第16刻:綾黒%《アヤクロパーセント》の疑念なり
5月に私、
私が一番風呂を浴びた後、お母様が入浴してリビングに私とお父様の二人だけとなった。
「瑠璃、変わったな。笑顔を見せるようになった」
「…………はい。」
我ながら些細な変化だと思えることを気づいてもらえるのは少し嬉しく感じた。厳格なお父様もどこか声音が柔らかい雰囲気をまとっている。
「親として素直に喜ばしい。………何があったんだ?」
「はい。友達ができました」
「友達、か。…………どんな?」
友達という単語を聞いた瞬間、お父様から放たれる雰囲気が微妙に変化する。元より友達作り条件に水準を設けている人なので不思議はない。それに、自己判断ではあるけど、友達はきちんとその水準を越えていると思っている。
「多くの人に歩み寄れる優しさを持ち合わせた人です。中間考査の結果を見せてもらいましたが、五本の指に入っていました。頭の良さも申し分ありません」
「そうか、いい友達だ。瑠璃も五本の指に入っていたのだろう?」
「もちろんです。
ですが、二位でした…………」
「………仕方がないことだ。未来学園には藍月理事長の息子さん、
彼は小学校から高校まですべてのテストで9割以上を叩き出している。非凡的で凡人とは住んでる次元が違う。どれだけ凡人が努力したとしても、努力と才能を持ち合わせたような天才には敵わない。二位を取れるだけ優秀だ。
瑠璃。努力だけで、よく頑張ったね」
「ありがとうございます………!」
「だが、これからも優秀であれるように、気を引き締め続けるんだ。
瑠璃、君には努力しかない。君が優秀であり続けるために、瑠璃の言っていた友達のように誰かに歩み寄ることはできない。
君の友達も特別なんだ。藍月君に並ぶほどのね。瑠璃は瑠璃だ。できることをやればいい。恥じることはない」
「…………………」
お父様からの称賛を受けて、心の底から嬉しいはずなのに…………嬉しくない。
自らに才能を期待してないけど、才能のあるなしだけで『できるできない』を判断されたからか。あるいは、もっと前進した私を認めてほしいのに『現状に満足され』て、これからを期待されていないからか。
それとも、私自身の『微かな可能性を否定して』、認めてくれないからだろうか。
これまではそんなこと思わなかったし、私自身大層な人間でないという認識も揺らいではいない。
***
紅智君が立候補するという生徒会選挙の日が迫ってきた。これからの大舞台、紅智君が不安になっていないか少し心配になった。
私のできる限りで力になれるなら、全力で彼に尽くしたい。
「紅智君、生徒会選挙の推薦者はどうするんですか?」
ふと気になった。私的には任せてほしい思いが――いや、もっと突き詰めれば紅智君には行動で信頼を示してほしいのだろう。我ながら辟易する欲深さになってしまったものだと考える。
「…………う~ん、できたら綾黒に推薦者してほしいけど、忙しいよな?」
「分かりました。精一杯頑張りますね」
「即答かよ。少しは躊躇ったりとかないのか? 舞台って結構目立つし、恥ずかしかったり緊張したりするもんだと思うんだが」
ちょっとばかり驚いた様子で慌てる紅智君。
どうやら頼んでおいて謙虚の姿勢になっているみたいだけど、私は嬉しい。彼は私に推薦者が『できる』と信じてくれたから。
紅智君のその思いに応えたい。
「躊躇いません。紅智君のためですから」
「…………そっか。じゃ、頼むな、綾黒」
「はい!」
それから数日後、晴れて生徒会役員となれた紅智君。心の底から祝福し、私も彼から誉められたことで一層嬉しい気持ちだった。
けど、生徒会役員選挙の日以降、何故か紅智君との距離が開いたような感じがした。紅智君に問い質したら、ほんのちょっぴり挙動不審さが見られるようになり。
そのよそよそしさが三者面談を控えたここ最近の私の悩みの種に変わっていった。
しかし、自分だけで悩んで拗らせたしまった前科が二度もある。なので、今回は人に意見を求めようと、仲のいい友達に相談することにした。
「あの、鏑木さん。少し相談したいことがあるんですけど、いいですか?」
「喜んで!!」
無感情の日々から3ヶ月、たくさんの友達を作った中でも特に私に良くしてくれる三人の中でも、同じクラスの鏑木さんだ。
「ありがとうございます。突然ですが、私は紅智君のことを異性として意識し過ぎてしまっているんでしょうか?」
「……………」
開口一番にして、石像のようにピシリと固まってしまう鏑木さん。予想外の無反応に私はあたふたしながらも、具体的になるように言葉を続けた。
「さ、最近、紅智君との距離が開いたような気がするんです。紅智君も『気のせい』と言っているのに挙動不審に見えてしまったり。
もしかしたら自覚してないだけで、実は紅智君のこと意識してて、それで好かれたい欲求があって自意識過剰になってしまったのかもしれないんです」
「逆です、逆」
「逆、ですか? 逆となると………むしろ紅智君が私のことを異性として――――」
と、そこまで口にしたところで、一つの結論が浮かび上がり、
「あ、」
「って! やっぱり私は自意識過剰でした! そもそも、紅智君から恋愛感情を向けられるだなんて畏れ多い!」
「それこそ逆です! 畏れ多いのは紅智の方です!」
「そんなことはありません!」
ただ相談しようと思っただけなのに、話はヒートアップしておきながら脱線し、収拾がつかなくなりかけてしまった。
「取り乱してすみません…………」
「こちらこそ」
相談は中断したけど、収穫はあった。恥ずかしながら私、綾黒瑠璃は紅智京君を異性的に意識してしまっている。
今では私は紅智君に絶大なまでの信頼を向けている。その過程で無自覚の恋に目覚めたと考えた方がまだ納得がいく。
そんな結論を出してから数日間過ごしてみて、私は一つだけ思うことがあった。
「綾黒」
「はい、なんですか? ――紅智君」
彼に話しかけられた時は少し嬉しい思いになって、無意識に自然な笑みを浮かべるようになったけど、それだけなのだ。
異性として意識している割には本人の前で全然ドキドキしたりしない。
本当に私は紅智君を意識しているのか、と唐突に思うことが頻繁にある。
それはそれとして、どんな話だろうか。
「何かお前に用があるって奴が、放課後に三階の渡り廊下に来てくれだってよ」
「…………その人って誰なんですか」
「さぁ? 俺も知らないけど、
「…………そうですか。分かりました。伝言ありがとうございます」
「あぁ…………」
そう反応した紅智君がどこか、落ち着かない様子だった。
考え事をするような素振りをしては、チラチラとこちらを見てきたり。そう思えば目をそらされたり。人差し指で自分の太ももを突ついたり。何かおかしい。
「どうしましたか? 紅智君」
「………………あ、いや何でもない。それじゃあそういうことだから」
「え、ちょっ――」
心配になったので聞いてみようとしたが、彼はやけに早口で質問をはぐらかして、逃げるようにしてどこかに立ち去ってしまった。
「………………?」
絶対にあり得ない心当たりが一つあるだけあって、紅智君の思わせぶりな態度はいつも以上に気になって仕方がなかった。
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【深紅クードの社交辞令】
すみませんでした。久しぶりの更新になります。
実はここ最近、コロナ渦中での長期休業で『本命作品』の執筆を進めていたことが更新できなかった理由になります。
まだまだ全然、本命の作品の執筆は進んでいません。『紅智クロック』や『デス・オア・エスケイプ』の更新もまったく進んでない中で馬鹿なことをしているという自覚もあります。
これからも上記2つの作品の更新時期がもしかしたら早くて月一、遅くても数ヶ月という状況になるかもしれません。
度重なる迷惑をかけ、申し訳ございませんでした。
さて、ここで宣伝に移らせてもらいたいと思います。
現在、私が執筆中の本命作品は年内には投稿したいと考えております。
ぶっちゃけ、何年もの間、研鑽して考えては手直しを繰り返してきた相当な自信作になります。
『紅智クロック』も『デス・オア・エスケイプ』なるべく早く丁寧に書いていけるように邁進していきます。
これからもよろしくお願い致します。
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