素直はいらない

@mufufufu

第1話 お転婆の恋心

小学生の頃の話。

私はひどくお転婆で凶暴だった。

「うわー!佐藤が怒ったぞ!」

「逃げろー!」

「ちょっと男子!待て!!逃げるなー!」

当時の私は足が早く、跳躍力もあり、男子を蹴り飛ばす事が毎日の日課だった。

でも不思議な事に、小学生の頃はこんな暴力的にお転婆が、女子だけでつるんでいる女の子よりモテたりもした。

よく言えば、明るくて、一緒に遊べるタフさなんかが魅力的だったのかもしれない。


「前田がリンのこと好きなんだってー。」

下駄箱を出た所で、ウワサ好きのしおりちゃんが興奮気味に報告してきた。

しおりちゃんは家が近く、一緒に帰ることが多かった。


「え?」

前田はいつも蹴り飛ばしている男子のひとりだ。

「別に私は前田のこと好きじゃないし!!」

立ち止まって話していると、手洗い場の裏から男子が数人固まって出てきた。

「そんなこと言うなよー。」

「前田フラれてんじゃん。」

固まりの中には前田本人の姿もあった。

 

恐らく小学4年生の時のことだったと思う。

皆がまだ「好き」ということがふわりとしていたような、そんな頃だった。


前田は1年生の時からずっと同じクラスで、ケンカをよくしていて、自分のことを好きで

いてくれたとは思っていなかった。

むしろ、やたらと突っかかってくる度に嫌われているのではと思ったこともある。


前田は、私の目を見てハッキリと言った。

「そっちが好きじゃ無くても、こっちはずっと好きだからな!!」

子どもらしいような、子どもにしては堂々としているような、そんな告白だった。


このことばにより、私と前田は小学校卒業までの間、周りから勝手に「夫婦」と言われ続けていた。

前田は否定せず、私だけが一生懸命火消しに追われた。

まだ告白の先に「付き合う」ということがあることを知らない、小さな二人の大きな出来事だった。


前田は相変わらず私のことが好きだとアピールしていた小学6年のこと、修学旅行のバスの中で事件が起きた。

「佐藤さん。これあげる。」

いつも大人しい藤原くんだ。

「何これ?」

「お土産。」

渡されてのは、修学旅行の行き先で買ったであろうひとつのキーホルダーだった。

「なんで?」

「だって僕、佐藤さんが好きだもん。」

男子は場所を選ばない生き物なのだろうか。

寝てると思っていた他の生徒達は「まえだー!お前浮気されてるぞ!」と、騒ぎだした。


告白してくれた藤原くんは小学校卒業と同時にどこかに引っ越してしまったが、この日を境に他の男子もあまり私を怒らせることはなくなった。

あの時、前田がバスの中で暴れ出したからかもしれない。

私はそれが迷惑ではあったが、本気で迷惑だったかは分からない。


実は私は1年生の時からずっと前田が好きだった。


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