第34話
それから有名なお城を見に行って町並みを見たり、皆で写真を撮って途中で甘い物や手軽く食べられる物を買って食べ歩いた。
葵とは写真を撮ろうと言ったが滝を見た時に少し話しただけでほとんど私は透といることになった。葵はレイラと翔太に捕まって芸能話をしていたからだ。私にはよく分からないけどレイラと翔太はそういう話は大好きなのでこればかりは仕方ない。それにレイラは葵と仲良くしたいみたいだったから良かった。ていうか本当に仲良いみたいで安心した。ずっとレイラが引っ張り回してはいたが葵も嬉しそうだったからたぶん平気だ。
それに比べて私はというと、透と飲んだ時の話や次に飲みに行く時の話、それと透の本当にどうでもいい近状を聞かされたりしていて、透と話すと大体こうなのでこれも相変わらずだなと笑った。
食べ歩いて近くのベンチで座りながら少し雑談していたら日が落ちてきたので宿に向かうことになった。もうすぐチェックインの時間らしい。車に乗り込んで宿について話していると、ここから三十分位で着くみたいだ。運転を翔太が代わって目的地に向かう。その途中でレイラは眠くなってしまったみたいで私の肩に凭れて寝てしまった。ずっとはしゃいでたから疲れたんだろう。私はそのまま寝かせてあげることにしてあげた。
「レイラが寝ると本当に静かだな」
透はバックミラー越しにレイラを見ながら言った。車内はずっとレイラが煩かったから本当に静かになっている。
「本当にね。楽しみすぎて疲れたみたいだね」
「昨日からずっと楽しみにしてたから」
葵は笑いながらレイラをフォローしてるけど葵も疲れていそうだった。こんなハイテンションを相手に疲れないやつはいないだろう。葵の面倒見の良さにありがたく感じる。
「そうだね。昨日、私にわざわざ電話してきたくらいだし。葵も少し寝てても良いよ?疲れたでしょ?」
「そうなんだ。…私は平気だよ」
「なら良いけど眠かったら寝て良いからね?」
葵はうんと頷く。今日は午前中仕事だったし早く宿で休んだ方が良いだろう。少し心配する。
「葵ちゃんレイラの相手疲れた?」
翔太が前を見ながら話す。
「え、いや、大丈夫。楽しかったし」
「俺でも疲れるのに、今日は保護者が野放しにしてたからな…」
バックミラー越しに私をちらりと見てきた。え?私なの?抗議するような目に慌てる。
「私?」
「由季しかいないだろ」
「いや、だって葵と楽しそうだったし、レイラも葵と仲良くしたいって言ってたから…」
「それでも少しは気に掛けてやれよ。最近由季が構ってくれないって、こないだ俺を潰しに掛かってきたんだぞ」
この様子だとかなり飲まされて大変だったのが伺えた。
「あぁ、…そういうこと。ごめんごめん、分かってるよ」
以前レイラに言われたことを思い出す。そういえばあれは凄く機嫌を悪くしていたし釘を刺されていたっけ。翔太もレイラから散々聞かされたんだろう。こんな所まで被害が出ていて申し訳なくなるしレイラも本当に寂しかったんだなと罪悪感が湧く。
「保護者頼んだぞ」
「分かってるよ。大丈夫だから」
翔太からも釘を刺されて私は気まずく感じながらもレイラを起こさないように気を付けた。宿に到着して各自お金をレイラに支払ってチェックインを済ますと夕飯は七時かららしく、まだ時間があった。七時まで自由行動ということでとりあえず部屋に向かう。透と翔太、私とレイラと葵で部屋を二つ取っている。部屋はとても綺麗で景色も良くて最高だった。
「うわー、綺麗だね。ベッドも広いし」
荷物を起きながら部屋を見渡す。窓からは森林と川が見える。本当に良い宿で安心した。遥はこういうとこは抜け目がない。
「でしょでしょ!!結構良いとこなんだよ?ゆっくり寛いでね。歩いて川まで行けるし近くに商店街みたいなのもあるから行ってきても良いよ!」
