第5話 女子校
女子校は気楽で良い。
つまらないウワサも、変な嫉妬も、男がいない分いざこざが少ない。
電車で三十分の駅前の女子校は通学も便利で可愛いカフェなんかも多く、私は存分に高校生活を楽しんでいた。
「見て、改札の前の男の子。」
この辺りには女子校しかない為、ああいう学ランを着た男子は特に目立つ。
「そりゃ、この辺に住んでるなら駅も使うでしょ。」
私は密かに心臓をバクつかせながらカバンから定期券を取り出した。
一瞬しか見てないけど、嫌な予感がした。
まさかねー。と思いつつ、顔を隠しながら改札の前まで来て、かざそうとした定期券はパッと手から奪われてしまった。
「なに無視して行こうとしてんだよ。」
おそるおそる見上げると、私の定期券をヒラヒラさせながら立っていたのはやっぱり前田だった。
「何してんの?ストーカー?」
「誰がストーカーだ!お前がちっとも返事してこねぇからだろうが!」
卒業式後の食事会で無理矢理連絡先を交換させられてから、前田からは時々メッセージが届いた。
昼ご飯の写真だったり、授業中の教室の写真だったり、「眠い」だとか、特に返事が必要なものでは無かったから、返事をすることは少なかった。
「返事って何の?」
「だから今日送ったやつの返事!」
「今日?え?」
改札まで一緒に来た友達は、「また明日誰なのか教えてねー」と、先に改札を通って行ってしまった。
とにかくここは目立つからと、一度だけ行ったことのある喫茶店に入った。
でも、その喫茶店もおしゃべりを楽しむ女子高生が何組かいて、私達は少し目立っていルようだった。
二人ともアイスコーヒーを頼んだ。
私はとりあえず一息ついてメッセージを確認した。
前田から来ていた未読のメッセージはこうだ。
[お前バレバレ]
メッセージは改札口にいた時の時間に送られていた。
「だましたね。」
キッと睨むと、前田は「変な壺買わされるなよ」と言ってニッ笑った。
「見過ごしてたらずっとあそこに立ってたの
?」
大きなため息が出た。
「お前が来たらすぐ分かるよ。」
「へ?」
「だってその長いスカート、長い真っ黒の髪の毛。お前ぐらいじゃねぇの」
「私の学校はこれが普通なの!!」
前田はこういう奴だった。
「じゃあスカートも膝上にして、髪も茶髪にすればもう見つからなくて安心だね!」
「バカじゃねーの?茶髪にしたって俺がお前に気がつかない訳ないじゃん。ま、茶髪のところもみてみたいけど。」
「バカはお前だ!」
小さく頭を叩いてシーっと指を立てた。思わず頭を叩いたのは、慣れないセリフて照れた顔になりそうだったからだ。
店内のどこからかヒソヒソと「どこの学校?」だとか「バカップル?」だとか聞こえてきた気がした。
「で、何しに来たの?」
前田と話すと調子が狂う。
「何って、デートだろ。普通に。」
「デート?」
思ってもいなかった言葉が出てきた。
だって待ち合わせも何の約束もしてないし、行き先も遊園地でもなんでもないし、第一私達は付き合ってないし。
でも待てよ、きっと前田の学校の人達は、付き合ってなくてもデートぐらいするし、待ち合わせなんてしなくても学校帰りにお茶なんかして、公園でイチャイチャしたりするのがお決まりなのかもしれない。
が、とにかく私の価値観ではこれはデートでは無く、あくまでも元同級生とアイスコーヒーを飲んでいる所だと自分を落ち着かせた。
期待するのは良くない。絶対に踊らされてはいけない。
「本当に変わらないね。」
「俺?」
「あんたも、私も」
その後思い出話を少ししたぐらいで、ほぼ貸切状態の電車に二人で乗った。
久しぶりの二人きりが少し気まずい。
地元の駅に到着するともう辺りは薄暗くなっていた、自然と前田は家まで送ってくれるようだった。
「俺、引っ越すんだ。」
家の近くまで来て、唐突に前田は言った。
実は、そのことを私はなんとなく知っていた。
今日も本当はその話しをしに来たんじゃないかと、思いたくはないけどずっと思っていた。
後のことはもう覚えていないけど、あの時、私は初めてキスをした。
それから私達は本当に長い間会うことは無かった。
あの日の翌日、学校で友達に茶化された時、私は思わず泣いてしまってその子を困らせてしまった。
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