カフェタイム

鹿子

第1話 時間を戻せることができたらどうする?

「ところでさー,久美は時間を戻せる力あったらどうする?」


 目の前に座る,橘立花が突拍子もない質問をした。


「いきなりだね」


 思わず久美は笑ってしまう。そして,「うーん」とうなりながら


「そうだねー,昨日作った卵焼きにタバスコを掛けた私に忠告したいね,タバスコはやめとけって,どんなに好きでもやめとけって」

「久美らしいなあ,時間巻き戻せる力があるのに,そんなことって」


 そう言って立花はくつくつと笑った。笑いながら,片手に持つたばこを灰皿に擦り付ける。


「じゃあ,立花はどうしたいのさ?」


 立花は,少し目をそらした。じーっと見ても,立花は目をそらしたままだ。すると彼女は,はっとなにかに気づいたように,声を挙げた

「すいませーん」

 そう言って,店員を呼ぶ。店員さんが来ると,テーブルにはられたキャンペーンメニューを指さしていう。


「アフターコーヒー2つと,この激甘,恋より甘い特製プディングを1つ――久美もなんかいる?」


 久美は首をふった。


「じゃあ以上で」

「かしこまりました,それではお済みのお皿を持っていきますね」


 と店員は食べ終わったお皿を持って,そのまま厨房のほうに戻っていく。

 昼過ぎをだいぶ過ぎて,カフェの中は閑散としていた。心地よいジャズのような音楽の中で,久美と立花の他には,大学生の二人組と主婦のお茶会が会話に花を咲かせていた。


「いまの店員さんイケメンになるね,まだ少し幼い感じだけど」


 立花は,厨房のほうを眺めて言った。

 久美はじっと,立花の顔を見る。「さっきの……」と久美が話を戻そうとすると,立花は遮るように言った。


「いやー,さっきの子があと5年たてばなー」

「……また,愛しの康介くんとなんかあったの?」


 立花は,その言葉に表情が固まった。そして,はぁ,大きくため息を着いて,あいまいに笑った。


「愛しの,ね……,あー,急いじゃったんだよねー,明らかに」

「急いじゃった――ああ,だから,時間を巻き戻せる力」

「そうそう,昨日の私に言ってやりたいね,まだ早かったて,いまは失敗するって」

「失敗って,プロポーズ?」

「プロポーズって――まあそんなようなやつ」

「それで,彼と喧嘩でもしたの?」

「いや,とくになかったんだけどね,まだ早くね,って言われただけ」


 そう言って立花は自嘲気味に笑う。その笑みには力がなかった。そのまま,立花は続けた。


「うーん,周りの結婚式とかみてたらさ,不安になっちゃてね,でもいざ,話を切り出してみたら火傷慕って感じ,いや康介くんは,優しく言ってくれてたんだけどね」


「うん」


「そしたら,今度は怖くなっちゃてね,本当にこのままで良いのかって,もうこっちから切り出しにくいし,このままの関係で続くのがいいのかってね」

「先行きが見えないもんね」


 そう言って,久美は自分の先行きを少し想像した。


「今日の夕御飯すら思いつかいない」

「久美は食べ物のことばっかだ」

「かもしれない」


 立花は時計を確認した,それにつられ久美も時計を見る。もう午後の4時前だ。立花は,コーヒーを一気に飲み干す。


「もう,いかなくちゃね」


「そうだね」


 そう答えて,久美はコーヒーを一気に飲み干し,隣においたバッグを肩にかける。壁の鏡を見ながら,かるく前髪を整えて,立ち上がる。


「よし,立花行こうか」

「え,仕事?」

「私も先行きを考えようと――」


 そう前置いて,久美に笑って言った。


「お腹と話を膨らませに2件目に」

「久美は食べ物のことばっかだ」


 久美はくつくつと笑って答えた。

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カフェタイム 鹿子 @KanoYasu

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