第15話 討伐遠征 12日目 帰還途中
無事に下山したわたし達は近くの街で馬車を調達し、一路王都に向かって帰還しています。
「報償金が出たらパァーッと飲みにでも行くか!」
「そうだな!ここんところ酒抜きだからな」
「でしたら、わたしの働いている酒場にお越しくださいね」
「あ、そうか、歌姫様は酒場で働いてらっしゃるんでしたっけ?」
「ええ、西側の端にあるハビタットという酒場です」
「西側の端?」
「西側って言えばスラム街のある方ですよね」
「はい、場所的にはスラム街の端になりますね」
「歌姫様が何故そんな場所に……」
騎士団の皆さんは意外そうな顔でわたしを見つめます。
「王都に来て初めて働いたのがそこでしたし、お客様も皆さんとてもいい方ばかりですよ」
「歌姫様なら中央に行ってもいくらでも働く場所はおありでしょうに」
「そもそも働く必要がないように思いますが」
「そうでしょうか?」
わたしとしてはやっぱりあの酒場が好きですし皆さんいい方ばかりなのであそこを辞める選択肢はないです。
「わたしは今のお仕事が好きですし、あの酒場に来てくださるお客さまが大好きなので……」
「そうですか、何かお困りになられたらいつでも仰ってください」
「はい、ありがとうございます」
騎士さんはそう言って馬車から降りていかれました。
『実際ミィスちゃんて働く必要ないですよね』
『確かにそうだな』
『稼いだお金はほとんど故郷に送ってるんだっけ?』
『ああ、ご両親と妹さんが2人いるそうだ』
『『『妹さん⁈』』』
『……そこに食いつくと思ったよ』
馬車に乗り王都を目指していたわたし達はこの日は広い草原で野営をすることになりました。
例によって冒険者さん達がテキパキとテントを設営してくださっています。
「さて、夕食の支度を……ん?」
「んん?何の匂いだ?」
ふと冒険者さんが手を止めて辺りを見渡しています。
馬車から顔を出してみるとどこからかいい香りが漂ってきます。
『17番!準備は万端か?』
『当たり前でさぁ』
『よし!もう少しわかりやすいように風魔法で匂いを流せ!38番』
『……魔法の使い方間違えてません?』
匂いのほうに少し行っていた冒険者さんが息を切らして戻って来ました。
「はぁはぁ、む、向こうに……」
「いったい何があったのだ!」
「む、向こうに、いつもの御食事処があります!」
「「「なっ!なにぃ〜〜!!!」」」
「なぁ?」
「ん?どうした?」
「ここっていつものアレだよな」
「だと思うぞ。建物も同じだしな」
「そっか……今回はバイキング形式なんだな……」
『54番に55番!今回のコンセプトはバイキングか!』
『はい!いつも同じでは飽きがきますから』
『デザートに一口ケーキも用意しておきました!』
『芸が細かいな……』
草原の真ん中のいつもの御食事処で晩御飯をご馳走になった冒険者さん達はその後、周囲の探索に出かけました。
「何故周りを探索するのだ?」
「騎士さんにはまだわからないだろうけどあるはずなんだアレが」
「アレ?」
「ああ、アレだ」
「あったぞ〜〜!!」
「やっぱりか!よし!歌姫様にご連絡だ!」
満天の星空の下で入る露天風呂は最高の気分でした。
そよそよと吹く風が気持ちよく、ついウトウトとしてしまうくらいでした。
「いいお湯でした。お先に失礼しました」
「あ、ああ、いや、お気になさらずに」
「…………」
「どうかされました?」
「は!い、いえ、何でもありません!」
『22ば〜ん!お風呂上がりのミィスちゃんは記録に収めただろうな!』
『当然です!写真にして皆さんに配りますから』
『『『おお〜っ!!』』』
「行くときもこんな感じだったのか?」
「まぁだいたいこんなもんだったな」
「そうか……」
「ん?どうした?」
「いや、これは討伐ではなくキャンプと言わないか?」
「…………いいや、討伐だ」
満天の星空の下で騎士さん達と冒険者さん達は仲良くお風呂に入っていました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます