第152話 NPO法人
9月18日 二階堂の運転するレンタカーのカムリで嘉手納まで行って北谷に戻って来た。
沖縄では嘉手納基地だけを有料で米軍が使っている。北谷のアメリカンビレッジのレストランで昼食を取る。
食事をしながら財団設立のアイデアを2人に伝える。2人は興奮気味に賛成した。東京に帰ったら、財団に名前を連ねる俺以外をすぐに集めると二階堂が言った。
会計時に3人でキャッシャーの前に立っていると1人の男が走って来る。見るとSBUの加島だった。うるま市の元米海軍基地に訓練で来ているらしい。今は海上自衛隊基地になっている。今日は非番で新人の後輩を3人連れて遊びに来ていると言う。
加島が後輩の3人も呼ぶ。まさか幕僚長の河野がいるとは思わなかった後輩の3人はその場で姿勢を正して敬礼する。俺の事を『中本さん』と紹介すると、敬礼をした後で握手を求められた。SBU内では有名人になっているらしい。
夕方、オバアの家に俺を送って2人は東京に帰って行った。家の中に入るとオバアのモズク獲り仲間が2人座っている。2人とも80歳を過ぎており、1人は腰が痛く、もう1人は胃癌なのだと言う。オバアが俺の手を取り彼女らに当てて欲しいと言っている。
腰痛のお婆さんを畳の上にうつ伏せに寝かせて手を当てる。確かに腰から冷気を感じる。神経を集中すると腰に当てた手の指の隙間から細かい砂の様の物が立ち上がり消えていく。5分もそうしていると冷気が無くなる。寝ていたお婆さんは立ち上がって腰を伸ばす。自分の手を腰に当てて確かめている。何やら言いながら俺に抱き着く。治ったようだ。
次のお婆さんは上を向いて寝かせる。薄いシャツの上からお腹に手を当てる。もの凄い冷気が出ている。手を当てて集中する。当てた手の周りから大量の粒子が立ち上がり消えていく。冷気が他の場所からも感じられる。手を横に移動する。再び大量の粒子が沸き上がり消えていく。冷気を感じなくなり手を引く。彼女は起き上がりお腹に手を当てている。何か言うが分からない。 美香の車の音がする。助かった。
美香が通訳する。胃癌だといっていた人は癌が他の部位にも転移していたらしい。明日病院で検査した方がいいと言っておいた。
オバア達は俺の事を『ニライカナイから来た神様』と呼んでいると言って美香が笑う。ニライカナイとは海の彼方にあると信じられている楽土の事だ。
汗をびっしょりと掻いていた。これをやると疲労が激しい。夕食まで寝てしまおう。
夕食は、昨日釣って来たグルクン(沖縄の県魚)の干物が出て来た。オバア特製のタレに漬け、4時間干した物らしい。旨い・・・もの凄く旨い。ご飯を3杯食べた。
風呂に入り、すぐに布団で横になる。治療の能力は使い慣れていない。慣れれば体力の消費も少なくなればいいが。
美香が添い寝してくれる。夜半過ぎに体力が回復し、美香を抱いた。
9月19日 朝9時。東京の自宅に戻る。幸恵が作る朝食を食べ終わってテレビを見ていると二階堂が来た。財団に名前を連ねる者の名前と住所を俺に見せる。安倍総理、海上自衛隊幕僚長の河野、名前を見た事が無い他の4人は経団連と警察関係だと言う。
二階堂が改めて聞く。財団法人にする必要があるのか、収入はどうやって得るのかと。
俺の新たな能力について説明した。二階堂が驚いて言う。
「破壊するだけじゃなくて治す事もできるんですか!」
「破壊ってバカみたいに言うなよ」
「それだったら、財団法人ではなくNPO法人でいいかも知れないですね。治療を受けた人から寄付として受け取るって形で」
NPO法人に決まった。名前を連ねてくれる人達の協力もすぐに得られた。通常、NPO法人の登記には半年掛かるが、総理の一声で翌日には登記が済むことになった。
午後1時。総理官邸に行く。登記の後押しのお礼だ。応接室で二階堂と待っていると、いつも通りに2人のSPと安倍総理は現れた。いきなり上着を脱ぎソファーに横になって腰を診てくれと言う。
手を当てると冷気を感じる。少し時間を掛けて徐々に腰に集中する。あまり簡単に済んでしまうと値打ちが無いような気がしたのだ。30分を掛けて冷気を取り除く。起き上がった総理は腰に手を当てて確かめ無言で俺の手を握る。俺の肩を抱いて言った。
「素晴らしい・・・あなたは素晴らしい」
秘書が総理を呼びに来る。面会の人を待たせているようだ。登記の事は何も心配しないでくれと言って出て行った。
松濤の家に帰る。二階堂は電話で忙しい。JIAのスタッフにNPOへ名前を連ねる人達の必要書類を集めるように指示している。
NPOの活動内容としては、大まかに以下の3点で決まった。
*学生への援助
*国内外の恵まれない子供達への援助
*動物保護活動への援助
団体名は『フォー・チルドレン』。子供達へ、と言う実にシンプルな名前になった。
午後5時。NPOの活動に関しての話が一段落した。
「脳みそがオーバーヒートしそうだ。頭冷やしに行こう」
「吉原ですか?」
「分かって来たね・・・」
二階堂の乗って来たクラウンで赤坂のJIA事務所まで行き、近くの、游玄亭で焼肉を食べる。
食後はタクシーに乗って吉原だ。120分で10万円。
午後9時半。銀座『夢路』。アンの着物姿を見て、再度惚れ直す。ピンクシャンパンを2本抜き、空になった『魔王』のボトルを入れ、閉店まで盛り上がる。二階堂は前回同伴した麻美を気に入っている。今日の会計も70万円だった。
アンと一緒の帝国ホテル。ハンガーには着物が掛かっている。バスローブ姿のアンにNPOの事を話す。寄付が集まればいいねと言われる。メインの収入は、寄付ではなく治療費なのだが。 ゆっくりと愛し合う。
9月20日 午前11時に松濤の家に帰る。今日は娘達が家にいたのでパオと一緒に庭で遊ぶ。パオはフリスビーで遊ぶのが上手くなった、飛んでいるディスクを空中でキャッチする。何度も飽きずに繰り返す。
昼食は娘達と、幸恵が作った天婦羅蕎麦を食べる。海老天が旨いがカボチャも旨い。蕎麦の茹で加減も俺好みの固めだ。
午後2時過ぎに二楷堂が来る。NPOの登記が済んだと言い、沢山の書類を持って来る。
空いている部屋をひとつNPO用に使う事にする。書類用のキャビネットと机が有れば十分だ。広さは12畳しかないが、今のところは不足ない。
午後4時に最初の患者が来ると言う。与党の議員だ。高血糖でインスリンが手放せないらしい。治療費は500万円。効果が無い場合は無料だ。この場合は後日の返金を約束しているらしい。
4時前に本人が来た。秘書を連れている。和室に座って向かい合う。普段は偉そうにしているのだろうが、総理からの紹介らしく素直に症状を話す。食事療法もしているらしいが、定期的なインスリンが必要だと言う。
畳の上に寝かせて両手を身体の上にかざす。集中すると腹部あたりからかすかな冷気を感じ、手を当てる。強い冷気だ。当てた手の周りから砂粒の様な粒子が立ち上がり消えていく。約5分後、冷気が消えた。
「終わりましたよ。食事はこれからも気を付けた方がいいですね。この後はインスリンは打たないで下さい。必要ないですから」
「本当ですか・・・有難うございます。身体のダルさが消えているような気がします」
500万円を置いて出て行った。俺の身体がダルい。畳に寝転がる。
議員を送り出した二階堂が戻って来る。
「大丈夫ですか? 治療するとボスは体力を消耗するんですか?」
「燃料をくれ・・・ビールだ」
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