第211話 中国・台湾開戦

12月10日火曜日PM10:00

 香樹実を彼女の兵舎に帰して1人でベッドに横になりイザベルに電話する。


 元韓国人のヨンジュンは良く働いているようだ。

 港周辺のごみ拾いだけでなく、庭の草刈り等も子供達と一緒にやっていると言う。

 ヨンジュンの給料は日給300ペソだが、昼飯は孤児院で食べられるので問題ないと言っていた。

 3カ月頑張ったら400ペソに上げてやろうと言うとイザベルも賛成した。


 イザベルの声を聞いていると、直ぐにセブに帰りたくなってくる。

 早めに電話を切った。


 午後11時半過ぎに無線機から二階堂の声。

「中本さん、起きて下さい。作戦室に来てください」

「起きてるから直ぐに行くよ」

 飛行服を着て、上半身を脱いだ状態で作戦室に向かう。


 作戦室では田村と二階堂が待ち構えていた。

 二階堂が言う。

「台湾軍が劣勢になるまで待つことになりました」

 田村が言う。

「台湾軍の兵力も侮れない物があるが、中国が本気になったら一溜りもない。それを蔡英文大統領がどこまで分かっているのか」

 二階堂も言う。

「初めから日本側の言う事に従えばいいんですよ。日本からの輸出関税の撤廃と漁場の解放くらい、国が無くなることを考えれば安いモノですから」

 田村が言う。

「まあ、直ぐに首を縦に振りますよ」


 俺は複雑な思いで2人の話を聞く。

 経済戦争と武力衝突が絡み合っている。

 俺が聞く。

「日本が出る事になったら俺はどう動くんだ?」

 二階堂が言う。

「台湾上空で頑張って貰う事になると思います」

「飛んでくるミサイルや戦闘機を落とすって事か」

 田村が言う。

「台湾に被害が出るのは仕方ない事ですが、ある程度で止めないとなりませんからね」

「なるほどね」


 監視モニターと並んだレーダーモニターの前に座った隊員が叫ぶ。

「北から不審機2機接近中!」

 田村が言う。

「日本を牽制する積もりだな」

 通信員が英語で、日本の領空だと呼び掛ける。

 レーダー員が言う。

「当基地の西、台湾との間を南に抜けました」

 二階堂が言う。

「北からって事は台州や上海方面からか・・・中本さん、出番は近いですね」

 田村が言う。

「連中が北に引き返して、少しでも日本の領空に入ったらペトリオット発射だ!」

 通信員がミサイル班に発射準備を伝える。

 二階堂が言う。

「先制攻撃になってしまいますよ」

 田村が応える。

「領空侵犯への警告は既にしている・・・攻撃の正当な手順だ」


 レーダー員が叫ぶ。

「不審機が北に向かって引き返して来ます。3分後に当基地の西を通過の見込み!」

 田村が言う。

「日本領空に入ったら、警告後すぐにペトリオット発射だ!」


 俺は作戦室から出て、西の空を眺めた。


 3分後、PAC3ミサイル弾が発射された。自重320キロのミサイルが2基、炎を吐き出しながら飛んで行くのをバナナを食べながら見る。


 PAC2ミサイルでは、レーダー車輛から目標にレーダー波を照射し、その反射を捉えてミサイルが目標を追尾していたが、PAC3の場合は自らのシーカー(目標探索装置)でレーダー波を照射して目標を追尾する。


 ミサイルが吐き出す炎が小さくなった時に、炸裂するオレンジ色の花火が2つ見えた。

 撃墜成功だ。

 

 作戦室に戻る。

 二階堂が俺に走り寄って来て言う。

「直ぐに北京から総理官邸に抗議の電話が来る筈です」

「領空侵犯だから撃墜の正当な理由だろ?」

「今までは警告して追い出すだけでしたから」

「口で注意しても分からない子供には手をあげるだろ。少なくとも昭和の親はそうだ」

 田村が言う。

「こうなると、敵さんは勢力を上げて一気に台湾を制圧にかかって来るかも知れない。日本が助けに入る前に」


 レーダー員が叫ぶ。

「大陸から航空機が発進されました!約20機・・・増えています。目標は台湾!」

 田村が言う。

「来たな」


 二階堂が総理官邸にスピーカーホンで電話する。

「官房長官!台湾政府からはまだ何も?」

「今、総理が話しています」


 レーダー員が叫ぶ。

「大陸側からのミサイルが台中市に着弾!」

 田村が言う。

「台北を脅してるのか」

 レーダー員が言う。

「大陸側からの航空機の総数が50を越えました!」


 二階堂が話しているスピーカーホンと無線の両方から総理の声が響く。

「台湾政府が正式に協力を要請してきました。自衛隊の総力を挙げて台湾を守って下さい!」

 作戦指令室に隊員達の叫ぶ声が響く。

 

 俺のポケットのスマホが鳴っている。総理からの電話だ。

 作戦室の外で電話に出る。

「中本さん。お聞きの通りです。既に台湾は攻撃を受けています。自衛隊も台湾軍に加わります。こちらの被害を最小限に食い止めて下さい」

「10億円分は働きますよ」

「訂正します。10億円じゃ航空機1機分にもならない。報酬は100億円にします」

「それじゃ頑張らないと」

「また、連絡します。宜しくお願いします!」


 電話を切って作戦室に戻る。

 レーダー員に敵機の目標予想を聞いた。二階堂に手を上げて見せ部屋から出ると、遠くに隊員が整列しているのが見える。

 

 一気に飛び上がり西に向かう。


 

 

 


 

 


 


 

 


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