第四章 その5
「……どういうことだ?」
折津が口にした言葉の意味を理解するため、塚原は折津にそう聞き返す。
「私の血の半分はフィズだ。だが、もう半分は人間だ。だから私の血を体内に入れてもフィズになることはない。ただ、人間離れした力を出せて、フィズの殺し方がぼんやりと分かるようになる。つまり、人間でない、フィズでもない中途半端な存在になるんだ」
塚原が人間でない、フィズでもない中途半端な存在になる。それが、折津の言う、折津の足を引っ張らずに済む唯一の方法だった。
「もちろんお前の体が私の血に拒絶反応して死ぬ可能性もないわけじゃないが、私の血の半分が人間のおかげでその可能性は低い」
「要は俺が中途半端な存在になるのを覚悟すればいいって話か」
「そういうことだ。……もっといい方法が思いつければよかったんだが、思いついたのはこれだけだった。ごめん」
「謝ることじゃないさ。悪いのは一人で来た俺なんだからな。それより、やるなら早くやろう。いつシスター達に殺されてもおかしくない状況だしな」
「そうだな。塚原」
「何……ん!?」
塚原は言葉を続けて言うことができなかった。
折津が、塚原の顔を両手で掴みよせてキスをしたからだ。
「最後の思い出作りでも始めたのですか?」
塚原と折津を殺そうとしているシスターは、折津の行動を見て呆れたようにそんなことを言った。
一方塚原は、何で折津がいきなりキスをしてきたのか混乱するがすぐに、折津がキスをしてきた理由を理解する。
折津は、キスをしながら塚原の口に血を入れてきたのだ。
そう、折津は自分の口内を切って出血させ、キスすることで塚原の体内に自分の血を入れているのだ。
塚原にとってファーストキスは、血の味がするキスとなった。
「…………ぷはっ。悪いな、こうした方が手っ取り早かったからキスさせてもらった」
「あのな、少しばかり断りを……入れ……て……」
折津に文句を言おうとした塚原は、自分の体がどんどん熱くなっていくことに気付いた。
「安心しろ。拒絶反応で死ぬならとっくに死んでるよ。体が熱いんだろ? それはお前の体が変わっている証拠だ」
「俺の体が、変わっている?」
「塚原、シスターを見てみろ」
折津に言われた通り、塚原はシスターを見る。すると、塚原はうっすらとではあるが、フィズであるシスターの弱点であろう部分を認識することができた。
それは、塚原が人間でない、フィズでもない中途半端な存在に変わった証拠であった。
「今はあんまりだけど、しばらくしたらもう少しはっきりと弱点を認識できるようになるさ。さてと、これを使え、塚原」
そう言って折津が塚原に差し出したのはサバイバルナイフだった。
「どこに隠し持ってた?」
「背中にな。まだお前は弱点がうっすらと分かる程度だからこれを使った方がいいだろ。で、私には折り畳みナイフをくれ」
「分かった」
言われたまま塚原は折津に持っていた折り畳みナイフを渡し、折津からサバイバルナイフを受け取った。
「いけるな、塚原」
「ああ」
「この人数を相手に戦う気ですか?」
「黙って殺される奴なんていないよ、シスター」
折津がそうシスターに返答する。
「本当に人間は悪あがきが好きですね。まぁ、いいです。あなた達が死ぬのは確定事項なのですから。さぁ、折津さんと塚原さんをなぶり殺しにしなさい!」
シスターが合図した瞬間、フィズ達が塚原と折津に向かってきた。
折津は折り畳みナイフ一本でフィズ達に突っ込み、塚原はサバイバルナイフを構えてその場にとどまる。
「ふん!」
しばらくして、一体のフィズが塚原に鋭い爪を向けてきた。普通の人間ならば避けることのできないスピードの一撃だった。
だが、塚原はそのスピードに反応することができた。フィズの一撃を避けたのだ。
そして、フィズの一撃を避けた塚原は、フィズの背骨にサバイバルナイフを突き刺した。
「ぎぃやぁあああああああああああああ!!」
背骨にサバイバルナイフが刺さった瞬間、フィズは断末魔を上げ、死んだ。
「何!?」
シスターの驚いた声が塚原の耳に入り、塚原が辺りを見渡してみると、フィズ達が動揺して動きを止める様子が視界に入った。
一方、折津は、
「はぁ!」
「がっ!」
「ぐっ!」
「ぎぃえ!」
「うぎゃ!」
折り畳みナイフ一本で四体のフィズをあっという間に殺した。
「な、何をしているのです! さっさと殺しなさい!」
シスターの言葉で我に返ったフィズ達は再び塚原と折津に向かってきた。
「うおおおおお!」
一体のフィズが塚原に拳を向ける。
「おっと!」
普通の人間を木っ端微塵にする威力を持つフィズの拳を片手で受け止め、塚原は実感した。
本当に自分は人間ではなくなったのだ、と。
「なっ!?」
フィズは人間だと思っている塚原に拳を片手で止められて驚くが、塚原はその隙を見逃さずフィズの左目にサバイバルナイフを突き刺し、
「がぁあああああああああああああ!!」
断末魔を上げ、フィズは死んだ。
「ふぅー」
そして、折津は塚原がフィズ一体を殺す間にまたフィズ四体を殺していた。
「な、何で殺せないのです!?」
十体のフィズを殺され、動揺するシスターをしり目に塚原と折津はフィズと戦い続けた。
「相手はたった二人の人間なんですよ!?」
そこに、つい先程まで人間を見下す態度を見せていたシスターの姿はなかった。
「なのに、何で……」
こうして喋っている間にも、次々と仲間が死んでいく。塚原と折津によって。
その光景を見て、シスターは自身の中にある感情が芽生え始めていることに気付く。
恐怖という、感情が。
「人間如きに殺されているんですかぁあああああああああ!!」
目の前の光景を否定したいのか、それとも自身の内面を否定したいのか、はたまたその両方か。
シスターの絶叫がこだました時、教会内に残っているフィズはシスターだけとなった。
「残念だったな、シスター。あんたの負けだ」
「どうして、どうして、どうして!」
折津とシスターが会話をするが、塚原はその会話があまり頭に入ってこなかった。
体の熱さが増して、意識が朦朧とし始めてきたからだ。
「私達はフィズなのです! 人間よりも上の存在なのです! なのに!」
「何で負けたのか。そりゃ、私がお仲間だからだよ」
折津とシスターが会話を続ける一方、塚原はもう立つのも困難になってきていた。
「はぁ? …………まさか、あなたは!?」
「ふっ」
「ぎぃやぁ!」
シスターと会話していた折津が、シスターの右腕に折り畳みナイフを投げて刺し、シスターに隙が生まれた。
「塚原!」
意識が朦朧としていて、立っているのも困難な塚原だったが、その一言は聞き漏らさず、折津が求めていることを瞬時に理解した。
塚原は、折津に向かってサバイバルナイフを投げ、折津はそのサバイバルナイフを受け取った。
「こ、この、裏切り者!!」
「そう呼ばれるのは、とっくの昔に覚悟していたさ」
折津は、サバイバルナイフでシスターの首をはねた。
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