第四章 捜査開始  ―神狩司―

 九月十三日 午後八時


 ここは「陽菜警察書」。文字通り陽菜町にある警察署だ。

 しかしその規模は、一つの町の警察署にしては随分と大きいものだ。

 何も不釣合いというわけじゃない。この陽菜町が大き過ぎるだけだと注釈を入れておこう。その広さ、なんと総面積八百二十五平方キロメートルだ。

 広さのイメージがよく掴めない、と言う人には「東京ドームが一万個余裕で埋まる広さ」だと言っておこう。

 広いだけでなく、町には様々な施設が充実している。学校、病院は複数あるし、鉄道、港に始まり、大型デパートや様々な飲食店にレジャー施設、ついこの間は遊園地まで出来たそうだ。

 どこへ行っても活気のある、我が故郷ながら素晴らしい町だと思う。

 しかし俺は、そんな素晴らしい町の警察署の一階の休憩所で、冷め切ったコーヒーを見つめてボーッとしていた。


「どうしたんですか? 神狩さん」


 そんな俺の様子を見て、部下の一人が話しかけてきた。

 神狩とは俺の名前だ。「神狩かがり つかさ」なんて、なんだか偉そうな名前の人間だが、俺はあくまでただの平凡な刑事だ。


「ああ、藤崎か……」


 この部下の名前は藤崎ふじさき 貴志たかし。ひょろりとした体格でなんとも頼りなさそうな男だが、仕事を確実にこなす力は優秀だ。どんな仕事も、最終的にはこなしてみせる。

 要は頭のキレが良いのだ。俺はそういう点を評価して、捜査の際は一緒に行動することが多い。

 ちなみに、なんだか素っ気無い返事になったのは、こいつに話しかけられたくないとかそういうことではなく、俺の精神面の問題だった。


「なんだか、やる気無いですねぇ」


「やる気? いや、やる気はあるんだがな。……目の前であんな物を見せられちゃなぁ」


 俺は、休憩室から少し先にある部屋を指差しながらそう言った。

 その部屋には「宗教団体ゴッド特別捜査本部」と書かれた看板が掛けられていた。

 しかしその看板は今まさに、外されて運ばれようとしているところだった。


「捜査本部ですか……。神狩さん、相当入れ込んでましたもんね」


「ああ。あの教祖はまだ何か隠している。その正体を突き止めないまま本部が解散なんて、上の連中は何を考えてんだ?」


「自分が思うに、何も考えてないんじゃないですかね?」


「お、意見が合ったな。俺もそう思う」


 ハハ、と力なく笑ってから、俺は冷めたコーヒーにようやく口を付けた。

 ――まったく、本当に訳がわからない事件だった。


 宗教団体ゴッド。その名を聞けば誰もが縮み上がる程の、有名な犯罪組織だった。本人たちはあくまで宗教団体だと謳っていたが、あんなに堂々と犯罪行為を繰り返されたら説得力なんて欠片も無かった。

 そしてその犯罪者たちの言い分がまた意味不明だった。

 いざ実行犯を捕まえてみても、そいつらは口を揃えて「なぜそんな事をしたか分からない」と言い始めた。

「教祖にそそのかされた」とか「我らが信じる神のために」とか言うならまだ分かる。理解はしたくないが、意味は通る。なのにヤツラは、その理由すら分からないと言い出すのだ。

 それだけじゃあない。更にヤツラは、ゴッドの教祖が誰かすら分からないと来たもんだ。

 そんな状況で、捜査もどん詰まりになってしまったある日、事件は急速に解決した。その解決の仕方すら、またも意味不明だった。


 ゴッドの教祖自らが自首してきたのだ。「私が信者たちを操っていました」と言ってこの警察署に現れたその男は、なんとご丁寧に宗教団体を解散させてから来たらしい。

 事実、そいつが現れてから、ゴッドの活動はピタリと止んだ。だから警察もその男を教祖だと断定したのだ。


 その時点で事件は解決。そこまでは良いのだが、問題はその教祖だ。

 そいつは警察の取り調べに対して、全て意味不明な返答を返した。

 マインドコントロールの方法を聞いても「神の力だ」と言い、なぜそんな宗教団体を作ったのか聞いても「神のために」と答えた。しかもそいつに嘘を言っている様子は無く、それ以上の事は何も喋らないのだ。

