好きをこじらせて

风-フェン-

第1話



「おぇぇ、、はぁ、、げほっげほ、はぁ」



よくわからない場所で吐き気が抑えられなくて吐いてしまった。私、羽山由季は我慢ができなくて駅からすぐの道端の側溝で膝をついて吐いた。幸い通行人は深夜一時を過ぎているためいない。


今日はバーで飲みすぎて終電前に帰ったつもりが起きたら乗った所から三駅ほど進んだ所で駅員に起こされた。

つまり行って戻ってきたらしい。酒はわりと飲める方だが飲み過ぎるとすぐにこれだ。反省しても改まることは少ない。


「今日はこの辺で野宿か……」


回らない頭で考えながらポツリと呟く。酔っぱらいとは不思議なもので普段ではあり得ないような考えがひらめいて納得してしまう。もう体も疲れたし一休みしようか、でもその前にもう一回吐いてしまおう。胸に込み上げる吐き気に胸を押さえながらまた戻していたら背中を誰かに優しく擦られた。


「あの、大丈夫ですか?」


「げほ、げほっ…………はぁ、はい、すいません、大丈夫です……?!」


心配した柔らかい可愛らしい声に顔をあげたらとても綺麗な女の人が心配したような顔をして見ていた。正直面食らってしまった。モデルか女優なのかと思うほど整った顔立ちは少し幼さがあるものの可愛らしくて綺麗で、そして茶髪のパーマをかけているのかふわふわとしたロングヘアがとても似合っていた。

こんな美人にこんな様を晒すなんて。吐き気を忘れて急に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「あの、すいません汚くて。もう落ち着いたし本当大丈夫ですから私のことは無視して行ってください」


「いや、そんなことできませんよ!これ、飲んでください。ちょっと、私が飲んじゃったけど……」


彼女は慌てたように鞄から水の入ったペットボトルを渡してきた。こんな可愛いのになんて良い人なんだろう。吐いて顔も化粧が落ちて最悪な私に、本当にありがたいがまたしても申し訳ない気持ちが勝った。


「いや、でも、本当に……」


「いいから!あげますから!それに顔も……ちょっと動かないでください」


体制を直して地面に座った状態の私にペットボトルを押し付けるとまた鞄をあさって次は可愛らしいタオルを取り出して中腰になって私に近づいてきた。

なに?そう思ったのも束の間、優しく目元、そして吐いて汚れた口許を拭かれた。優しすぎるその行為に頭が理解できない。私は思わず彼女の手を強引に掴んだ。小さい悲鳴をあげてタオルを落としていたけど彼女の行動に本当に驚いて本当に焦った。この人どれだけ良い人なの?


「なにしてるの?!」


「え、なにって……拭いてる?んですけど……?」


「いや、あの、私ただの酔っぱらいだし汚いのにこんなことしてタオル汚れるし、てゆうかこのタオル買うから!それに新しいの買ってあげるから!今手持ちあんまりないからそんなにお金あげられないけど……」


回らない頭を働かせながら鞄からお財布を取り出して中を探っていたら次は彼女が手を掴んできた。その顔はさっきの私と同じで驚きと焦りが伺えた。なぜ?


「大丈夫!大丈夫ですから!こんなの別に気にしませんしお金なんか大丈夫です!」


「いや、私が気にするから!とりあえず千円しかないけど受け取って!あなたの優しさに助けられたから…」


あわあわしている彼女の手を邪魔されないように握って千円とりだして手に握らせると力をこめて貰えません!と否定してきた。だけど華奢な細い体の通りな彼女の力は私にはそこまで意味をなさなかった。こんな良くされてるのにここは譲れない。意地でも譲れない。


「良いから!本当ありがとう!こんな良い人によくされて私感激したよ。あなたすごい綺麗で可愛いのにこんな汚い私に本当ありがとう、汚いもの見せて本当すいません」


ようやく立ち上がって、落ちたタオルを取ってお礼をしたら少し照れたように目線を逸らしていたが手に握らされた千円札をおずおずと私に向かって差し出してきた。綺麗な見かけによらず強情らしい。