「そうなんだ。それは良いね」
遥も早速窓を開けて外を見ている。部屋の奥に進むとお待ちかねの部屋付きの露天風呂があった。
「うわー、露天風呂最高だね。テンション上がるわ」
「わ、本当だね」
写真以上の風呂にとても満足する。葵も一緒に見てきて嬉しそうだった。
「大浴場も結構良いらしいよ?私時間あるからそっち入ってくる!由季と葵ちゃんは来る?」
遥は荷物を置いてお風呂の準備をしている。気も行動も早い遥に驚くけど私は断った。ちょっと疲れたし、古傷や以前ストーカーにやられた傷が薄く残っているのをあまり見せたくなかった。
「私は疲れたから少し休んでようかな」
「そっか、葵ちゃんは?」
「え、わ、…私も部屋で休んでる」
「オッケー。じゃあ行ってくるね!」
遥は風のようにお風呂のセットを持って嬉しそうに足早に行ってしまった。そして残された私達。久々に葵と二人きりになった気がする。葵は荷物を置いてベッドに座った。せっかくだし葵は前から楽しみにしていたから部屋の風呂を勧めた。
「部屋の露天風呂入れば?楽しみにしてたでしょ、葵」
「あ、うん。…入ろうかな。……由季は?入らないの?」
「私は、ちょっと寝ようかな?疲れたし」
適当に理由をつけてベッドの上に寝転がった。ふかふかで気持ちが良い。横になっただけでもう眠気がやってきた。本当にこのまま寝てしまおうか。そう思って目を閉じかけた時、葵が話しかけてきた。
「由季」
「ん?」
「一緒に…入らない?」
「え?」
驚く私に葵は不安そうにしていた。一緒に入るって葵と?少し理解できない。葵は芸能人だし裸とか見て大丈夫なの?それに傷は薄いけど見られたくない。私は内心困りながら色々考えるも、とりあえず笑って答える。
「一人で気兼ねなく入ってきなよ?一人の方が気楽でしょ?私は後で入るから」
「…一緒に……入りたくない?」
「そうじゃないけど…ね、眠いし」
こう言われると本当に困る。それにつぶらな瞳をされると断りづらいしそもそも私は葵に弱いからやめてほしい。だけど葵は心底残念そうに呟いた。
「一緒に、入りたかったのに…」
これにはさすがに負けてしまう。葵は素なんだろうけど本当にやめてほしい。こんなこと言われて断るやつがいるのか?私は無理だ。葵がどれだけ楽しみにしていたかは知っていたし、思い出を沢山作ろうと約束してしまっている。ここは腹を括るか。私は仕方なく起き上がった。
「わかった。…いいよ。じゃあ、入ろっか?」
「…うん!ありがとう由季」
そして部屋の露天風呂に入ったは良いものの、私はとても緊張していた。なぜなら葵が綺麗過ぎるからだ。初めて葵の裸を見たけど本当に綺麗だった。程良い肉付きにスタイルの良さが際立って、出るとこは出て、締まるとこは締まっている。それに肌は本当に白くて綺麗でシミや傷一つない。さすが芸能人といった所か、絵に描いたような綺麗な葵に本当に緊張した。この美貌を前にして、私は服を脱いでから動揺していていつもみたいに話したりできなかった。
よく考えたらこんなに綺麗な人に好かれているなんて信じられないことだ。綺麗過ぎて目が離せなくなる。髪を上げているだけで色っぽくて、火照った顔で笑う葵にどぎまぎする。華奢なのに胸は大きくて、くびれがあって細くて、なんだかチラチラ見てしまう。葵の女性らしさを目の当たりにした私は極力景色や違う所に視線を向けて、葵を見ないようにした。ジロジロ見たら変に思われるし緊張してしまって私がどうにかなりそうだ。風呂に一緒に入ったくせにまともに会話もせずに私達は湯船に浸かった。
葵はそんな私の隣に少しだけ隙間を開けて座ってきた。それにますます緊張する。いつもなら緊張しないしもっと距離も近いのにどうしたんだ。そもそも葵に対して自分の体とかが色々話にならなさすぎて恥ずかしい気持ちもある。私は所詮一般人に過ぎないのだ。
