第32話 JIA の誘い

ゆうべは賑やかだった。

ベッドで横になったまま、思い出す。

まるで、10代の少女のみのキャバクラ状態だ。

スーパーで買って帰ったビールに、つまみ多数と食料。

俺は酔っぱらっていたが、少女達も雰囲気に酔っていた。

しまいには全員下着姿になり、歌い、踊り出した。


大きく伸びをすると横の綾香が眼を覚ます。

「覚えてる?ゆうべ何したか」

「飲んだなぁ」

「ゆうかのオッパイ触ったの覚えてないの?私のと比べてた・・・私のはいいんだけど」

良くない。

「本当に触ったか?」

何となく覚えてるような・・・

「触りまくってた。スケベジジイ。あぁ、気持ちいいって言ってた」

そこまでは覚えてない。

おれの手を自分の胸に持っていく。

手をすぐに引っ込める。

「私の方がカタチいいでしょ?」

ベッドに起き上がる。裸?

「おい!シャツを着ろ!」


綾香は当然のように俺と一緒のベッドにいた。他の3人は綾香の為に買ったベッドだ。別の寝室で寝ている。


部屋着を着てリビングに出る。


ソファーにマキが座ってスマホをいじっている。

「おはよう」

「おはよう、オジサン」

意味有りげにニヤッと笑う。

こいつらも俺をオジサンと呼ぶか。

「さっきから携帯鳴ってたよ」

ダイニングテーブルの上に俺のスマホ。

いきなり鳴り出す。見覚えの無い番号。

「はい」

「おはよう。田村だが・・・さっきから何回も掛けてましたよ。やっと繋がった」

陸上自衛隊幕僚長の田村だ。

「何かご用で?」

「これは、ご挨拶だね。実はあなたに会って貰いたい人がいるんですよ。今晩、時間を取れませんか?」

「いいですよ。市ヶ谷で?」

「いや、銀座にしましょう。21時でいいですかな?」

「分かりました。それでは銀座に午後9時で」

また仕事か。

今のうちに金を稼いでおかなくては。

俺の超能力が、いつ無くなっても困らないように。


綾香が寝室から出てきていた。

「仕事?」

「まあな。顔合わせみたいなもんだ」

「また、あの人の店?」

「そうだ」

俺の腕に、自分のTシャツの胸を押しつけるように抱きつく。

「さびしいな~」

ふざけている。それを見たマキが笑う。


銀座にはタクシーで行った。

店に入るとボーイが案内する。

既に田村ともう1人の男がホステスを両脇に置き座っていた。

俺が前に立つと、田村がホステス達を席から立たせる。

「今晩は」

「いやいや、呼び出して済まないね。まあまあ座って。」

U字型の席で田村が真ん中になる。

「いきなりだが、中本さんはJIAをご存知ですかな?」

「一応は」

「そうですか、よかった。こちらはJIA の二階堂さんだ」

紹介された男は立ち上がり握手を求める。

180cm,80キロと言うところだ。

田村より洗練された雰囲気だ。

「始めまして、二階堂です。あなたの活躍は存じております」

グリップの強い握手だ。普通の人なら悲鳴を上げるだろう。今の俺は空腹ではない。

握り返すと、二階堂のこめかみに汗が浮く。

「こちらこそ、よろしく」

握手を終えた二階堂は、座ってから右手を動かして、無事を確かめている。

それほど強くは握っていない。

二階堂が話を切り出す。

「単刀直入に言います。JIA で働いて貰えませんか?・・・世界中に職員が散らばっていますが、通常は本部で」

黙ったまま聞いている。

「待遇はご相談と言うことですが、こちらのオファーとしては、一年間更新の契約で、基本給が年俸で3000万円。何かアクションがある毎に活動費が出ます・・・活動費と言っても経費込みになりますから、竹島の場合と同じで、パッケージでお願いするようになります。うちのエージェントを使って貰うことも可能です」

「・・・・・」

二階堂の目を見る。

「活動費は竹島、フィリピンの件に近い金額を出せます」

「基本給というのは拘束料と言う事ですね?」

「まあ、そう受け取って頂いて結構です。但し、定期的な出勤等はありません。あくまでも、いつでもレスポンス出来る状態、と言うための基本給です」

仕事は選べないと、言うことか。

「折角ですが、もう、歳も歳ですから。いつでも何でもと言うのはお断りします。タイミングが合って、仕事の内容に納得出来ればお引き受けします」

二階堂が目の前の水割りに口をつける。

「そう、仰るのは予想していました」

「せっかくのお申し出を済みません」

目の前のグラスにミネラルウォーターの水を注ぎ一口飲む。

二階堂が田村に頷く。


俺達の前に男が立っている。ボーイかと思ったが違う。顔を見ると、海上自衛隊海将の河野だ。

二階堂が身を乗り出し、おれに言う。

「今回も宜しくお願いします」

二階堂は席を立つ。今回・・・

田村は手を上げて『また』と言う。

河野が二階堂の座っていた場所に腰を下ろす。

「フィリピン。実に鮮やかで、アメリカさんも驚いてました」

イザベルの事を聞きたいが、無駄だろう。

河野が話を始める。

「また、竹島なんですが・・・竹島周辺を韓国の軍艦が取り巻いています。アメリカ側は駐留している米軍引き上げを匂わせて、実際に一部の引き上げを始めていますが、ムン・ジェイン大統領は強硬姿勢を崩しません」

「自衛隊の動きは?」

「今のところ、動けません」

「専守防衛ですか。でも竹島は日本の領土ですよね。その領土を」

「待って下さい。勿論、竹島は日本の領土です。しかし、日本と言う国は戦後70年以上も戦争をしていないと言う、世界でも珍しい国なんです。首相には、うちの幕僚長からも何度も話は行っていますが、首相はあくまでも首相であって大統領とは違うんです。国会と言う、世界情勢を理解出来ない人達の集まりで賛成を得ない事には何も出来ない。駐韓の日本大使がいくら抗議に行っても、話して分かる相手なら苦労しません。国際裁判所へも無視を決め込む国ですから」

河野は一気にまくし立てた。

俺は水を一口飲んだ。

「竹島に行ってみますか」

つい、言ってしまった。


アンが遠くから俺を見ている。

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