歌姫ミィスと100人(+α)の影。死者達が過保護過ぎます。
揣 仁希(低浮上)
第1章 歌姫ミィス
第1話 とある騎士団長の話
────前書き────
作中の『 』は死者達の言葉のため死者以外には聞こえません。もちろん姿形も見えません。
私の名はライハルト・ベクスタ。
この王都の近衛騎士団の騎士団長を務めている。
そんな私の元に最近奇妙な噂話が舞い込んでくるようになった。
曰く、その娘の剣筋は音速を超え見切ることは不可能だと。
曰く、その娘の身のこなしは風の如く、影すらもふませぬと。
曰く、その娘の放つ魔法はかの大魔導師ですら足元にも及ばぬと。
日に日に大仰になるその噂話の真相を確かめるべく私は今、王都の冒険者ギルドを訪れている。
「して、ギルドマスターよ。
「ははは、流石の騎士団長様もやはり気になるか?」
「もし噂が真実ならば我が国にとって有益なる人物となるであろう?」
「ふん、生憎あの娘はお主らに扱えるような生易しいものではないぞ」
「それは私が判断する。で今どこに?」
「それは………」
1時間後、私はギルドマスターに教えられた森の中を歩いていた。
「高々小娘ひとりでキンググリズリーの討伐だと?馬鹿も甚だしい」
キンググリズリー…この森に住まう巨大熊であり数多くの冒険者や王国の騎士達を喰らってきた化け物だ。
ギルドマスターは何を考えているのだ?騎士団一個師団でさえも壊滅的な被害を受けたほどの化け物だぞ。
私は足早に森の奥へと進んでいく。
そして私は見た、常識の範囲外の存在というものを。
「えいっ!」
『6番!ソニックブレードだっ!』
『ほい来たぁ!そりゃあ!』
「やぁっ!」
『59番!残影剣!』
『任せて!いくわよ〜!』
「とおっ!」
『40番!絶対防御魔法!』
『ワシの出番じゃな!』
『続いて41番から45番!隊列を整えて突撃!」
『おおっ!!!』
私が森の奥で見たもの。
それは年の頃で言えば15才くらいの少女がたったひとり小さな短剣で森の魔王と恐れられるキンググリズリーを圧倒する場面だった。
正にその剣からは真空の刃が光り輝き、一度剣を振るえば幾重にも重なる剣撃がキンググリズリーを切り刻む。
そうかと思えば騎士すら防ぐことらすら出来なかった森の魔王の攻撃を何事もなかったかのように弾いてみせる。
『41番から45番!方向転換!再度、突撃〜!!』
『うおおぉぉぉ!!!』
中でも圧巻だったのが放たれた5筋の剣撃が縦横無尽に駆け巡る様だ。
まるで剣撃自体が生きているかのようにキンググリズリーを切り刻んでいく。
「ふぅっ」
『いかん!!!ミィスちゃんがお疲れだ!!!83番!パーフェクトヒール!!!急げっ!!」
『はっ、はいっ!!!』
そして少女が一息つくとその身体は虹色の光に包まれたちどころに回復してしまうのだ。
私は夢でも見ているのだろうか?
呆然と私は剣の柄にかけた手を動かすことも出来ずにその光景を見ていた。
「ええぃっ!」
『2番!9番!33番!トドメだ!圧縮殲滅魔法!!』
『任されよ!皆の者!余に続け!!』
もはや虫の息となったキンググリズリーは必死で逃げようと背を向ける。
だが少女が片手を掲げると天より幾筋もの光が降り注ぎその巨体を貫く。
それはもう使用することが出来る者などいないとされる伝説の魔法に酷似していた。
光が収まった後には見る影もないキンググリズリーの屍が静かに横たわっていた。
「ありえん……」
私は思わずそう呟いてつい一歩を踏み出してしまった。
「えっ?誰?」
驚いて振り返る少女。
短く肩までに切り揃えられた美しい銀髪にまだ幼さが残るが目鼻立ちのしっかりとした端正な顔立ち。
そして一際目立つ左右色違いの瞳。
左は翠、右は碧の見るものを惹きつけて離さないような瞳。
背の高さは150センチにも満たないだろう。フワリとした何処にでもありそうな麻のワンピースを着てとても冒険者には見えない。
「あ、ああ、すまない。驚かせるつも……なっ?」
『緊急事態発生!!変質者発見!16番!強制転移発動せよ!!』
『はぁ〜い。お帰りはあちらまで〜〜』
私が少女に一歩踏み出した瞬間、周りの景色がガラリと姿を変えた。
「な?何がっ?」
私は慌てて周囲を見渡す。
「ここは……王城か?」
見渡したそこは見慣れた王城の騎士団の訓練場だった。
「いったい何が?私は確かに森の中にいたはず…まさか…強制転移魔法か?」
私はこれでも騎士団を預かるものとしてそれなりに魔法にも抵抗がある。
それをいとも容易く気づかれることなく強制転移させるとは……
「噂通り…いや、噂以上というわけか」
私は深く頷き先ほどの森での戦いを思い浮かべ国王陛下に報告するべく訓練場を後にした。
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