第87話 生霊

『幽霊』とは違う。

『ドッペルゲンガー』とも違う。

 言うなれば…『幽体離脱』の実体化とでもしておこうか。


『幽霊』とは肉体がすでに無く、魂あるいは意識だけが現世に留まっている状態、存在だと僕は認識している。

『ドッペルゲンガー』とは、同じ時間に複数の自分が存在している現象。


 では『生霊』ってなんだ?

 肉体から魂が分離した状態?

 意識が実体化した状態?

 実は一番解らない存在なのだ。


 別の作品に出て、僕の小説の『ナミ』という名を持つ登場人物の『彼女』さんは、僕の生霊を見たという。

 僕が『彼女』さんにもう逢わないと決め、彼女から貰った唯一のプレゼント、キーホルダーを彼女のアパートのポストに入れた日に、僕は彼女の室内に表れたらしい。

 恐くなかったそうだが…不思議な感じがしたのだそうだ。

 もちろん、僕に、そんな自覚はない。


『ドッペルゲンガー』というのは、自身と鉢合わせると死ぬらしい。

 ……意識があるのだろうか?

 本人には今、分裂中などという気はないだろう、『ドッペルゲンガー』のほうに、自分は『ドッペルゲンガー』であるという自覚はあるのだろうか?


 無いとしたら…どちらも自分なわけで、鉢合わせたら、そりゃ驚くだろう…ショック死なんじゃないか?


 意識して切り離せたら便利だな~と思う。

『ドッペルゲンガー』も『生霊』も、少なくても視認できるわけだし、質量が無いとしても、それでも凄いことだ。

 視覚情報だけでも共有することができれば…


『彼女』さんの話がホントだとしたら、少なくても1度は意識を実体化させたわけだ。

 努力でナントカならんものだろうか。


『幽体離脱』は経験があるからな~。


『生霊』って響きがホラー感を醸しだすけど、意識の実体化と言えば、そんなに怖い感じはしない。


 あくまで自分がコントロールできればという前提で書いている。

 これが無意識に行われているのだとしたら?

 まぁ、僕には自覚が無かったわけだし、そういうモノなのかもしれないのだが…それは、本当に怖いことなのだ。

 他人から視認できるわけだし…それが自我を持っていたとしたら…僕は、自分の知らぬところで、何かをしているかもしれないのだ。


『生霊』というのは、出会った人より、本人の方が100倍怖い存在なのだ。

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