25 決戦<後編>

 黒崎は、近藤枢が空中に取り出した杖を見て目を見張る。

 あれは神器だ。

 どうやら本気で戦う気になったらしい。

 

「いいだろう。俺に攻撃魔法を撃ってこい、近藤。その時がお前の最後だ」

 

 黒崎のスキル「滅殺返カウンター」は、刀剣による直接攻撃をのぞく魔法攻撃と特殊スキルを弾き、相手を死に至らしめる。

 戦いの最初に真のイカサマを破ったのも、このスキルの効果だった。

 

 目の前の日本刀を振り回す少女は、いつでも殺せる。

 しかし、あえて泳がせて様子を見よう。

 枢が、魔法を撃ち込む隙があると勘違いするように。

 

「さあ、攻撃してくるがいい」

 

 カウンタースキルの効果は、相手の攻撃が強力であればあるほど、返すダメージも増大する。

 枢ほどの魔法の使い手が全力で撃ち込んでくれば、返すダメージも極大になるだろう。その倍返しは仲間もろとも、枢を自滅へ追いやるのだ。

 心菜と戦いながらその時を待った。

 この判断が間違いだったと、黒崎が悟った時には……もう手遅れだった。

 

 

 

 俺は杖を持ったまま、ひたすら味方の補助と回復を続けた。

 黒崎には攻撃しない。

 そもそも、前に出て戦うのは俺の主義じゃないんだ。

 

「はあっ!」

「無駄だと言っている……何?」

 

 裂帛の気合いと共に繰り出された心菜の刺突を受け流し、黒崎が怪訝な顔をする。その頬に、薄皮一枚の切り傷が走った。

 それまで全く傷ひとつ付けられなかった心菜の攻撃が、徐々に威力を増して黒崎に届きつつあるのだ。

 

「どけやこら!」

 

 城山がゾンビを強引に跳ね返した。

 明らかにパワーが上がっている。

 黒崎は跳躍して俺たちから距離を取ると、状況を俯瞰するように鑑定を使ってきた。

 

『城山大地 Lv.170 種族: 人間 クラス: 魔法剣士』

 

「レベルが上がっているだと?!」

 

 驚愕する黒崎を追って、心菜が地を蹴って高く跳ぶ。

 

おおとり 心菜 Lv.191 種族: 人間 クラス: つるぎの巫女』

 

 心菜の日本刀の一閃が、危うく避けた黒崎の髪を切り飛ばし、床に深い爪痕を作った。

 

「これは……これが近藤のスキルか?!」

 

 黒崎の驚愕の叫びに、俺は淡々と答える。

 

「俺の聖戦は発動中、味方のレベルを5秒で1レベル上げる。1分で12レベル上がるんだ。10分もありゃ、お前らに追い付いて、追い越す」

 

 異世界でセーブクリスタルだった俺は、ずっと身動きできない状況だった。何が言いたいのかというと、敵が攻めてきても逃げるという選択肢が使えないってことだ。

 絶対に勝たなければならない。

 敗走イコール死なのだから、負けることはできなかった。

 確実に身を守るためには、周囲の人間の力も借りる必要がある。だから俺は、俺を守ってくれる神官や騎士や冒険者たちを最大限、支援し、一時的に実力以上の実力を発揮させて、必ず勝たせる。

 それが、俺の称号【勝利をもたらすもの】の力。

 

「今度が本番だぜ……いかさま!」

 

 寝たふりをしていた真が、飛び起きてスキルを使う。

 真はずっと敵の隙をうかがっていたのだ。

 俺の聖戦でレベルが上がったことにより、基礎能力値が一時的に向上している。

 今なら敵の抵抗を突破できる。

 

「対象は、お前だ!」

「なっ?!」

 

 八代椿とレベルを交換。

 シシアと戦闘中で不意を突かれた八代は、真のスキルにあえなく屈した。

 

陽光矢サンアロー!」

 

 シシアが放った光の矢が八代に向かって飛んでいく。

 矢を受け止めた手鏡が割れ、眩しい光の欠片が彼女の周囲に飛び散った。

 

「ああっ、目が! 目がぁっ!!」

 

 光に目がくらんだのか、八代は両手で顔を押さえて絶叫する。

 

「椿!」

 

 黒崎は心菜の追撃を避けて、八代のもとへ向かう。

 

「悲しき亡者たちよ、闇に還れ! 陽光矢サンアロー!」

 

 シシアは弓矢でゾンビを狙撃し始める。

 三匹のゾンビは次々に倒れ、動揺した三雲の背後に、夜鳥が忍び寄る。

 

「目標の雛人形、奪取完了」

「しまった?!」

 

 三雲が持っていた、アマテラスが封じられた人形を取り返した。

 

『おお、必ず助けに来てくれると信じていたぞ! これがひろいんの気持ちなのかのう、ドキドキするのう』

 

 黒髪をにょろにょろ伸ばした人形が、目を輝かせて俺を見る。

 なんだか呪いを掛けられてる気がするぜ……。

  

「子供は家に帰って寝る時間だ!」

 

 城山が盾で三雲を殴り倒した。

 ゾンビと三雲は片付けた。

 残るは黒崎と、目の見えなくなった八代のみ。

 

「そろそろ降参した方がいいんじゃないか、黒崎」

 

 俺は聖晶神の杖をかかげて、黒崎に突きつけた。

 

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