第70話 SS 第56話デートのあと、本原視点

駅前でナナとウィルフレッドを下ろした後――


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「なあ、葉月」

「なに?」


 俺はバックミラーに映る菜々とウィルさんの姿を見ながら、助手席に座る葉月に声をかけた。


「菜々とウィルさんってさ……好き合ってるよな?」

「ああ、そうだね」

 ウィルさんとは今日初めて会った。

 菜々が今いる国の人らしいが、日本語もペラペラで気さくな人だ。

 男の俺から見てもほれぼれするような見た目だし、一緒にいるとなんかこう、ついていきます、兄貴! みたいな気分になる。


 一方菜々は、高校の同級生だ。

 三年間クラスメイトだったし、かなり仲もいい。

 菜々は、見た目はわりと可愛いし、クラス全員の「妹」みたいなポジションだった。

 あの菜々が恋をしてるのかと思うと、なんだか感慨深い気持ちになる。


「でもさ、なんか二人とも、惹き合ってるのを無理やり離してるっていうか、認めないっていうか、うまく言えないけどめちゃくちゃムズムズしたわ」

 とくに菜々は、ぜってえ認めないって意志を感じるくらい。

 ウィルさんはけっこうあからさまなのに、何があったんだろうなぁ。


「ウィルさんね、国ではかなり身分の高い人らしいよ」

「身分?」

「うん、貴族だって。菜々にはこっちでは「さん付け」にさせたけど、普段はウィルさんのこと様付で呼んでるんだよ」

「はあ、貴族! 別世界だな。でもそうか。身分違いか。切ないな、それも」


 お互い日本人なら、身分もへったくれもなかっただろうに。


「だからさ、私、二人とも日本に住んじゃえばいいと思うんだよね」

 葉月がかわいく口をとがらせて、とんでもないことを言う。

「それって可能なの?」

「知らない。菜々が言うには、ウィルさんは一人っ子で後継ぎだって言うんだけど、ウィルさんも菜々が大切なら国を捨てるくらいしてほしいよ」

 おいおい。

「葉月は、菜々がいなくて寂しいんだもんな」

「当たり前でしょ。菜々はすっごく我慢しちゃう子だから。私のいないところでまた壊れちゃうんじゃないかって思ったら……っ」


 葉月が涙ぐむ。


 菜々は高校の時にお母さんを亡くしている。

 クラス全員でお通夜に行ったことあの日のことを、俺はよく覚えている。

 菜々はロボットみたいだった。

 恐いくらいに。

 涙も流さず、淡々とした菜々が別人みたいで、本当にこいつ壊れちゃうんじゃないか、母親の後を追ってしまうんじゃないかって恐かった。あの頃は、あの子が立ち直れるように、クラス一丸で必死だった。


「菜々は……あれから泣けたのかな」


 辛そうなときも、あの子はいつも笑うんだ……。


たすくは、あの頃菜々が好きだったよね」

「あー、バレてた?」

「うん。菜々のこと好きな佑だから好きになったんだもの。私の大切なものが分かる人だから」


 優しく微笑む葉月が可愛くて、信号を待ちながら素早くキスをする。


 たしかに俺は、あの頃菜々が好きだった。

 でも俺じゃダメなんだなって、すぐわかってしまった。

 それに、いつの間にか、そのそばにいる葉月の存在のほうが大きくなってたんだよな。


「菜々が笑える結果になるといいな」

 身分違いの恋なんて想像もつかないけれど。

 ウィルさんが菜々を泣かせたら、俺たちは絶対絶対許さないだろう。


「泣かせたら、もう絶対日本から出さないわよ!」

「だな」

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