせっかく部屋で休んでたのに由季がのぼせるから全然休めなかったでしょ?」
そこに正論を普通に言ってきたレイラ。レイラはたまにちゃんとしたことを言ってくる。だけどそれに葵は明らかに動揺していた。私はそれが心配だった。葵は隠し事が苦手だから言ってしまうかもしれない。
「え?それは、別に、大丈夫だよ。由季がのぼせたのは……あの、…お湯?熱かったし、外も暑かったから、仕方ないよ」
「それでもだよー!でも由季がそんなの珍しいよね?由季っていっつもしっかりしてるからそんなことないと思ってた!」
「私にだってあるよ、それくらい」
葵が上手く誤魔化せたのにホッとしながら料理を食べる。あれを言われたらレイラの質問攻めにされそうだったから本当に良かった。それから私達は美味しい料理を食べつつ、宿や今日行った場所の話をして盛り上がった。
ご飯を食べてから寝るまでは、各自自由時間になる。皆は遊ぶスペースがあるからそこで定番の卓球をしようという話をしていたが、私はのぼせたこともあったし少し疲れていたので先に部屋に帰った。葵も心配して付いて来ようとしていたが、大丈夫と言い聞かせて置いてきた。せっかく旅行に来たし葵は皆となんだかんだ仲良くやれている。皆、社交性があるから仲良くなりやすいけど皆とはもっと仲良くなってもらいたい。
部屋に帰るとベッドに横になった。柔らかくて気持ちが良い。私は目を瞑りながら今日のことを考えた。考えるのは葵のことばかり。お風呂で葵の気持ちを聞かされて、早く応えないとならないと焦っていた。それに、今日は本当に今までで一番意識させられてしまった。あんなことされて本当に動揺してしまった。私は葵が本当に好きになってきたから動揺したのか、それともただ葵が綺麗で可愛いから動揺したのか、分からない。分からないけど早く答えを出したかった。
少し横になってテレビを見ていたら、部屋をノックする音が聞こえた。誰か帰ってきたのか、ドアを開けると、それは葵だった。
「お帰り、先に帰ってきたの?」
葵を中に入れて一人なのを確認するとうん、と返事をした。
「卓球難しくて、疲れちゃったから」
「そっか。皆まだ卓球やってるの?」
「うん。でも部屋で少し飲みたいねって言ってたから、もうすぐ来ると思う」
やっぱり飲む気なのか、透はしつこすぎる。私はベッドに座って時計を確認する。まだ九時だ。内心ため息をついていたら、葵は私の隣に座って少し寄り掛かってきた。
「由季、疲れちゃった?」
「ん?まぁ少しだけね。楽しかったけど」
「そっか。あんまり、飲みすぎちゃダメだよ?透君がお酒持ってくるって言ってたから」
「あぁ、大丈夫だよ」
旅行中はそんなに飲む気はない。葵も心配するからここは大丈夫だ。笑って答えるも葵はおもむろに私の手を握ってきた。また甘えてきたのかと思いながら少し笑いながら注意するように言った。
「ダメだよ。もうすぐ皆来るから」
「……ちょっとだけだもん」
「今日はそれで私のぼせたんだけど?」
「それは……ごめんなさい…」
少し表情を暗くして謝るけど、そのまま横から抱きついてきた。全く甘えたがりで困ってしまう。皆に見られたらどうするのか。私は仕方なく体の向きを変えて葵を正面から一回だけ抱き締めると腕を離した。だけど葵は私に抱き付いたまま離れない。
「終わり?」
「終わりだよ。お風呂でやったでしょ?」
「……今日は一緒に寝れないから、もっとくっつきたい」
「えぇ?だって今日はキスもしたでしょ?」
「そうだけど。………けち」
「そんなに拗ねないでよ?」
不満そうな葵が可愛くて笑ってしまうけど頭を撫でたら満足したのか渋々離れた。するとまたノックの音が聞こえる。皆来たようだ。話し声も聞こえる。まだ少し拗ねてる葵にしょうがなく頬にキスをしてからドアを開けに向かった。皆を中に入れ、居間のテーブルに缶のお酒と、どこから持ってきたのか分からない瓶の日本酒を置いた透。皆少し疲れているようだったけどレイラは座って大きく息を吐いた。
「はー、卓球が灼熱しすぎた!」
「レイラがむきになるから終われなかったんだろーが!」
「だって透に負けるなんて悔しいじゃん!人生の汚点だよ!私には!」
「はぁ?まぁ、とりあえず飲もうぜ」
皆が腰掛けて適当に酒を飲み出す。私の隣には葵がすぐに座って場所を確保してきたので、笑いながら葵のために買ったであろうジュースを渡した。
「卓球お疲れさま。それで、この日本酒はどこで買ったの?」
気になっていたことを聞いたら透は嬉しそうに話した。
「売店だよ!下の。なんか有名らしいぞ?うまいんだって」
私はため息をつきながら苦笑いをすると透は早速日本酒を開けて部屋に置いてあったコップに注いでいる。こいつのぶれない所はさすがだ。
「ねー、それよりさ、明日の予定だよ!明日の!」
レイラは缶のお酒を飲みながら楽しそうに話し出した。
「明日はひまわり見て、で水族館行って、足湯!その後もう一ヶ所くらい回りたいけど、どこが良いかなぁ?」
「んー、城も滝も見たしなぁ、後なんだ?」
翔太はレイラから貰ったであろう雑誌を読みながら唸っている。私は車で見てた雑誌の内容を思い出した。
「んー、お寺とか?」
「お寺ー?由季、つまんなくない?」
「えー、じゃあ何?」
「じゃあ、近くの居酒屋とかで飲んでも良くね?」
皆で考えていたら透はまたくだらないことを言い出した。旅行なのに何を言っているのやら、レイラは心底ウザそうな顔をした。
「はぁ?そんなに飲みたいなら川行けば?川の水でも飲んでなよ。まじ話にならないんですけど」
「俺は魚かよ。良いじゃねーかよ」
そんな透をレイラも呆れながら睨んでいたが透は気にせずに皆に日本酒を配る。バカだなと思いながら一口だけ飲むも結構美味しくてびっくりした。酒だけはこいつはよくやる。翔太も同じように思ったのか飲んで驚いている。
「これうま!」
「だろ?!俺の目に狂いはなかった!」
「そんなことより明日の予定だよ!ちゃんと考えて!」
レイラの声に皆また唸りながら考え出す。ちびちび日本酒を飲みながら私も考えているとふと葵が思い出したように言った。
「あの、花火はどうかな?宿から車ですぐだった気がするんだけど…」
「それ、あり!!さっすが葵ちゃん!」
「うん、葵よく思い付いたね」
葵の発案にレイラを顔を輝かせて満足したように頷く。私もそれは楽しみだ。それに花火が丁度見れるなんてかなりラッキーだ。葵は嬉しそうに笑った。
「雑誌に載ってたから」
「葵ちゃん本当に救世主!神!もうそれで決定するから、ちょっと詳しく教えて!」
それからレイラは興奮したように詳細を葵に聞いていた。
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