 挙句の果てに、自主の理由は「神に見放された」だとさ。

 しかしその話が妙に真実味を帯びてやがるもんで、俺まで変な影響を受けちまって……、昨日は散々な目に合った。


「そういえば」


 そう言って、藤崎が急に話を切り出した。


「昨日の神社巡り、どうだったんですか?」


 また、嫌な事をタイムリーで聞いてくるなこいつ。わかっていて聞いているんじゃないかと思うくらいのタイミングだ。


「ちょうど今、その事を考えてた所だ」


 ――ちょうど、後悔してたところだよ。なんであんな馬鹿な真似しちまったのかね、俺は。


「収穫なしだ。そりゃそうだよな。神だの何だのが本当に関わっていたら、俺たち警察はお手上げだって話だ」


 実は俺は昨日、教祖の野郎の言葉を上辺だけでも信じてしまって、神社巡りなんて事をやっていた。神というなら神社に関係があるだろう、なんて安易な発想で動いたのが失敗だ。あちこちの神社を回って、何か証拠は無いかと嗅ぎ回った結果、全て無駄足に終わってしまった。


「あれ? でもなんだか妙な子供が居たって昨日チラッと言ってませんでした?」


「ああ、いや。言葉が足りなかったな。『比較的』妙な子供だ。っていうかよく考えてみたらよ、あの年齢なら警察ってだけでビビっちまうのもしょうがないんだよな」


「そうですね。っていうか大抵の市民は、警察だと言われたら驚きますよね」


「そうだよなぁ。なのに、まで使っちまった。悪い事したぜ」


 例の手法とは、俺が個人的に気に入っている捜査の際の常套手段だ。

 なにも難しい事じゃない。ちょっとでも怪しい奴には、「俺はお前を疑っている」という姿勢を見せる。それだけだ。

 もしその相手がシロでも、少し嫌な奴だと思われるだけ。しかし相手がクロなら確実に何かアクションがある。

 疑われていると思った相手は、ほとんどの場合が焦って自滅する。しかもそれは自分に自信がある奴ほど顕著に現れるもんだ。つまり、捜査が迷宮入りする様な、難しい事件の犯人ほど、この手法は有効だ。


