第4話 貴族魔法学院
(いよいよゲーム本編だ。私には関係ないけどね)
そんな事を考えながらときめき魔法学院の舞台となる貴族魔法学院を見上げるレナンジェス。
『ご主人様、大丈夫ですか?』
ヒューイとドゥーイが心配そうにレナンジェスを見つめる。
「大丈夫だ。問題ない」
彼はそう言うと従者に微笑みかける。すると2人の従者は頬を赤らめながらニコリと笑う。
(ショタの執事服も中々良いものだ)
レナンジェスは内心で鼻の下を伸ばしながら学院へ足を踏み入れた。
(あれは…俺様系第二王子と主人公の出会いイベントだ!)
レナンジェスは前方で黒髪の美少女に手を差し伸べる金髪イケメンを見つめる。
(あの王子のセリフで何回、耳が妊娠した事か)
そんな事を考えている時だった。
『今時、聖女だからって貴族学院に入学するとかどうなのかしら?』
『聖女の力なんて不要なのにね』
周りのモブ女子達の陰口が聞こえてくる。
(確かに聖女の魔法は回復、解毒、解呪、結界魔法だ。回復と解毒はポーションを作ったから意味がないと言えばそうだが…解呪と結界魔法は必要じゃね?世界観を変えた私が言えることではないが…)
少し罪悪感を覚えながらレナンジェスはその場を後にした。
その後、入学式も無事に終わりレナンジェスは新入生歓迎パーティーに出席する。ゲームではここで好感度を上げることができる。因みに逆ハーレムエンドもこのパーティー次第なのだ。
それだけでは無い。2週目以降は隠し攻略キャラの登場シーンでもあるし、3週目以降は悪役令嬢、ライバル令嬢、悪役令嬢の腹違いの妹でプレイできるのだ。その幅広い攻略要素が“ときめき魔法学院”の人気の秘訣と言っても過言ではないだろう。
(ここで美少女達の好感度を上げなければ)
レナンジェスは男爵家や準男爵家の令嬢と世間話をする。するとレナンジェスの周りには爵位の低い家柄の女性ばかりになる。何しろこの国を豊かにしたハックマン子爵家の次期当主だ。玉の輿狙いの女子が群がるのは当たり前だろう。
(流石は乙女ゲームの世界だ。モブキャラも美少女ばかりではないか)
そんな事を考えている時だった。
『子爵如きが随分と目立つものだな』
声の主を見ると侯爵家や伯爵家の子息がレナンジェスを睨みつけている。
「これは侯爵家、伯爵家の方々。私の様な下賤な者にお気遣い頂きありがとうございます」
レナンジェスはそう言いながら右手を胸に当て深々とお辞儀する。この世界では格下の者が格上の者に声を掛けられない。故に格上の者と話すには声を掛けて貰う必要があるのだ。
『フム、礼儀はなっているようだな。しかし子爵家の者は分別が無いのか?』
彼等はレナンジェスが女性に囲まれているのが面白くないのであろう。女性に囲まれているのは攻略キャラとレナンジェスだけなのだから。
「これも貴族の務めですので」
そう言いながら微笑むレナンジェス。
『それでは我等にも貴族の務めを果たして貰おうか』
そう言うとレナンジェスは貴族の男子に囲まれる。
(やばい…これは集団で暴行される…物理的に…)
レナンジェスは恐怖心に駆られる。しかし女性の前で格好悪い姿は見せられない。
「何をしているの?」
不意に女性の声がレナンジェス達の後ろからした。
『これは…ミーア嬢』
貴族達が慌てだす。レナンジェスは再び右手を胸に当てお辞儀する。
「ミーア様。下賤な私にお声を頂きありがとうございます」
このミーア=セロは公爵家令嬢であり第二王子の婚約者だ。
(悪役令嬢だけど綺麗だ。実はときめき魔法学院のキャラで一番のお気に入りなのよね)
この悪役令嬢は一週目のプレイでは嫌がらせ等で追放されるか幽閉される。
しかし3週目で悪役令嬢プレイをするとその生まれと愛に飢えた事実が明らかになる。そして一週目で良い子に思えた腹違いの妹は世間知らずだと思い知らされる。
何しろ公爵家の実質当主は彼女なのだ。彼女の父親は正妻の重い愛情に疲れ果て婿養子にも関わらず準男爵領で愛人と過ごしてきたのだから。
そしてセロ公爵家の使用人の半分はこの悪役令嬢に拾われた孤児だらけである。故にこの悪役令嬢でバッドエンドを迎えると公爵家を名乗るキャラは皆殺しにされる。ハッピーエンドは隠し攻略キャラの第一王子と結ばれるか帝国の皇太子と結ばれて幸せになる。
因みに妹のルーア=セロのルートは姉が追放、幽閉されるとバッドエンドで父親を断罪した後、王家か他の攻略キャラと結ばれるのがハッピーエンドだ。
「それでハックマン子爵を取り囲んで何をしているの?」
『世間話をしていました』
モブキャラ男子は目が泳いでいる。
「そう、私には一人を取り囲んで暴行しようとしているように見えたけど」
『そのような事はございません。我等も貴族の務めがありますので失礼します』
そう言いながら散り散りに逃げ出す貴族の子供達。
(この令嬢は正々堂々とし過ぎなんだよなぁ。それを隠れ蓑にした他のモブキャラの罪まで被せられるのだから)
そんな事を考えている時だった。
「レナンジェス殿、貴男も悪目立ちが過ぎますわよ。この国を発展させた功績も他の貴族には良いように思われていない事を自覚なさい」
そう言って優雅に王族達が居る場所へ向かう悪役令嬢。
(彼女は貴族の模範だな。あの令嬢を手放すとか第二王子は馬鹿だ。俺様系で時々デレる甘い声で耳を妊娠させられたのだから嫌いじゃないけど)
そんな事を考えながら悪役令嬢の後ろ姿を見送るレナンジェスであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます