第142話0142★卵が入っていた巾着袋の中は?



 神護は、岩壁に垂れ下がる風糖ふうとうを見て、首を傾げた。

 そして、元は白夜……もとい、その卵が入っていた、不思議な巾着袋を胸元から引っ張り出して、白夜に問い掛ける。


 「白夜、この巾着に、その風糖ふうとうを入れても大丈夫かな?

  出来れば、少し持っていきたいと思うんだが…………」


 神護の問い掛けに、風糖ふうとうを夢中で食べていた白夜が手を止める。

 そして、神護の手元の巾着袋を見て頷く。


 「はい 大丈夫です だから 少しじゃなくて…………

  ここにある 実が生っているのぜぇ~んぶ持って行きましょう


  【竜ケりゅうがみね】で 風糖ふうとうがあるのは

  ここだけとは思えませんから…ね…父上」


 ふむ……確かに…まだあちこちありそうだな…………

 他の風糖ふうとうを、ちまちまと探す余裕は無い


 それに、白夜がこんなに執着しているなら良いかな?

 名前はちょっと違うけど、味はブドウに近いモノだし……


 また、ここに風糖ふうとうを採りに来るかってぇーと

 たぶん…ないな……この【竜ケ峰りゅうがみね】に来なければならない

 理由がなければ、まず来ない…………


 つーことで、この不思議な巾着袋に、熟れているやつは

 全部入れるか……あっ…と…そうだ…聞いておかなきゃ……


 「確かに、そうだな……つーことで…白夜…この巾着袋の中って

  どうなっているんだ?」


 神護からの問いに、意味がわからなかった白夜は小首を傾げる。


 「父上 どう…とは? なにを聞かれているかわかりません」


 そう言った白夜が眉を寄せて、再び小首を傾げる。


 「ああ、質問の意味がわからなかったか……ようするに……

  ぅん~……とぉ……時間かな? この巾着袋が、結構な量


  入るのは…白夜の大きくなった卵でわかるけど

  お前が入っていた卵は、この中でも成長していたよな


  だから、時間経過が気になるんだ?


  いっぱい入れても…下手すると中で腐ることになるからな」


 神護の言わんとしていることを理解した白夜は、あっさりと答える。


 「基本的に 時間はほぼ停止しています 私の卵は…ちょっと…

  いや かなり特殊だから成長できました…


  まぁ……私の卵が 成長できたのは…育成に必要な…

  【守護者】である 父上の愛情があったからです


  巾着袋の中は 本来 時間が停止した亜空間です

  だから 入れたモノが腐るとかは有りません」


 「そうか……それが知りたかったんだ……んじゃ……

  ここにある風糖ふうとうは、全部持っていこう」


 知りたかった答えを得た神護は、腕の中の白夜を近くの岩へと降ろし、巾着袋の口を開いて、たわわに実り熟れて甘い香りを放つ房を次々と放り込んだ。


 風糖ふうとうの収穫は、とっても簡単だった。

 実が熟れている房は、茎を持つと、力を入れなくても、茎を握りさえすれば、ポロッと手の中へと落ちてきた。


 神護は、その岩壁に垂れていた風糖ふうとうの大半を巾着袋へと放り込んだ。


 これで、白夜が『お腹が空いた』と言われたときに誤魔化せる

 甘い果実が手に入ったな





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