20 ギルドイモータルの逆襲
夜鳥には、
特殊スキルや一点特化型のステータス構成は、勝負時にレベル差をひっくり返すことがある。それが例え数百レベルの差だろうと、逆転は起こりうる。現実は数値に表れない様々な条件が絡み合うからだ。
「……」
床に倒れた八代の胸から血だまりが広がる。
ステータスを確認したが、不死者らしく死んでも甦るスキルを持っていた。だが復活までは時間が掛かる。実質の戦闘不能だ。
「……伏兵とは。近藤は、お人好しで真面目な性格だと誤解していたよ」
黒崎は八代を見下ろして苦い顔をする。
この俺の人畜無害な雰囲気に、一人きりで来ると踏んでいたらしい。
まあ確かに「人間や生物に優しい」かもしれないが「清廉潔白」じゃないぞ、俺は。
「椿……」
その呟きを聞いて、俺は少し心が痛んだ。
黒崎は八代を抱き上げると、俺たちに背を向ける。
「次はこうはいかないぞ、近藤」
黒崎の背中はまるで蜃気楼のように揺らいで消えた。
何かスキルを使って、一瞬で遠方に移動したのだろう。
危険が去ったと判断して、俺は警戒を解く。
「はー。助かったよ、夜鳥」
「何だか知らねーけど、お疲れさん」
俺は夜鳥に礼を言った。
夜鳥はナイフをしまうと、俺に向き直る。
「それにしても地球を滅ぼす、か。そんな簡単に滅ぼせるのかねえ」
「キングギドラみたいな怪獣を、ダンジョンから召喚するつもりらしいぞ」
「何だそれ」
金色のヤマタノオロチのような姿をした
「まあ地球が滅びても、異世界に移住すりゃいいんじゃね」
「お前気楽だなー。いや、けどそれもいいか……?」
夜鳥の気楽な意見を聞いて、ふと俺は気付いてしまった。
この身体のまま異世界に行ったらどうなるのだろう。
もしかして、クリスタルの身体もキープしながら、俺自身の身体で動き回れるようになるのだろうか。
竜神リーシャンとも話せるし、千年見守ってきたアダマス王国をこの足で見て回れるかもしれない。それって何だかワクワクしないか。
「おかえり、枢たん! って、それ何?」
黒崎の件が片付いたので、真と心菜にメッセージを送り、近くの公園で合流した。ちなみに夜鳥は先に帰ってもらった。
心菜は、俺の前が膨らんだシャツを見て、不思議そうにする。
「あ、ウサギギツネ。すっかり忘れてた」
黒崎との戦闘直前に拾った小動物について思い出す。
「キュー?」
危険が去ったことに今さら気付いたのか、襟首からウサギギツネが顔を出した。
「か、可愛い! で、でも枢たんのふところは心菜のものなのに!」
心菜は目を輝かせてウサギギツネを凝視し、妙に嫉妬深い台詞を付け足した。
「こいつ、どうしようかなー。異世界の生き物だから、異世界に返したいところだけど」
俺はシャツからウサギギツネを引きずり出して、ふかふかの毛並みを撫でた。
「枢たん、心菜も撫でて!」
「はいはい」
ついでに心菜の猫っ毛も撫でてやる。
「ダンジョンから異世界に行けるんだっけか」
「でも例の
真が言いながら、ウサギギツネに手を伸ばす。
しかしウサギギツネは「キュッ!」と鋭く威嚇して、真の手を遠ざけた。うーむ、警戒心が強いんだな。
「……皆さん!」
公園の前に、車が止まった。
運転席から慌てた様子の佐々木が出てくる。
「アマテラスさまが、ギルド
「「「!!!」」」
開口一番、佐々木は大事件を告げる。
現場に居合わせたのか、佐々木のスーツはところどころ裂け、眼鏡には亀裂が入っていた。
「いくら神であるアマテラスさまが不死とはいえ、魔神ベルゼビュートの毒に侵されれば弱ってしまいます。そうなればダンジョンを封鎖する結界が解け、強力なモンスターたちが一般市民を襲い始めるでしょう」
佐々木は一直線に俺の前まで歩いてくる。
ゴゴゴと音が聞こえてきそうなほど、切羽詰まった佐々木の目は爛々と光り、異様な迫力があった。
「アマテラスさまを救えるのは、神クラスの力を持つ近藤くんだけです。どうかアマテラスさまを助けて下さい」
今にも土下座しそうな勢いの佐々木に詰め寄られ、俺はウサギギツネを抱えて首を縦にコクコク振った。
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