第8話 討伐遠征1日目 Aランク冒険者の視点


 広間入って来た明らかに場違いなワンピースをきた少女。


「あの少女が……噂の歌姫だと?」


 広間に集まった冒険者たちの視線を一身に浴び、身を縮こまらせた少女をみる。

 だが次の瞬間、何故か私も含め回り全ての冒険者たちが笑う。

 まるで……何かに強制されたかのように。


「何だ?これは?何故私は笑った?」


 私は自分の顔を手で触り確認する、笑っている?

 不自然に張り付いた笑みのわけもわからないままギルドマスターから討伐の概要が発表される。


 いったい今のは何だったんだ?

 私は言い知れぬ不安を抱え横目でチラリと「歌姫」の様子を伺う。


『会長。スマイルに抵抗を見せた者は4名です。この男とこいつ、それにこの女性にこの獣人です』

『よし、22番はその4名を記録、24番は詳細を鑑定』

『『はいっ!』』


 ギルドマスターからの説明によるとワイバーンの巣があるのは王都から馬車で5日ほどの距離にある山頂。

 近隣には交易都市もあり早急な対応が必要だ。


 すでに王国の騎士団が向かっているらしいが我々冒険者も増援に向かうことになったそうだ。

 各グループを10名程度に分け合計8グループ、約80人の大所帯だ。


 ギルドマスターよりグループ分けが行われ、王都正門前に1時間後に集合することで一時解散となる。

 私は噂の歌姫と同じグループになった。


「さて……どれほどのものか……楽しみだな」


 他の面子もそれなりに名の知れた冒険者だ。

 私は久しぶりに楽しい旅が出来そうだと思い足取りも軽く正門に向かった。



「あの……ミィスです!よろしくお願いします!」

「あ、ああ、私はナスカ。Aランク冒険者だ」


 私たちの前でピョコンと頭を下げる幼い少女。

 まだ年の頃は15才くらいではないだろうか?淡い青色のワンピースに麦わら帽子、可愛らしいポシェットを掛けてはにかんだ笑顔を見せてくれる。


「瞳の色が……」

「あ、ごめんなさい。気味悪いですよね」

「ああ、いや、そんなことはない。綺麗だと思う」


 少女の瞳は左右で違う色をしており、まるで宝石のようだった。

 他の冒険者も皆少女には好意的な挨拶をしており和やかな雰囲気の中、我々は王都を出発した。


『会長!あの野郎は要注意です!ミィスちゃんをいやらしい目で見てましたぜ!』

『うむ、もし……何かあれば早急に排除せよ』

『了解』



「えいっ!」

『13番!爆砕剣!』

『はいよっ!』


「う〜ん!やあっ!」

『34番!ブリザードストーム!』

『はぁい』


 5日間の道中で私はイヤと言うほど理解した。

 噂の「歌姫」は正にその通りだったと。


 それはスキルなのか魔法なのか、はたまた違う何かなのか私たちには理解出来なかった。


 その辺の露店で売ってそうな小さな短剣を少女が振るえば斬撃が迸り、大地は抉れ、ひとたびその可憐な手を翳せば灼熱の炎が巻き起こり、全てを凍らす氷河が現れる。


「ふぅっあ、お疲れ様です!」


『83番!パーフェクト…』

『パーフェクトヒール!!!』

『83番……よっぽど応えたんだな……こないだのマッチョが』


 トコトコと歩いてきて何もしていない我々をねぎらってくれる少女。

 他の冒険者を見ても皆、その可憐な後姿を目で追っている。

 馬車に乗り込んだ少女を確認して我々は再び目的地を目指す。


「歌姫様、目的地の山が見えて参りました」

「あ、はい。ありがとうございます」


 冒険者の1人が馬車に駆け寄り少女に状況を報告する。

 この5日間ですっかり皆、少女を歌姫様と呼び、まるで家臣の如く付き従うようになった。

 


『23番!索敵開始!逐次報告せよ』

『はい!』

『64番と65番は馬車の上より狙撃の準備』

『『はいっ!』』

『74番は上空に待機、23番からの報告を待て』

『了解しました』


 我々は目的地の山の麓で野営の準備をしていた。

 といっても歌姫様は馬車から出てくることはない。

 初日に不審に思い近づいた冒険者は馬車から2メートルの範囲に入ることが出来なかった。


 どうやら特殊な魔法がかかっているようで、それ以上我々にはどうすることも出来ない。


「歌姫ミィス……噂に違わぬ実力にあの可憐さ……天使か……」


『おっこいつ中々いいこと言いますね〜』

『ミィスちゃんは天使様だよな〜』

『うんうん、お顔を見てるだけでご飯3杯はいけるね〜』

『食事必要ないだろ?』

『例えだよ、例え』


『『『萌えるよな〜』』』


 死者たちは今日も平和だった。




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