観察と想像の狭間で

さかした

部屋

 観察せずとも、部屋一つさえあればいいという者がいる。

病床がために外を駆け巡り、観察をできない者もある。

世界を眺める機会を失っても、井の中の蛙に陥ることがない。

床の間の生活を送りつつも、生をつぶさに眺める眼差しは炯眼だ。

都心にまで踊り出て街路の風景、そこに暮らす人々を観察する者がいる。

見ることを学ぶために。ノートを持ち歩いてスケッチをとるがため。

見ることはとある場所で学ぶことなのか、

だとすればそれはどこで学べるのか。

 私がそれを学んだとき、それが部屋から一歩外に出た瞬間だ。

私がそれを理解したとき、それが井戸からようやく這い上がり、

世界を直視できたその刹那だ。

部屋から出るのは難しい。

けれどもその部屋を出られたならば、本当は部屋などにいなかった、

病床にもかかわらず敢闘したあの人に一歩近づける、そんな気がする。

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