「いや……あの、私……その……本当にいらないので……そんなつもりで声…かけた訳じゃないし……」


「いやだめ!それはお礼とタオル代だから!もっとあげたいけど今お札なくてカードしかなくてさ。あ、このタオルは本当申し訳ないけど捨てた方が良いし、てゆうか忘れてたけどもう夜中だから早く帰りな?あなた可愛いんだからこんな時間に歩いてたら襲われるよ?」


そういえば忘れていた。ここは名前は聞いたことはあるけど知らない場所だったし私はここら辺で寝るけどこの人は早く帰してあげないといけなかった。彼女は無理矢理渡した千円を渋々しまい怪訝そうに顔を覗き込んできた。


「あの、私より…あなたの方が心配なので、家はここら辺なんですか?」


「あ、私は終電なくなったからここら辺で寝て始発で帰るから大丈夫!」


にっこり笑って答えたら彼女は心底驚いたような顔をした。何か失礼なことを言ったのか?回らない頭ではあまり考えられない。


「えぇぇ?!何言ってるんですか?こんな所で寝たら危ないです!あなたも綺麗だしこんな道端で寝てたら襲われます!!」


何やらもの凄い剣幕で声を荒げている。どうしたのだろうか、でもこんなに美人だと怒っても綺麗だし可愛いし羨ましいなぁと呑気に思いながらまた道端に座った。私はそういえば疲れていたんだ。もう体は限界だし眠気もある。まだ冬で寒いけどここら辺で寝ても死にはしないだろう。それに道で寝た経験もある。


「大丈夫、前に畑とか道でもたまに寝てたから。漫喫かホテルに行きたいけど、ここどこか分かんないし疲れたからもうここで寝るよ。今日は本当にありがとう」


「いや、何言ってるの!?ダメです!!昔はたまたま大丈夫だっただけです!!いいから立ってください!私の家近いのでうちに来てください!」


「え、いいよ。こんな見ず知らずの汚い女にそんな、それに今お金がカードしか……」


「いやもうお金はいらないですから!もういいから早く立ってください!」


「いや、もう本当に勘弁して。大丈夫だから。……申し訳ないけど、もう私疲れたから本当に寝かせてくれないかな?」


怒っているけどもう眠いのだ。横になろうとすると焦って私の体を起こそうと引っ張ってきた。


「あの、だめです!本当に、だめです!」


「だから大丈夫だよ、少し寝て元気になったら場所移動とかするから」


「そういう問題じゃないです。ほ、本当に寝るなら、えっと、あの、…私も一緒にここで寝ますよ!?」


「え?それはだめ!絶対だめ!行くからやめて!」


本気で怒る彼女に私は驚いて即立ち上がった。さっきまで怒っていた彼女はそれを見て安心したように笑った。笑った顔も可愛いくて羨ましい。彼女は良かったと小さく呟いて歩けますか?とまた心配そうな顔をした。なんだか表情がよく変わって可愛いらしいけどまた歩くのかと思うとさらに頭がガンガンしてくる。これはしんどいな。


「あの、腕組んでくれないかな?悪いんだけどもう真っ直ぐ歩けないし歩くの辛いんだわ」


「え?…………うっうん……どうぞ」


明らかに動揺していたが素直に頷いて手を差し出してくれた。少し初な態度に笑えたが酔っぱらいにはありがたかった。本当に人の優しさが身に染みる。この人良い人過ぎて感謝しかない。


「あ、手は綺麗だから安心してね」


「そ、そんなの気にしてません」


なぜか顔が赤い感じするけどこの人も飲んできたのかな?自分が酒臭すぎてよく分からないけど細い腕にしがみつくように腕を組んで転けないように少し凭れながら気を付けて歩いた。

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