第2話 夢の中でも獏を見た。

 夢の中でも獏を見た。

 昼間の様子とは打って変わってこちらをじっと、見つめている。

 まあ、そうだよな、と今回はさして驚かない。あんな都会で獏を見たのだから夢にまで出てきて当然だろう。こちらは既に学んでいる。京都に獏は当たり前。

「そんな訳なかろうて」と言わんばかりに獏は目を細めた。

「いや、実際にしゃべっておるよ」

 今度はその言葉に合わせて口を動かしているのがはっきりと見えた。間違いなく獏はしゃべっている。

 なんと。京都の獏は日本語を話せるのか、いや夢だからそれもありなのか。

「……うむ、まあ今はそれでよかろう」

 やれやれ、と呆れた様子で獏は鼻を振る。こいつは何しに僕の夢に出てきたんだ?

「阿呆、それはこれからじゃろがい。めんどくさいが義務だから説明してやる。何回も言いたくないからよく聞いとけよ」

 偉そうに獏は勝手に話を進めだす。僕の夢なのに主導権は僕にないのか。

「あー、伯西児(以下“甲”という)と、鳴滝壱郎(以下“乙”という)は次の通り雇用契約(以下“本契約”)を締結した。第1条(雇用契約)乙は甲に労務を――」

「ちょっとまった!」いやいや、さすがにそれは。

「なんじゃ、大事な話の腰を折るもんじゃないよ」

 獏はさも心外だと訴えるかのように鼻を鳴らす。

「……その話は長くなりそうですか」

「まあ、大事な話じゃからな。ざっとあと30条ばかり。」

「長すぎる……」第2話にして読者が離れてしまうよ。

「お前さぁ、大事な話はちゃんと全部聞いた方がいいぞ。これから賃貸とか納税とかさぁ――」

 ――獏が長そうな説教を始めようとしたまさにその時、ぐらり、と地面が揺れたような気がした。

「ありゃ、もう目が覚めるのか」

 獏は慌てた様子で続ける。

「うむむ、仕方ない。もう少しかみ砕いて説明してやるか。よーく聞いとけよ。第2話で読者が離れるのはさすがにいかんからな!」

 さっきまでと違う獏の様子に僕は少し緊張する。夢とはいえ、ちゃんと全部聞いておいた方がよさそうだ。

「おまえ、わし、みえる。だから、おまえ、わしに、ゆめ、たべさせる、以上。」

「なるほどわからん!」

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