「………」
「………」
黙る私に葵も何も話さないから変な沈黙が生まれる。どうしよう。緊張しながら色々考えるけど隣にいる葵のせいでそれどころじゃない。
「由季?景色、すごい綺麗だね」
「え?あ、うん。そうだね」
「由季、あの、さっきから、…どうかした?」
いつもなら私が話しかけるのに、葵に話しかけられて心配までされてしまった。湯船に入る前から私が挙動不審であからさまに違う方向を見ていたりするから葵も不審に思ったんだろう。仕方ないから観念して葵の方に顔を向ける。ほんのり赤い顔は色気を放っていて私はまた緊張した。
「なんでもないよ?景色綺麗だし、なんか、浮かれてたっていうか…」
「そっか、良かった。…あんまり気に入らなかったかなって、不安だったから」
誤魔化す私に葵は控えめに笑ったけどいらない心配をさせたようだ。慌てて否定した。
「そ、そんなことないから。本当に色々考えてくれてありがとね?」
私が笑いかけると葵も笑いかけてくれたけど、おもむろにお湯の中で私の手を絡めて握ってきた。そして距離を詰めてきたと思ったら肩に葵の柔らかさがダイレクトに伝わってきて動揺する。いつもは密着しているのに私はどうしたんだ。私は変態か。裸を見て触れられただけで何を意識してるんだ。いつものような葵の行動に冷静になるよう心掛けていると葵が口を開く。
「今日は、あんまり一緒にいれなかったね」
「そ、そうだね」
「…ねぇ、透君と、何話してたの?楽しそうだった。それに………距離が、近すぎるよ」
握る力を強めて葵はいつもの質問をしてきた。今日は一緒に行動してなかったけど葵からの視線はなんとなく感じてはいた。だけど本当に私をよく見ている。僅かばかり嫉妬をさせたようだ。
「あー、そうかな?でも、飲みに行った話とかいつ飲みに行こうとか、お酒の話ばっかりだったよ」
「本当にそれだけ?あとは?全部教えて」
「え?…んー、ほとんどそれだったよ?あとは、透のどうでもいい話とか今日見たお城の話とか食べた物の感想とか、……あ、葵の話?もしたかな」
思い出しても思い出せないくらいどうでもいい話もしていたけど今日のことを振り返った。葵は自分の話題が出るとは思っていなかったみたいで、少し驚いている。
「………私?」
「うん。ドラマの葵が綺麗だったねって。凄い美人だから本当に友達なのかって疑われたよ」
「…酷い。友達なのに」
少し怒ったような口調に笑いながら和ますように答えた。冗談も混じっていたのに葵にはあまり通じない。
「まぁまぁ。でも本当に綺麗だよ?それに、細くてスタイルも良いし、何かこっちが緊張しちゃうよ」
「…由季も、緊張するの?」
照れ隠しも含んでいたのに葵は可愛らしく首を傾げて聞いてきた。逃げられなさそうな質問に私は苦笑いしながら答える。この状況でしないやつはいないだろう。
「そりゃ、するよ。さっきは景色のせいにしたけど、葵が綺麗過ぎて緊張してさ、なんか慌ててたし。葵本当に綺麗だから目のやり場に困るというか、……今も緊張するけどね」
正直に言ったら葵は目線を逸らしてしまった。
「照れるよ…」
「え、あぁ、ごめん」
照れた葵は私の肩に頭を預けてきた。握っていた私の手を片方の手で包むように握られる。この状況で緊張するからやめてほしいけど、今日は一緒にいられなかったから好きなようにさせてあげる。
「私のこと、意識…してくれたの?」
葵のいきなりの確信を突くような発言にドキッとして私は葵を見た。その目は期待をしているようだった。
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