第190話0190★あちこちに《転移》で痕跡を残して、敵を攪乱させよう



 寄り道しつつ、元の樹海もどきと礫砂漠れきさばくの稜線に戻って来た神護は、白夜を腕に颯爽さっそうと走る。

 その場所を認識できる程度の速さで移動するが、予想通り黒き河の兵士や魔術師は居なかった。


 当然、神護達は待ち伏せも警戒したが、それらしいモノに当たることも無かった。


 急遽脱出する為に、いにしえの女神の神殿へ《転移》で移動した元の場所から、半日ほど走った神護は、足を止める。

 そこには、小さな湧き水が出現していたからだ。


 山中で地中に潜り、山の稜線の先に現われたと判る湧き水があるということで、ちょっと休憩をすることにした。

 神護は、湧き水に何か食べられる水生生物は居ないかと探索する。


 じっくりと観察しても、それらしい影を見付けられず、ちょっとガッカリしたが、嬉しいことに香辛料の類いをゲットできたのでまずまずである。


 そう、なんとワサビに良く似た植物を見付けたのだ。


 ラッキー……これって…ほぼ間違いなく、それも本ワサビじゃん

 本ワサビっつーと、魚のイメージだけど、肉系の下味に入れると

 これが意外と美味しいんだよなぁ~………


 神護はいそいそと、少しだけ採取する。

 自然界のワサビは、バランスを崩すと、あっという間に消滅してしまう為だ。

 勿論、後で《転移》を使って、ここに来れば良いので、地形の詳細を覚える。


 「白夜…少し気晴らしに、その辺を散策するか?

  夜は安心して寝る為に、あのいにしえの女神の神殿へ

  《転移》するから……少しくらいならイイぞ…」


 まだ、卵から孵化して2日と経っていないので、過保護状態の神護がそう言えば、自分で動き回りたくなっていた白夜が、とても嬉しそうに、にぱっと笑う。


 「はい 父上 白夜も歩きたいです」


 その言葉に応じて、神護はしまっておいた子供用ヒールを取り出して手渡す。

 白夜はいそいそとヒールを履いて、湧き水を自分の手で触れてみたり、その辺の樹を確かめるように撫でたりしていた。


 それを見ながら、神護も周辺の大樹を確認して歩く。

 勿論、リオウは白夜が疲れたら、背中に乗せる為に、その後ろをゆっくりと付いて歩いていた。


 「ぅん? おっ…この樹もしかしてドングリか?」


 そう口中で呟くように言った神護は、枝だから落ちた木の実の落果を拾う。

 その大ぶりのドングリを手のひらで転がしながら考える。


 たしか、ドングリにも色々と種類があったよなぁ~………

 苦味をともなう、アクの強いやつから、アクの弱いやつ


 その中には、数種類、まるっきり苦味や渋みの類、タンニンが

 無い種類もあったよなぁ…………


 確か、スダジイとかシイと呼ばれる小さい実と

 マテバシイとか言う、大きい実のだったよな?


 前に調べた時、どっかの県ではタンニンを含まない大実のドングリ

 マテバシイでお菓子やお酒作ってるとこあったよなぁ………


 あと、お菓子にも、ドングリ粉を使ってたな

 まぁ…酒は糖を作る澱粉が有れば良いんだし…


 あと、よぉ~く煎って、珈琲にするとかもあったなぁ……たしか

 いや、でも珈琲ならタンポポ珈琲ってのもありだよな


 などと、ゆったりと辺りを見回しながら、らちもないことを考える神護だった。







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