第22話 スタッフ

 こちらも、夏は日が長い。

 一日は二十四時間だし、季節感もまあまあ同じ感じ。

 ただ日本の実家あたりに比べると、夏は夜がとっても短いなぁと思う。今は午後七時を過ぎたあたりで、ようやく日が暮れ始めるかなという頃合いだ。


 二時間ほど前に私が部屋に戻った時には、うちのスタッフは全員勢ぞろいしていた。みんな王都にある自宅から通うんだけど、今日の夕食は上級仕立て士同士の交流会が兼ねられているらしい。

 うちのメンバーは全部で八人。カトリーナの息子のトマスと、同じく造形士のガレン以外は皆女性だ。ガレンはカトリーナの弟子で、今はトマスの元で働いている。私は今回初めて会うので一番最初に紹介してもらい、あいさつを済ませた。

 少し長めの濃い茶色の髪を後ろで束ねたガレンは、いま二十六歳だそうだ。クールな雰囲気の人だけど、スタッフの中では年が近いほうだし、仲良くやれるといいな。


 ガレン以外は昔なじみなので、まるで親戚が集まったみたいな空気になって楽しい。


「ナナ、久しぶりね。町は楽しかった?」

 仕立て士のメイビスが、きゅっと私を抱きしめて顔をのぞき込む。

 彼女は二十五歳。スタッフの中では一番私と年が近いこともあって、昔から姉のような感じだ。

「メイビス、会いたかった! 町は楽しかったよ。市場に行ってね、たくさん買い物しちゃった」

「ふふ。護衛に騎士がついたでしょう。どんな方だった? みんな麗しいわよね」

 メイビスはうっとりとしている。


 うん。たしかに王都の騎士の皆さんはすっごく素敵よね。

 近くで見られる機会があったら、女性陣はその機会を絶対に逃さないと聞いたこともあるもの。その素敵な男性が護衛をしてくれるなんて、きっとお姫様のような気分になれるだろうな。

 どんな騎士様だったのか興味津々と言った感じで、女性陣がわらわらと集まってしまったけど、ローナとマリオンはアラフォーだし、カトリーナはアラフィフ。しかも全員既婚女性なのよ。

 素敵な男性の話は、年齢関係ないんだね。


 なので私が

「あ、それはお断りしたの」

 と言ったときは、みんな目が丸くなってしまった。

 なんか、その、期待に沿えなくてごめん。


「え? 一人で町に行けたの?」

「ううん。たまたまラミアストルの若君と会ってね、暇だから護衛してくれるっておっしゃるから、甘えさせてもらったんだ。忙しい騎士様を煩わせずに済んでよかったよ」

 それを聞いたときのポカンとしたメイビスたちの顔に、何かまずいことを言ったかな? と心配になる。

「テイバー様が?」

「そう」

「ナナ、知り合いなの?」

「う、うん」

 え、なんかまずかった?

「あらやだ~」

 とたんに華やかな笑い声をあげるメイビスに驚いてオロオロしていると、いつのまにか他の人も何やらニヤニヤしてる。

 なにこれ。妙に気恥しくなるくらい、居心地悪いんだけど。


「テイバー様が護衛なら、他の騎士様なんて、ねえ?」

「そうよねぇ。よかったわね、ナナ」

「ん?」

 どういう意味?

「お強いし、国一番の美丈夫でしょう。ねね、どうだったの?」

「どうだった、って……」

「もう! あんな素敵な人がそばにいたら、町の風景なんて目に入らないでしょうって言ってるの!」

 へ?

「ううん。市場でたっぷり商品を見てきたし、買い物したし、町も少しだけど見てきたわよ?」

「えー!」

 なぜみんなでブーイング。

「ナナ、これ見えてる?」

「メイビスの手」

 ちゃんと目は見えてるってば!


 そっか、若君にうっとりするのは、うちのスタッフもそうだったのか。知らなかったわ。たしかに市場のおばあちゃんたちでさえも、若君を目で追いながらかわいらしく頬を染めてたけど。


「まわりの視線がぜんぶ若君に行くから、気楽に買い物できてよかったわよ。ずっと肩にタキを乗せてくれてたから、踏まれなくて安心だったし」

「タキ。うらやましい」

 瞬間的に出てきたローナのつぶやきに、思わず腹筋崩壊する勢いで笑い転げてしまった。

 ローナは今三十七歳で、子どもが三人いるお母さん。

 それでもやっぱり、綺麗な顔の人って、アイドルみたいな感覚なんだね。

 ちょっと楽しいかも。

「タキ、ちょっと抱っこさせなさい」

 あら、若君と間接抱っこかしら?

 ローナがタキに抱っこを迫ったけど、タキはトトンと高い棚に上がって丸まってしまった。


 あとはなぜか事細かに何をしたのか聞かれたので、買ったものを広げて見せると、これまたみんなに微妙な顔をされてしまう。

「これ、くず石?」

「そう」

「守り石にできないわよ? いいの?」

「でもきれいでしょ?」

「テイバー様に、守り石を差し上げないの?」

 え? なんで?

「しないけど……。え、だって、差し上げる意味もないし、若君には必要ないじゃない?」

 すでに手首にじゃらじゃらだよ?

「ああ、うん、そうね」

 なぜかみんな顔を合わせて、曖昧に言葉を濁す。

 若君に彼女がたくさんいるだろうってこととは、なんだか微妙に違う空気だけど、なんだろう?


 少し疑問を持ちつつも、私は買ってきた素材をどう使おうかということを考えはじめ、そちらに夢中になってしまった。

 くず石なんて言われてるけど、穴をあければビーズとして使えそうなんだよね。

 そのままいくつか組み合わせて、固めてもキレイだろうし。


 こちらのビーズは、最初から穴の開いた極小の天然石が使われているんだけど、なんとなくそれは透明なものでもプラスチックっぽい感じなのだ。あとは翡翠みたいなマットな感じとか。それはそれでキレイなんだけと、守り石用の石なら宝石って感じで輝きがあるし、使いようによっては、ぜったい素敵なものになると思うのよ。

 あとで大きさと色別に分けておこう。

 

「さ、あんたたち、夕食の時間だよ。ホールに移動!」 

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