第139話0139★異世界最初のごはんはイワウオの素焼き



 身繕いが終わる頃、白夜は空腹感を感じて神護に言う。


 「父上 なんか お腹が空いてきました」


 「そうか、たぶん羽化の為に、無意識で生命力を使ったんだろう

  ……よし、ちょっと待っていろ………今、なんか探してやる」


 神護は辺りを見回し、危険なモノは無さそうだと判断して、小川へと足を向ける。

 そして、小川の中の岩をとんとんと飛び歩き、ひとつの岩に掌底打しょうていうちして振動を与える。


 すると、岩下にいただろう川魚が、プカプカと3匹ほど浮かび上がってきた。

 大きさ的には、30センチ前後の魚だった。


 よしっ…3匹ゲット……ぅん~とぉ…これは鮎かなぁ?

 いや…この独特な模様が、身体にあるから…岩魚の方だな


 いや、まてよ………俺、こっちの川魚の種類って

 ぜんぜんわかんないぞ………知識も……って………


 くそっ……まだ未整理の部分有るようで…痛みが走るな……

 まぁ…毒とかはないよな……いいや、白夜に聞いてみよう

 

 神護は、ひょいひょいとすくい上げた3匹の魚を持って、白夜の側へと戻る。


 「白夜…この魚食えるか? 岩魚みたいなんだけど………」


 白夜は神護が差し出して来た魚を見て驚いた。


 「父上ぇぇ~ これって もう幻って言われているぅ……

  イワウオですよぉ~ すっごく美味しいって噂の………

  その上、どぉ~っても滋養強壮になるんですよぉ~………」


 ふぅ~ん……イワウオ…ね…たぶん岩魚とそう大差ないな

 名前も、ほぼ変わらないようだしな


 しかし、えらい喜びようだな……そんなに美味しいのか?

 でも、滋養強壮になるなら、もう少し獲ってもイイかな……


 とりあえず、調味料の1つもないけど………焼いて食べるか

 素材の味がよければ、味付けしなくても美味しいからな


 「そうか……イワウオっていうのか……とりあえず……

  塩とかも無いけど……焼いて食べるか?」


 「はいっ 父上 楽しみです」


 背中の小さな翼を、それはそれは嬉しそうに、パタパタとさせる白夜に笑いかけながら、神護は小川の上流から流されてきた流木を拾い集めて、小さな火をおこす。


 やっばり、魔術の火よりも、断然自然の火だよな

 できれば、炭が欲しかったなぁ~………と、やるか


 作っちまえばイイじゃん………炭を…ここは異世界だ

 魔術は《魔力》と想像力が、モノを言うんだから………


 火が流木に燃え移り、パチパチといいはじめたのを確認し、神護は《魔力》を込めて、炭へと無理やり変化させる。

 そして、見事に炭火状態を作り出した神護は、布袋からしまった短剣を出して、イワウオと呼ばれる川魚をさばき始めた。


 イワウオは、短剣で枝を串にして、あえて開いて焼く。

 神護自身の空腹感が強くなった為と、白夜がお腹が空いたと言った為に、時短で焼きたかったから、そうしたのだ。


 炭火の遠赤で焼いた為、時短にもかかわらず、身はふっくらしっとりしていた。

 もちろん、皮はパリパリで香ばしく焼けていた。


 純粋に焼いただけのイワウオだが、本体が………白夜いわく………幻と言われるだけあって、調味料ナシでも十分にどころか、かなり美味しかった。


 空腹と美味しさで、3匹分のイワウオを無言で2人して食べたのは確かな事実だった。


 「美味しかったですねぇ~ 父上」



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