第38話 首相官邸

秋葉原の後、『築地すしざんまい』のフィッシュマーケット店で、握りをたらふく食べた。

店頭で売っている、本マグロのぶつ切りを買う。

どうやって食べても旨い。


マンションに帰り一息つく。

電話・・・・『JIA』の二階堂からだった。

今晩、銀座で会うことになる。アンの店だ。


午後7時。銀座。

ポルシェビルの前を少し通り過ぎてタクシーから降りる。

並木通りはまだ閑散としている。

おでん屋『お多幸』のカウンターで、アンと並びおでんをつつく。

ダイコンの味が身体に沁みる。


8時になり、お多幸を出る。アンの勤めるクラブに同伴出勤だ。

通常の出勤時刻は7時半だが、客同伴の場合は9時までに出勤すればよい。

二階堂との待ち合わせは9時だ。

早速シャンパンだ。ママやヘルプの子達と盛り上がる。

2本目のシャンパンが空になった時に二階堂が現れる。

女の子達の視線が二階堂に集中する。二枚目だ。

どう比べても俺に勝ち目は無い。

女の子達を席から立たせる。名残惜しそうだ。


「河野さんが幕僚長になりました」

二階堂が口を開く。

「海上自衛隊幕僚長か・・・凄いな、まだ若いのに」

歳を聞いたことはないが、河野はまだ50前後に見える。

前幕僚長の鈴木は体調不良を理由に退官したと言う。

「これから活躍して貰う人には行動力のある若い人でないと無理ですから」

「その言い方からすると、JIAが何か圧力を?」

「とんでもない。うちにはそんな力はないですよ・・・総理です」


前海上自衛隊幕僚長、鈴木は退官後、四菱重工へ天下りが決まったらしい。

2年勤めて、又退職金を貰うのか・・


今回の二階堂の話はJIAへの誘いや仕事の話ではなく、人に会って欲しいと言う事だ。早速、今晩これからと言われる。

アンを呼び、会計を済ませる。25万円。

今日はクリュグ(シャンパン)を2本開けていた。


二階堂と並木通りに出て、待っていた黒塗りのクラウンに乗り込む。

渋滞が始まっている。

花椿通りを右折して二つ目の金春(コンパル)通りの交差点を左に曲がってすぐに車から降りる。脇に止まっていた白の軽自動車、ワゴンRの後部座席に二階堂と飛び乗るように移る。外を見ようとすると二階堂に頭を抑えられる。

脇をタイヤを鳴らしながら車が通り過ぎる。

尾行を捲けたらしい。

ゆっくりと、歩いている人を避けながら直進する。

金春通りから、すずらん通りへと道路の名前は変わる。

白のワゴンRから、ユニクロ銀座店の裏で再び車を乗り換える。

白のクラウンだ。クラウンが一番目立たない。


到着した場所は首相官邸だった。


総理大臣執務室?

広い部屋に置かれたソファーに、二階堂と並んで座った。

安倍総理が歩いてくる。

背丈は170センチの俺と大して変わらなそうだが、威厳がある。

二階堂が立ち上がり、俺の事も立たせる。

「わざわざ来て頂いて嬉しいです」

安倍総理が言い、俺に手を差し出す。握手する。俺よりも少し背が高かった。

テレビでは何度も見ているが、実物を目にすると緊張する。

ソファーに向かい合わせに座る。


話というのは、安倍総理からの直接の要請で動いてほしいと言う事だった。

JIAも総理直属の機関だ。同じことではないか・・・・

直接電話が掛かってくるかどうかの違い。

自分で仕事は選ぱせて貰うが、日本の為になる事なら喜んで引き受けると言った。

安倍総理は笑みを浮かべて、何か俺の能力を見せて欲しいと言う。

俺の隣りに座っている二階堂を宙に浮かせた。そのままソファーの周りを一周、空中浮遊させ席に戻した。

総理は目を見張り、拍手をする。

二階堂は汗を拭き髪の毛を直した。

空中でジタバタと暴れていたのだ。

総理は、個人的に、記念に何かプレゼントをしたいと言う。

何故か娘たちの顔が思い出された。

「お菓子を下さい」

総理は首を傾げる。

「それは、有名な菓子店の物とか・・・」

「普通のお菓子で結構です。チョコレートとかキャンディとか・・・何か記念になるものは、直接の仕事を終えてから、お願いします」

「分かりました。明日中には届けさせましょう」


翌日、昼前。

宅急便で、大きなダンボール3箱に一杯のお菓子が届いた。

箱には『MORINAGA』の文字。

娘たちは大喜びだ。全部、森永製品だった。


昨晩、総理の前で二階堂を浮かせるデモンストレーションの後に出た話だ。


世論は、竹島に日本の領土としての証が要ると言う事で盛り上がっている。

韓国は竹島に国旗を立てたわけだ。

何故、日本政府はお決まりの『遺憾に思う』としか言えないのか。

日本政府として、正式に竹島に『日の丸』を立ててくれと言う。


総理からの最初の直接の依頼だ。



報酬は1億円。もし、韓国軍と交戦した場合は戦艦一隻を撃沈につき2億円。

航空機の場合も同額。


竹島に上陸するのは安全を考えて、基本的に俺だけだ。

引き受けた。面白くなってきた。



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