第50話 学院の怪談
残暑が残るこの季節、学生たちの話題は学院の怪談話だ。
『中央塔の12段の階段が夜中の2時に13段になっていてそこを登ると…』
モブ男子が話している。
『どうなるの?』
『縄が首に絡まって…床が抜けるそうだ。そして翌日には変わり果てた生徒が…』
『キャー』
モブ女子が悲鳴をあげる。
「怪談の季節ではないのに」
レナンジェスはそう呟きながら授業の準備をする。
「ママってお化けが苦手?」
アリスがレナンジェスに問かけてくるがレナンジェスは苦笑いを浮べるだけだ。
『今日の授業は自習とする』
何でも教師が夏風邪を引いたらしい。
「それでは怪談話をしましょう」
アリスが皆に言うと男子生徒は嬉しそうに笑った。
(学院の怪談話も日本と同じか)
何しろ口裂け女とかトイレのレイミーさん等、どこの学校にもありそうな話題だった。
「それでは私から1つ」
不意にアリスがそう言うと怪談話を始める。
「ある夕暮れの時にわたくしが実際に遭遇した話なのですが…」
アリスの乗っていた馬車がトンネルに入ったそうだ。そこはお化けが出るという事で有名だったらしい。
そして坑道に入る直前に大雨が降っていた。
「そしてトンネルの中でメイドが言うのです。ここはまずいと…」
雨音で会話もろくに出来ないトンネルを進む馬車。メイドはずっと怖がっていたそうな。
「そして屋敷に着いてから何故、怖がっていたか聞いたのです。するとメイドが言いました。「トンネルの中で何故、雨音が聞こえ続けるのですか?」と」
初めは「?」を頭の上に浮かべていた生徒。しかしトンネルの中で馬車が雨に打たれる事は無いと気が付く。
『キャー』
モブ女子がモブ男子に抱き着く。モブ男子も脂汗を垂らしながら女性とに抱き着いていた。
「それにしても100話もお化けの話をするなんて」
レナンジェスがため息をつく。
「問題がありまして?」
「100話お化け話をすると最後にお化けが出てくると聞いたことがありますし」
その言葉に皆が息をのむ。
“ドンドンドンドン”
不意に窓を叩く音がした。しかしそこには誰居ない。
『これって…』
生徒達の顔が青くなる。
“ドンドンドンドン”
今度は教室のドアが激しくノックされる。
『ギャー』
皆は震えながら近くの者と抱き合う。
「何ですの?わたくしの話の後に悪戯するなんて」
そう言いながらドアを開けるアリス。するとそこには小悪魔~ズが居た。
「何事だ?」
レナンジェスは小悪魔~ズに問い掛ける。
『忘れ物です』
小悪魔~ズはレナンジェスに教科書を渡す。
「ありがとう。それでもドアを叩きすぎだよ」
『え?僕達はドアを叩いていませんよ?ドアの前に来たら中から激しく叩いていたじゃありませんか!』
そう言いながらムクれる小悪魔~ズ。
「つまり…中から誰かが叩いていたという事か…」
レナンジェスがそう言うとモブ生徒は一斉に叫び声をあげた。
「そんな事がありまして」
レナンジェスがミーアの部屋でW王子に話す。ミーアとアリスは抱き合って怖がっている。
『つまりお化けは部屋の中に居たのか…』
「そう言う事になりますね」
そんな事を言っている時だった。
「ドアを叩く音は下の階でそこの2人が壁の修理をしていた音でしょう。それからドアの真下でも作業をしていましたから」
間者メイド曰く、2人の作業音が2階まで響いていたという事だった。
『そうなんだ…怖かった~』
そう言いながらミーアとアリスはホッとした表情を浮かべる。
それから3日ほど、学院で百物語が流行る。そしてそれを行った者は必ず幽霊に会うと言われていた。何でも絶世の美女が短いスカートを履いて歩いて来るのを見た男子が声を掛けると消えてしまうそうな。
『噂に尾ひれが付くと都市伝説が出来上がるのだろうな』
そう言いながら絶世の美女に説教をするW王子。
「目覚めてしまいまして」
美女はクールに言い放つ。そう、幽霊の正体はライディースであったのだ。
『それでも全身赤いフードを被って床を赤く染めるのはやり過ぎです!』
ミーアとアリスも説教する。
「え?それは我ではないぞ?」
その言葉で部屋の空気は凍るのであった。
「母上…戯れが過ぎますぞ」
俺様王子は第一王妃に苦言を呈す。
「フフフ…吊り橋効果でカップルが誕生しているから良いじゃない」
全身を赤いフードで覆い赤い絵の具を持つ第一王妃は悪戯な笑みを浮かべていた。
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