117 サイエンスフィクション
枢さん、格好良すぎっす……。
佐々木相手に啖呵を切った枢を見て、大地は羨ましいと思った。
城山大地は、異世界で旅人だった。
街を救って勇者と呼ばれたこともあったが、基本的に根なし草だ。帰る国も守るべき家族も持たない。だから人々の期待を背負った枢がまぶしい。
しかし、気が引けているのは、それだけが原因ではない。
「椿さん……」
黒崎に捨てられて心細そうな椿の、強気な態度と裏腹にたまに見せるか弱さに、大地のハートは撃ち抜かれていた。
わがままと見せかけて実は甘えてくる椿に「仕方ないなあ」とほのかな優越感を覚えていたのだ。
だが、黒崎が本当は椿を想っていたと明らかになり、状況は変わった。
今や大地は只のお邪魔虫だ。
「俺、帰っていいっすかね……?」
盛り上がる戦闘を前に、大地はテンションがダダ下がりだ。
『……帰りたいのかい。なら、地球に帰ったらいいじゃないか』
「誰だ?」
突然、脳内に若い男の声が響いた。
大地は声の主を求めて、辺りを見回す。
交戦中の枢たちは、大地の様子に気付いていない。
『君さえ良ければ地球に送ってあげるよ』
謎の声は親しみを込めた声色で提案してくる。
よく考えればおかしいのに、問答無用で大丈夫と安心してしまう説得力があった。
大地は衝動的に返答する。
「マジで?! いや、そうしてもらえると助かるっす」
自分がいなくたって、枢たちは困らないだろう。
気楽にそう思った。
『よし。では送ってあげよう。カナメが封印した空間がゆるんで、ちょうど地球側のダンジョンとつながりかけているんだよ。君には扉を開いてもらえると嬉しいな』
「……へ? それって」
ある疑問が大地の中に生じたが、確認する間もなく、転移魔法によって彼は時空を飛ばされてしまった。
佐々木と戦うことを決意した俺だが、そもそもここに来た目的はタンザナイトの調査じゃない。
「椿、お前は黒崎を探せ。俺たちは佐々木さんと戦ってから合流……あれ? 大地?」
ダンジョンに向かったという黒崎が気になる。
先に行けと椿に促して、大地の姿が無いことに気付いた。
「枢っち!」
真の警告。
俺は前方に注意を戻し、飛んできた銃弾を金剛石盾で防いだ。
ええい、大地を探してる暇がないな。
「椿と真とサナトリスは、黒崎と大地を探してくれ! 俺と心菜と夜鳥は、ここで戦闘続行!」
指事を飛ばしながら、左手首の金色の石が付いた紐をはずして、椿に投げた。
リーシャンの神様連絡網。石がありゃ神様でなくても通信できるのだから、実質携帯電話だ。
「分かったわ!」
椿が金色の石を受け取って身に付ける。
リーシャンが「カナメのために作ったのにー」と文句を言ってるが無視だ。これでリーシャンがこっちにいれば連絡が取れるだろ。
「えぇ、黒崎担当? だけどカナメっちと一緒に戦うのは危ないからなあ。了解」
「承知した。カナメ殿も気を付けて」
戦闘を避けてダンジョンに降りる道を探し、駆け出す椿を、気が進まない様子で真は追う。
サナトリスは生真面目に俺に挨拶してから去った。
前衛のサナトリスと、後衛の真と椿。我ながら考えた配置だ。こっちは前衛の心菜と夜鳥、後衛は俺(とリーシャン)という組み合わせである。
「ゴーゴーです! 皆まとめてみじん切りです!」
「よくもタンザナイトを無茶苦茶にしてくれたな!」
怒りに燃える夜鳥と、猪突猛進な心菜は、俺の金剛石盾を踏み台に跳躍する。
俺は二人の動きを遮らないよう、盾運魔法式に指示を出す。
「とう!」「ハッ!」
心菜と夜鳥は、敵の兵士と距離を詰め、流れるような動作で切り込んだ。