「あれ、端から見たらものすごく性格の悪い人間にしか見えませんけどね」


「だから普段は自重してるよ、さすがに。多分、俺も焦ってたんだろうな」


 そう言って俺は、今日何度目か分からないため息をついた。

 その時、休憩室の前を若手の刑事と中年の警部の二人組が通りかかった。その二人には興味は無かったのだが、二人がしていた会話が少し気になったので、聞き耳を立ててみた。


「まったく、変な事件ですねぇ」


「本当だよ……。やっぱりあんな事件報道するべきじゃなかったんだ」


「ああ、やっぱり警部もあの事件の影響だと?」


「そういう事だろ。供述が似すぎてる。もしかしたら、犯罪者たちの間に『覚えていない』と言えば釈放される、みたいな不文律でも出来てしまったのかもな」


 そこまで聞いて、俺は目が覚めたような気分になった。次の瞬間には、立ち上がってその二人に詰め寄っていた。藤崎が何事かと驚いていたが、そんな事は俺には関係なかった。


「今の話、詳しく聞かせてください」


 さすがに相手が警部なので俺も敬語になる。

 しかし向こうは俺の顔を見るや否や、いかにも迷惑そうな顔をして「キミには関係ない」 と一言だけ言って立ち去ろうとした。


 ――逃がしてたまるか。

 俺はその二人の前に入り込み、道を塞ぐように立ち塞がった。

 するとその警部は、不機嫌な顔を隠そうともせずに言った。


「何の真似だね?」


「捜査に協力できない人間は、犯罪者と同等だと言うのが私の持論です。犯罪者を逃がす謂れはありませんから」


 ここは少し強気に出る。そうでなければこの会話はすぐに断ち切られてしまう。まずは相手を怒らせてでも会話を続ける事だ。


「キミの管轄では無いはずだ、神狩刑事。出すぎた真似はよせ!」


 予想通り、警部は激昂して食いかかってきた。なぜかこの年齢の人間は簡単に激昂する傾向にある。そういう意味では扱いやすい、とも言えるな。


「ゴッドに関係する事件とお見受けしましたが、それでも関係ないと?」


「ゴッドなど関係ない! 何を言っているのかね!?」


「関係無いかどうかは私が判断します。今は話だけでも」


「うるさい! 本部は解散し、ゴッドの事件はもう終わったんだ! なぜ蒸し返そうとする!?」


 ――なんだ? 今の発言、少しおかしいな。


「……何か、ゴッドの事件を蒸し返したくない理由でもあるのですか?」


「…………。そんなものは無い!」


 今、明らかに間があったが、そんな事は気にしていられない。


「理由が無いなら、話を聞かせてください。それによって貴方に不利益が生じる事は無いように思いますが……?」


 その言葉を聞いて、警部は何かを考えているような、機嫌が悪いような、なんとも微妙な表情をして俯いた。そしてすぐに、大きな溜息をついてから顔を上げた。


「話だけだぞ。それを聞いたら元の業務に戻ると約束しろ」


「約束します。そして、ご協力に感謝します」


 そう言って俺は軽く会釈する。こんな状況でも感謝の意を伝えるのは当然だ。

 警部は軽く咳払いをした後、事件についての話を始めた。


「カザナミデパートに火災があったのは知っているな?」


「はい。先ほどから関係各所が騒いでいますね」


「その火災が、どうも放火だったらしい。……放火というか事故というかは微妙な所だが、監視カメラの映像と、その時の客の証言から、明らかに怪しい人物を複数名捕らえた」


「明らかに怪しい、とは?」


「そいつら、デパートに灯油を撒いてたらしい。ポリタンクに入れたそいつを、いきなりぶちまけたのだそうだ」


「……なんですか、それ。そんなの怪しいどころの話じゃ……」


 そこまで言って、俺も気がついた。さっき聞こえた話から察するに、もしやそいつらは――


「察したようだな。その通りだ。灯油を撒いた本人たちはこう言っている。『確かに灯油を撒いたが、なぜそんな事をしたのか分からない』ってな」


「……同じだ」


 集団での、犯罪行為とも言える奇行、まるで何かにとり憑かれていたとでも言うように動機を覚えていない容疑者たち。


「まぁ、わしはゴッドの模倣犯だと思っているがな。くだらん。すぐに暴いてやる。さあ、話は終わりだ! 職務に戻りたまえ!」


 警部は呆然とする俺を押しのけ、俺の横を無理やり通っていってしまった。一緒に居た刑事が俺に目礼していたが、最早俺にはどうでも良かった。


「ふう……。神狩さん、相変わらずヒヤッとする事しますよね」


 ほとぼりが収まったのを確認した藤崎が俺に話しかけてきた。そうだ、こいつにも協力してもらうか。


