32 喧嘩両成敗を目指して

 俺の誘いは椿の心に響いたようだ。

 彼女は攻撃を止めて迷う素振りになった。

 

「か、考えてあげても良いわよ……」

「じゃあ考えながら移動しようぜ。海賊船は居心地が悪いからさ」 

 

 カダック海賊団に関わるつもりは無いのだ。

 俺は城山と椿を連れてさっさと飛び立とうと、リーシャンに合図した。

 

『待て待てーい!』

 

 そこに人の言葉をしゃべるカモメが飛び込んできた。

 

『俺はキャプテン・カダック! コーウェンの街の領主マリアは正義の名のもとに圧政を敷いている。俺たちは街を救いに行くところだ!』

 

 カモメは俺に向かってがなりたてた。

 領主のマリアは海賊団が悪いと言っていた。その海賊団のカダックは領主のマリアが悪いと言う。俺からすれば五十歩百歩だ。

 

「……行こうか」

 

 俺は聞かなかったフリをした。

 

『おい、祝福の竜神とやら! 可愛そうな街の奴らに慈悲をかけてやれ。このまま領主マリアの圧政を赦したら死人が』

「リーシャン、聞かなくて良いからな」

 

 言いながら、頭上をバッサバッサと飛ぶカモメの首をわしづかみにする。

 

『ぐえっ』

「うるさいんだよ。てめえらの問題はてめえらで解決しろ。何でもかんでも神頼みするな」

 

 俺も聖晶神と呼ばれていたとはいえ、何でもかんでも頼みを聞いていた訳ではない。クリスタルの身体で身動きがとれないから、身を守るために仕方なく人助けしていた面もある。アダマスの国民とはクリーンなギブアンドテイクの関係だ。

 

「枢さん、助けてあげましょうよ!」

「城山」

「大地で良いです。せっかく関わった事だし、街を救ってヒーローになりましょう!」

 

 ずっと名字で呼んできたが、パーティーを組んだ仲間であるし、大地と名前で呼ぶことにする。

 それはそれとして、大地は街を救ってヒーローになると気軽に言うが、面倒なことになるのは目に見えている。

 

「却下。大地、お前ひとりでやったら?」

「えー?!」

 

 大地は正義感に燃えた発言をするが、俺は即座に却下した。

 

「……いいかもしれない」

 

 しかし、何故か椿が大地に同意したので雲行きが怪しくなる。

 

「こういうのはどう? 私たちは街を救って、この海賊船を一隻移動用にもらう。そして海賊団を解散させて、街から謝礼をふんだくる」

「おお……」

「喧嘩両成敗の一石二鳥よ」

 

 椿は人差し指を立てて提案した。

 な、なるほど。

 その手もあるな。

 

「だけど具体的にはどうするんだ? 領主を退任しろと迫ったところで、言うことを聞くマリアさんじゃないだろ」

 

 黒崎の側にいた椿なら「言うことを聞かなければ殺せばいいじゃない」と言い出しそうで怖い。しかし真っ当な手段で街を救えるとは思えない。

 

「そんなの、あなたが考えればいいじゃない。私は知らないわよ」

「丸投げかよ」 

  

 恐ろしいことに、椿は言うだけ言って後は俺にぶん投げた。

 さすがあの黒崎の仲間だったことはあるな。

 俺は手が疲れたので、カモメを離した。

 カモメは慌てて空に逃げ出す。

 

『俺に心当たりがある! マリアの叔父のナタルは、バランス感覚に優れた優秀な男だ。マリアを退任させ、ナタルを後釜に据えればいい!』

 

 空中でカモメの口を借りて、カダックが発言した。

 

「椿のプランで行くなら、お前らの海賊団を解散させて街から謝礼をもらう予定だが、お前はそれでいいのか?」

『解散しても、また別の仕事を見つけりゃいいからな』

 

 別の場所で海賊を続けそうな気がするが……こいつらの改心までは責任を持てないな。

 俺は大地の肩をガシッとつかんだ。

 

「よし。良かったな大地、念願のヒーロー役だ」

「え? 枢さんがヒーローになるんじゃ?」

「馬鹿言え。お前がやりたいと言ったんだからな」

「えぇー?!」

 

 面倒なことは大地にやらせるつもりだ。

 こうして俺たちは喧嘩両成敗作戦を決行することになった。

 街の詳細な情報をカダックに聞くため、なぜか俺とリーシャンも海賊船の客になってしまったのである。

 

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