第221話ジャパニーズビレッジ

12月17日PM5:00

 トムが、俺達が泊まっているホテルに建築士を連れてきた。

 2ヘクタールの土地に40戸の家を建てる予定だと伝える。

 ジャパニーズビレッジ。日本人専用の住宅地だ。


 土地は一戸あたり私道を含めて400平米とし、建物は8メートル×9メートルの72平米の1LDK +メイド部屋を基本とする。敷地の入り口にはセキュリティのゲートと小屋を作り、ゲートを抜けた部分には広場を作る。


 広場に面した所には管理人室と住民の為の娯楽室を作る。

 広場の奥からが住居部分になる。

 モデルハウス兼販売用として、取りあえず2軒を建てる事にした。


 基本の建物で販売価格を8ミリオンペソと設定する予定だ。日本円で約1800万円。

 8ミリオンで40戸が完売すれば320ミリオンになる。


 フィリピンでは外人が土地を購入する事は出来ない。

 土地の所有者はイザベルが代表で作る新会社の物になる。

 購入者とは土地の部分は25年のリース契約とし、契約更新は無料とし、一世代の相続も可能とする。


 土地取得で145ミリオン。共用部分の建物やその他の造作、設備が20ミリオン。土地の嵩上げや敷地内の道路の舗装工事、塀等で30ミリオン。

 建物は、パラワンで手にはいる最高の建材や建具を使って一戸あたり2.5ミリオン。日本人用と言うことでシャワー室にはバスタブを付ける。

 断水で困らないように敷地奥には給水塔を建てて、10トンの水タンクを設置する。水道設備だけで5ミリオンも掛かってしまうが、快適に暮らしてもらう為には仕方ない。


 総額で計算上で約300ミリオンだ。

 多少の予算オーバーを考えると、完売しても利益は無いが、商売ではないので気にしない。


 コストを抑える事は簡単だ。

 72平米の家は1.5ミリオンで楽に建てられるし、給水タンクの無い所も沢山有る。

 自分が快適に住める家を提供したい。


 24時間、セキュリティがゲートに居て、雑用等のメイドサービスも時間単位で提供する。娯楽室の横には簡単な医療サービスの為に、看護師を1人雇う。敷地内の清掃や草木の手入れをする庭師も必要だ。


 入居者からは管理費として月に5000ペソを徴収する。

 入居者は日本人に限り、外部への賃貸は禁止する。


 概要が決まれば、後は前進するのみだ。


PM8:00

 夕食後に日本にいる二階堂に電話する。ジャパニーズビレッジの概要を話すと、パンフレットを作ろうと言う事になった。

 大まかな配置図等の設計図面が出来たら、それを元にCGで完成予想図を作り、パンフレットにすると言う。


 俺自信が一戸は自分の物にすると言うと、二階堂も一戸買いたいと言った。



12月18日水曜日PM2:00

 イザベルと俺、顧問弁護士はセブにいた。

 セブシティのウォーターフロントホテルにチェックインしている。

 ジャパニーズビレッジの会社をセブで登記する事になっていた。


 イザベルと弁護士は日本で言う定款の作成等に追われていた。


 必要な事を2人に伝えた後は暇だ。

 俺はプールで泳ぎ、デッキチェアに横たわってビールを飲んだ。


 暫くするとフィリピン人の団体が数人の子供を連れてやって来た。

 ビールを飲み終わったので退散しよう。

 部屋に戻って着替え、カジノへと降りる。10万円をペソに替える。


 テーブルゲームは、相変わらず中国人で賑わっている。

 大人しくスロットマシンの前に座る。3回目に入れた1000ペソが無くなる直前でちょっとした当たりが出た。

 マシンの下の受け皿に大量のコインが吐き出される。

 コインを鷲掴みにして投入口にいれていると女が横に立って俺を見ているのに気づく。

「スゴイネ アナタ ニホンジン?」

 女を見る。フィリピン人。

 膝上丈のスカートから伸びている脚が綺麗だ。大きく開いた胸元から見える谷間が眩しい。

 顔を見る。厚化粧の顔は美形だが、多分30過ぎだろう。

「ああ、日本人だよ」

「イツマデ イマスカ?」

「決まってないよ」

「カンコウ? ワタシ ガイド デキマス」

「ガイドか・・・日本語はどこで覚えたの?」

「ニホン イテマシタ。ナゴヤ シテマスカ? ナゴヤ サンカイ、 ナガノ ニカイ」

「名古屋に3回で長野に2回か」

 日本のフィリピンパブで働いていた訳だ。

「アナタ ドコ ニホン」

「俺は東京」

「トウキョウ イタコト アリマス。ディズニーランド」

「そうか。あそこは千葉だけどな」

「スカイツリー イキマシタ」

「そこは東京だ。お客さんに連れてって貰ったの?」

「ソデス。ニホン イデスネ タベル オイシイ」 

「日本に5回も行ってて、男を捕まえられなかったのか?」

「ミンナ アソビデショ ニホンジン ウソツキ オイデス」

「まあな、騙したり騙されたり、いろいろあるな」

「ワタシ ダマス シナイヨ。 ニホンジン ダマス スルデショ」

 女の声が大きくなってくる。

「俺に怒るなよ・・・」

「オコル シテナイ」

「今、歳いくつなんだ?」

「ワタシ 29サイ モウ オバチヤンネ」

「29歳?本当は?」

「ホントハ 31サイ」

「ははは・・子供は何人いるの?」

「フタリ。 ヒトリワ オトサン ニホンジン」

 女はスマホで写真を見せた。

「コノコ オトサン ニホンジン」

 写真を指さして言った。確かに日本人の様な顔立ちをした男の子だ。3歳位か。

「ほんとだ。日本人みたいな顔だな。お金送ってくれないの?」

「ナイ ニゲル シタデス。ケコン スル イテタケド オクサン イタデス」

「妻と言う字にゃ勝てわせぬ~って事か」

「ナニ?」

「何でもない・・・大変だな」

「ワタシ マッサージ デキマス」

 何処のマッサージをするのか。

「そういうのは要らないんだ」

 スロットマシンの下の受け皿からコインを大量に掴んで、隣のマシンの受け皿に移した。10ペソのカジノコインだ。

「これ、やってみな。当たればラッキーだ」

 女は隣の椅子に腰掛けて言う。

「アリガト ワタシ イザベル」

 俺のイザベルと同じ名前かよ。

 

 イザベルは真剣な顔でスロットを回した。

 

 


 

 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る