「……藤崎」


「わかってますよ、神狩刑事。捜査に行くんですよね?」


 こいつは相変わらず察しがいい。もう何年も一緒にやってきたせいか、俺の性格は完全に読まれているようだ。


「ああ、どうやらまだ俺にはやる事があるらしい」


「お供しますよ、今度こそ」


「よろしく頼む」


 今度こそ、と言うのは、神社の捜査に連れて行かなかったからだろう。だがそれでも俺を慕ってくれるこいつは、本当にいい部下だと思う。

 少し緩んでいた気を張りなおし、俺たちは目標を見据えて歩き出した。






「……で、なんですかここ?」


 俺の隣で歩いている藤崎が、少し不満そうに質問してきた。


「黙ってついて来い。お前にも見せておこうと思ってな」


 そう答えて、俺は口をつぐむ。

 不満に思うのも無理は無いだろう。俺たちは今、捜査のために外に向かったわけでも、例の放火の容疑者に尋問をしに向かったわけでもない。

 俺たちは今、薄暗い階段を地下に向かって歩いている。ここは普段、特別に許された者しか立ち入ってはいけない場所だ。

 ここに入るための条件はただ一つ。「中の人間に関係あるかどうか」だ。

 つまり俺たちは、この地下に居る人間に用事がある。


「なんですか、これは?」


 藤崎が俺に質問する。

 こいつが言っているのは、階段を降りた先に見えた、この大きな木製の扉の事だ。

 始めてみた人間は大抵これに驚く。普通の建物なら、わざわざこんな大きい扉をつける理由は無い。扉自体には「この先に進むな」と言っているような威圧感すら感じる。

 当然、これはこの先を見せたくないと言う意志の表れだ。


「この扉、観音開きになっている様に見えるが、実は手では絶対に開けられないんだ」


 そう言って俺は、一枚のカードを取り出した。シンプルなつくりの、何の装飾もされていないカードだ。

 それを扉の横の、普通に見れば見逃してしまうような角度にある、線状の差込口に差し込んだ。

 すると、「ピー」という甲高い音と共に、その扉がゆっくりと開き始めた。隣では藤崎が「おお」と小さく感嘆の声を上げていた。


「まさかこんな木の扉が電子制御されてるなんて……、誰も思わないでしょうね」


「そうだ。この扉にはそう言った真理的な鍵も掛けてあるんだ。知っている者、許可がある者以外は絶対に入れないようにな。ちなみに木製なのは外側だけで、中には分厚い鉄板まで施してある」


「こんな厳重な警戒をして……、中に何を隠しているんですか?」


「そいつは、見た方が早い」


 そう言って俺は、開ききった扉をくぐって中に入った。

 藤崎も後からついてくる。完全に扉をくぐったのを確認して、俺は中の壁についているスイッチを押して扉を閉めた。


「これって……地下牢、……ですか?」


「その通りだ」


 藤崎が見たものは、中に並んでいる鉄格子で塞がれた小部屋の数々だった。

 小部屋の中には簡易式のトイレと薄っぺらい布団しか無く、人影も見当たらない。それは明らかに警察署の地下にあっていいような物ではなかった。

 俺は目的の場所に向かいながら藤崎に説明をする事にした。


「ここには、『特別監視対象者』が収容される事になっている」


「なんですか、その特別なんとかって……?」


「『特別監視対象者』。略称では特監(とっかん)なんて呼ばれている。それは、犯罪者になり切れなかった犯罪者の事だ」


「犯罪者に……なりきれなかった?」


「法で裁けぬ無法者の事さ。通常なら、犯罪者と言えど裁判で無罪を勝ち取れば釈放される。明らかな悪事を働いていても、法律で犯罪と決まっていなければ犯罪者にはならないんだ。ここには、それを『許されなかった』者たちが収容される」


「許されなかった者……ですか?」


「普通なら死刑か終身刑になるような悪事を働いた者の事だよ。そういう人間でも、上手く法の穴をかいくぐって『犯罪者にならない』場合がたまにあるんだ」


「自分にはよく分からないのですが……、例えばどんな奴なんですか?」


「――例えば、あんな奴だな」


 目的の牢に着いた俺は、そこに収容されている男を指差しながら言った。

 そいつは死装束のような真っ白な服を身に纏っていて、髪をだらしなく伸ばした長髪の男だった。しかし、何より目を引くのはその顔だ。

 男はこちらに気づいて話しかけてきた。


「聞いたことのある声ですね……、アナタ、誰ですか?」


 そいつは、今にも消えそうな弱々しい声で質問してきた。俺が知る限り……というか、やった事を考えるととてもそんな人間ではないはずなのだが、今ではこの通り弱りきっている。


