第179話 合同葬儀

10月29日 

 朝7時からパオと遊ぶ。代々木公園までパオと散歩に行って帰って来ると朝食が出来ていた。


 9時から治療予約を受け付けていた。3人だ。1人はアメリカの有名財団の理事で、割り込んで来たので10億円と言ったらしいが素直に置いて行った。膵臓癌で転移が酷かった。15分以上に渡って細かな粒子が出続けた。1人は男性の売れっ子コメディアンでHIVの感染。もう一人は医者で癌だった。それぞれ1億円を置いて行った。

 財団の資金は約67億円になった。


 午後1時。明日か明後日に葬儀が有ると二階堂に言い、昼食が終わって庭から飛び立つ。


 バランバンの自宅に到着し、美沙が用意した昼食をオヤジ達と再び食べる。オヤジの顔色は少し良くなってきた。兄が言うには、10月31日に教会で合同葬儀が行われる事になっていた。

 オヤジは葬儀が終わるまでは漁には出ないと言った。


 財団事務所に行く。妹に口座の残高を確認しに行かせた。

 帰って来てイザベルに通帳を見せ2人して驚く。残高は250ミリオンペソ以上になっていた。さらにキアポから奪ってきた分を合わせれば300ミリオンを超える。学校建築の分を50ミリオン取っておけば、後は教会の修復と被害者の救済に全部遣ってしまっても構わないと言った。

 財団のスタッフも激務に耐えてくれているので、イザベルの判断で給料を上げた方がいいとも言った。


10月30日 

 昼前に二楷堂が来た。葬儀に来てくれたのだ。

 教会の片づけが済み合同葬儀の用意が出来た。午後から棺が運び込まれる。うちの場所として祭壇の近くを6基分、司祭が空けておいてくれた。

 俺がハイラックスを運転し、兄弟とオヤジに手伝わせ2基ずつ教会に運ぶ。運ぶ終わる頃には教会には50基を超える棺が並んでいた。


 財団のスタッフも教会側を手伝い、棺の置き場の指示や花の飾りつけをしていた。

 近くのレストランでスタッフと夕食を摂って教会に戻ると、全ての棺が運ばれていた。

 その数は131基になった。


 教会の出入り口には多数の警官が警備にあたっている。二階堂のアイデアで、葬儀の準備や葬儀に参加する人にはIDカードが配られ、カードを首に下げていない人は教会に入れないようなシステムにした。

 更なるテロを警戒しての事だ。


10月31日 

 合同葬儀が午前10時に開始された。国内のテレビ局だけでなく、CNN、BBC等の海外のクルーも15局以上が来ている。


 司祭の祈りに続いて、市長、警察署長とお悔やみの言葉が続いた。無くなった人の全員の名前が呼ばれ司祭の祈りが捧げられた。

 遺族代表でイザベルが挨拶した。ナカモト財団の理事と紹介されていた。

「10月27日 午前9時50分。2度の爆破テロで131名もの方が命を奪われ、さらに多くの方が怪我をして今も治療を受けています。 親、兄弟、子供を失った方、いろいろです。あの日、私達は神のもとで祈りを捧げに教会に集まりました。神を愛し、隣人を愛する為に祈りを捧げに来ました。 爆破は隣人を愛する事を忘れた人達による犯行です。亡くなった131人の方はイエス様と同じ、愛を忘れて憎しみに支配された人達の罪を背負って天に召されたのです。犯行を行った人達が今これを見ていたら覚えていてください。私達はあなた方の為に祈ります。愛を取り戻せるように」

 拍手が教会内に響き渡った。

 殆どの人が涙を流している。イザベルは家族の棺の場所に戻って来た。オヤジ、兄弟、妹と抱き合い、最後に俺と抱き合った。

 テレビカメラが来るのは分かっていたので、俺は長髪のカツラを被りメガネを掛けて変装していた。


 合同葬儀が終わり、買ってあった私営の墓地に6基の棺を運ぶ。命日には墓の上で親族が集まれるような建物が付いた墓だ。200万ペソという家が買える様な価格だったが構わない。

 棺を墓に収める時に司祭が来てくれて再度の祈りを捧げた。


 多くのテレビカメラがイザベルに付いて来るので追い払った。CNNがしつこく、どうしてもインタビューをしたいと言うので、葬儀が完全に終わってから自宅でと言う事にした。


 俺にカメラが向けられるとロクな事が起きないと思い、二階堂とビールを飲んで部屋で寝ていた。

 インタビューは自宅の庭で行われた。ナカモト財団の中本氏は、という質問には日本に帰っていると答えたようだ。

 インタビューが終わった午後5時頃には俺は酔っぱらっていた。


 今日は財団のスタッフ全員がうちに集まりバーベキューをやる事になっている。俺が起こされると午後7時で、庭にみんなが集まって乾杯するのを待っていた。


 俺にも一言と言われて前に出た。正面にレストランをやっていた建物が目に入った。

 いつも母親とオッパイ自慢の姉が張り切って働いていたのを思い出すと、アルコールのせいも有るのか、涙が出て来て何も言えなくなってしまった。

 イザベルに肩を抱かれて椅子に座った。


 スタッフ全員が俺の所に来て一人一人ハグして行った。最後にプチが膝に飛び乗って来た。オヤジがビールを持って来て乾杯した。

 オヤジは、悲しい笑顔を見せた。


 二階堂が俺のそばに来て言った。

「いい人達に囲まれてますね・・・ボスは幸せだ」

「おう、幸せだぞ・・・お前だって幸せだろ」

「幸せですよ・・・好きな仕事をやってます。ボスと組んでからは日本を支えているような気がしますよ」

「日本を支えてるか・・・そろそろ気合入れるか」

「そう来なくっちゃ。 安倍総理からの依頼で朝鮮半島の件とトランプ大統領を通じてアメリカ国防総省から、アメリカ東部の共産ゲリラの件で依頼が来てます」

「よーし。頑張るか!」

 立ち上がって伸びをする。

 お約束の屁が出た。


第1部 完


 

181話から第2部がスタートしています。引き続きお楽しみ下さい。



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