向こうは銃を構えた狙撃兵。
接近されて泡を食っている。
「落ちろ!」
俺は光盾を遠隔操作して、隙を見せた敵を突き飛ばす。
リーシャンも目からビームを発射して攻撃する。
佐々木の周囲の兵士は次々とダンジョンに空いた穴に落ちていった。
これで諦めてくれたら良いんだけどな。
さすがに同じ日本人同士で殺しあいは後味悪いからなー。
「さすが近藤くん。ですが、こちらも増援が到着しました」
佐々木はそう言って、自分からダンジョンの穴に飛び降りた。
「!」
俺は穴のふちに駆け寄って底を覗きこむ。
暗い底に赤い光線が輝いた。
「あれは……心菜、夜鳥、避けろ!」
咄嗟に回避しろと呼び掛ける。
俺の叫びに反応して、二人は飛び退いた。
赤い光線が通り過ぎる。
間一髪だ。
「たあああーっ!」
心菜が刀を振りかざして穴の底に飛び込む。
「止めろ、心菜!」
制止は間に合わず、穴の底から出てきた鋼鉄の塊に、心菜の刀は弾かれた。
「うにゃ?! 硬いです!」
ずるずると地の底から巨大な鋼鉄の塊が出てくる。
それらはつながって組合わさり、空中でひとつになった。
見た目は平べったい円形の宇宙船のような姿で、大きさは穴と同程度。いや、地面の底から沸いてきた部品と合体して大きくなっていく。
宇宙船の頂点と下腹部には、複数の筒型の突起物があった。
あれが光線を撃ってきた砲台なのだろう。
「なんというか、あの造形、プラモを作りたくなってくるな……」
「ボケてる場合ですか、枢たん!」
宇宙船を見上げて感嘆する俺に、心菜の突っ込み。
宇宙船は、どら焼きに挟んだ餡に相当する場所に窓ガラスとおぼしき、透明な部分がある。そこには複数の人影が見えた。
スピーカーを通して佐々木から説明が入る。
「地球で開発した液体金属を素材にして、工作の魔法を用い、異世界で航空母艦を組み立ててみました。近藤くん、君が武器を魔法で作った方法の応用ですよ」
応用の規模がちがくないか。
「
とりあえず、攻撃してみた。
白く輝く結晶が宇宙船にぶつかって砕ける。
グゴン!と良い音がして壁面が凹んだ。
耐久値の一割も減ってねーな。
しかもジワジワ傷が直っていってやがる。
「物理攻撃には相当の耐性を持ってるとみた」
俺の感想に、佐々木は笑みを含んだ声で肯定する。
「その通りです。地球の科学技術を取り入れた最新の魔法ですからね。保守的な遅れた文明の力では、到底太刀打ちは不可能です。異世界など恐れるに足りません」
余裕かよ。
「どうするんだ、枢!」
俺の隣に、軽業のように一回転して夜鳥が着地する。
脳内で、このまま金剛投石機を連発した場合の計算を走らせる。
「MPが尽きるのが先だな……よし、一旦仕切り直そう」
「冗談じゃない! タンザナイトが」
突進しようとする夜鳥の襟首を捕まえて止め、俺は魔法を使った。
「
大地が鳴動する。
俺が本来もっとも得意とする、大地属性の魔法だ。
ダンジョンに空いた穴を中心に重力が増し、穴に引き込まれるように、宇宙船は自重で墜落した。
蓋をするように、宇宙船は間抜けに穴にはまりこんで身動き取れなくなる。
さらに追い討ちをかけるように、地面から鍵爪のように伸びた石の柱が、がっちりと宇宙船を四方から拘束した。
「な……これは……?!」
佐々木が驚きの声を漏らした。
俺はふんと鼻を鳴らす。
「せいぜいジタバタあがいて、俺を楽しませてくれよ」
さ~て、敵が脱出するまで、ゆっくりデカブツに穴を開ける方法を考えますか。
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