「神狩刑事、こいつ……何者なんですか?」


 隣で見ていた藤崎が、引き気味に聞いてきた。

 無理もない。男は白装束を纏い、やせ細った顔をしていて、しかも目に包帯を巻いている。どこから見ても病弱な入院患者か何かにしか見えない。


「こいつの名は、新堂泰三しんどうたいぞう。聞いたことがあるだろう?」


「なっ……! こいつが、あの新堂ですか!?」


 藤崎は信じられないと言う顔をして言った。

 新堂泰三。かの有名な、「宗教団体ゴッド」の創始者にして教祖だ。


「こいつは自首してきた当時からこんな状態だった。まるで抜け殻の様だったよ」


「え……でも、こいつは明らかな犯罪者じゃないですか! なんでこいつが『特別監視対象者』なんですか!?」


「それが、そうでもない。こいつがやった事はマインドコントロールだ。実際には手を下してない。マインドコントロールを裁く法も、存在しない」


「でも犯罪を指示したなら、立派な犯罪幇助ほうじょじゃないですか!」


「ところが指示した証拠も無いんだ。信者たちへの命令は、手紙で行なわれていたらしい」


「それなら筆跡とか……、追跡する方法が無い事もないでしょう!?」


「探したよ。その手紙の差出人は、何の関係も無い複数名の一般市民だった。そいつらに聞いても『なぜ手紙を書いたのか分からない』だ。お手上げさ」


「そんな……」


 藤崎はそれでも納得いかない様子だったが、とりあえず今の目的は新堂だ。かまっている場合じゃない。

 俺は新堂の方へ向き直り、口を開いた。


「新堂。もう一度聞くぞ」


 新堂は、疲れ切った様子で、心底どうでもいいといった口調で答えた。


「……どうぞ、ご自由に」


 無理も無いだろう。ここに投獄される前、何人もの人間に同じことを聞かれているのだからな。

 とりあえず俺は慣例的に、重要な点だけを質問した。


「お前の目は、何故見えなくなった?」


「神に、罰されたようです。私が間違っていたから……、ですかね」


 そうだろうな。こいつは最初からこう答えてる。逮捕時から供述が変わっているという事も無い。では次の質問だ。


「お前はどうして自首しようと考えた」


「神に見放されましたから。もう、何も出来ないのです」


 こいつが妙に無気力なのも、どうやらそのせいらしい。しかしそれをあっさりと信じる警察ではない。


「あくまでマインドコントロールは神の仕業だと?」


「正確には、神の力を私が借りていたのです」


「その神のために、ゴッドを作ったと言うんだな」


「その通りです。理解が早くて何より」


 そう言って新堂は軽く微笑んだ。俺は俺で、何度も尋問して同じ答えしか返って来ていないので、この態度に怒る気にもなれなかった。今はとにかく、この様子を藤崎に見せておきたかっただけだ。

 俺はため息をついてから、藤崎の方へ向き直った。


「とまぁ、こんな調子だ。ここまで来ると、こいつ自身操られている気さえするな」


「……実際に、操られているという線は?」


「あったとしても、ここに閉じ込めていればいつかはコントロールが解ける、というのが上の判断だ。その時こいつは言うだろうな。『なぜそんな事を言ったのかわからない』と」


「…………」


 藤崎は黙って考え込んでしまった。

 数秒黙った後、何かを思いついたように顔を上げて言った。


「あの話の後、自分をここに連れてきたという事は……神狩刑事はこいつを本物の教祖だと考えてる、と見てよろしいでしょうか?」


「その通りだ」


 相変わらず勘が良い。俺はこいつのこういう所が気に入っている。


「本物の教祖だとすると……どういう事になる?」


 俺は更に藤崎を試すような質問を投げかけてみた。こいつならすぐに気づくだろう、という考えの元の質問だ。


「こいつが嘘をついていないのなら……、神が存在する事になります。もしそうでなくても、そういう不思議な何かが存在するって事に」


「完璧だ。さすが俺の相棒」


 俺は藤崎の背中を叩いて、見事な推理を褒めてやった。

 しかし当の本人は、褒められたにも拘らず納得の行かない顔をして「いや、おかしいですよ」と反論してきた。俺が褒める事など滅多に無いのに。


「じゃあ神狩刑事は、昨日は本気で神の存在を信じて神社を巡っていたとでも言うんですか!? 『昨日はどうかしてた』って、さっき言ってたじゃないですか!」


「言ったな。そして落ち着け。なにも俺は神の存在まで肯定しちゃいない」


「……どういう事ですか?」


「マインドコントロールの手法が、少なくとも超常的なものである可能性があるって事だ。考えても見ろ。話術にしろ薬にしろ、操った人間の記憶を消すなど出来るものか。しかも、都合よく動機の部分だけ消す事なんて、な」


「そう言われれば……、そうですけど……」


 どうも藤崎はまだ納得がいかないらしい。勘はいいが常識に囚われ過ぎだな、こいつは。


「いいか、藤崎。こいつはこういう事件だって事だ。それに何も、最初から超常を認めろって言うわけじゃない。そういう可能性もあるって事を、認めるんだ。俺がここにお前を連れてきたのは、それを認識させるためでもある」


「そう……言われましても……。…………、……。……わかりました。あくまで可能性として、認識しておきます」


 最後には折れたが、どうしても納得がいかなかったらしい。「可能性」をやたらと強調して言っていたのが印象的だった。












※作者注

 ここまで読んで下さりありがとうございます。章タイトルにもあるので分かるとは思うのですが、今回は「神狩パート」になります。このように主人公を切り替えつつ進んでいく作品なので、章タイトルの後の名前を見て、そのお話の主人公を確認して頂ければ幸いです。特に名前の記述が無い場合は前回の続き、となります。

次回は神狩パート!引き続き本作品をよろしくお願いします!

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