16 リーシャン再び

「まーさか、冗談じゃなくて本当にLv.999なんてな。どうやってレベル上げしたんだ?」

「地道にこつこつ雨垂れ石を穿つ的な」

「嘘付け。なんか効率の良い方法あんだろ」

 

 アマテラスたちと別れた後、夜の路上で、俺は改めて「Lv.999」だった件を真に問い詰められていた。地道にレベル上げしたって嘘じゃないぞ。時間が有り余ってたからな。

 

「でも考えてみたら、人間以外に転生する可能性も、あったんだよなー」

 

 真は、公園の出入口に設置してあるフェンスに寄っ掛かっている。

 

「人間以外って言ったら、魔族とか人間の敵じゃん」

「枢たんが、まじょくになるはずがありまひぇん!」

「……心菜、しゃべりながら食うのは行儀悪いぞ」

 

 前にも同じ注意をしたっけ、と思いながら心菜をたしなめる。

 彼女は戦闘でお腹が減ったと言って、コンビニで買った菓子パンにかぶりついていた。パン屑が頬に付いてるぞ。

 

「きっと枢たんの事だから清く正しく美しく」

「いや、普通に人を殺してたから」

 

 千年も時間があれば色々起こる。アダマス王国を守るために選択しなければならない時もあった。

 

「人外でー、出歩けないか動けないかでー、アダマス王国にいた……」

 

 真が指折りで条件を数える。

 

「えっ、でもアダマスって人間の国だろ。人外の種族はあんま住んでなかったような。あとはー、無いと思うけど、有名な聖なるクリスタルとか?」

 

 正解。無言で曖昧な笑顔を浮かべて見せると、真が慌てた。

 

「ちょ、待てよ。マジで?」

「なーんてな。俺の異世界の話なんて、どうでも良いだろ。秘密だよ」

「ふにゃー、謎めく枢たんも格好いいです……!」

 

 真は気付いたようだが、心菜は綺麗に誤魔化されてくれた。本当に可愛いよな、俺の彼女は。

 

「……おい枢、黒崎の誘いはどうすんだ?」

「考え中」

 

 真は話題を変えてきた。

 黒崎に、話をしようと誘われたのだった。

 興味が無い訳じゃないが、きな臭い感じがする。

 俺は心菜の頭を撫でながらちょっと考えて、結論を出した。

 

「はぁー……また明日にしようぜ」

 

 面倒なことも都合の悪いことも後回しだ。

 人間の姿で戦ったのは初めてだから、結構疲れた。

 今日はとりあえず家に帰ろう。

 

 

 

 

 真と心菜と一旦別れて自分の家に帰った。

 いつの間にか終電の時間になっていたので、両親は就寝しているようだ。家の中は真っ暗だった。

 自分の部屋に入り、布団に潜って目を閉じる。

 うとうと微睡んでいると……。

 

「アッダマントー!」

 

 ほげっ?!

 やたら明るい声に叩き起こされた。

 気が付くと俺は、アダマス王国の大聖堂で青く輝くクリスタルになっていた。またか……。

 俺を覗きこむ人間の子供サイズの白い竜。

 ミニマムサイズに変身した竜神リーシャンだ。

 

「魂が迷子になってるみたいだから、召喚の魔法で呼び直しちゃった! てへっ」

 

 お前の仕業かあぁーーっ!

 せっかく地球に帰ってたのに、こっちに呼び戻しやがってからに。

 しかもクリスタルの身体にべったり貼られた薬草臭いテープ。本当に「ミラクル修正テープ」を使ったらしい。臭いしベタベタするから止めて。もう直ってるし。

 

「あれ? 怒ってる? もしかしてわざと魂だけで出掛けてたの、ジ・アースに」

 

 リーシャンは無邪気な瞳で首をかしげた。

 そうだよ、里帰りしてたんだよ。

 お前の都合で呼び出すな。

 貴重な睡眠時間だったのに。

 

「そういえば、黙示録獣アポカリプスを目覚めさせた奴の名前が分かったんだよ。魔神ベルゼビュートが、魔界の奥で眠っていた黙示録獣アポカリプスを呼び覚ましたんだ」

 

 なんだって?

 

「なんで世界を滅ぼそうとか思うのかなー。生きるってこんな楽しいのに。ねえ、アダマント!」

 

 リーシャンは白い尻尾をゆらゆらさせている。

 思わぬ追加情報に、俺はクリスタルの中で考えを巡らせた。

 魔神ベルゼビュートは黒崎永治のことだ。奴があの金色のヤマタノオロチを目覚めさせたというのか。

 

「また考えこんでるー」

 

 よし、さっさと「緊急脱出 」魔法を使って現実世界へ帰ろう。

 俺が魔法を使う気配を感じたのか、リーシャンが尻尾をピンと立て、耳をピクピク動かした。

 

「ジ・アースに行くの? 僕も遊びにいっちゃおうかなー」

 

 お前は来るなと思いながら、俺は再び異世界を脱出した。

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