第17刻:紅智%《アカサトパーセント》の危機なり【前編】
【前回のあらすじ】
綾黒瑠璃は生徒会選挙以降、様子のおかしくなった紅智京を気にかけた。
相談した鏑木三春からは紅智から綾黒への恋心だと言われ、紅智の意味深な態度に彼を意識せずにいられないのであった。
【あらすじ終わり】
■注意換気■
※今回の話の【前編】【中編】【後編】ともに一段と分かりにくいところがあるかもしれません。そして少しシリアス気味に暗い展開がありますのでご注意下さい。
────────────────────
土樹という男子が放課後に渡り廊下に来るよう、俺から綾黒に伝言を残した日の放課後。
「なぁなぁ、紅智よぅ」
「………………」
「いいのかよぅ、紅智よぅ」
さっきから別クラスの水戸が本題を避けて挑発してくる。
放課後になった途端、いちいちこっちのクラスに来てまで来てやることがこれだ。
体育着着てるならさっさと部活行けよ。
「………………何がだ?」
「お前、愛しの子が告白されるかもなんだぞ? ないとは思うが、成り行きくらいは見に行けよぉ」
「………………………なぁ、水戸」
「ん? 何だ? ん? ん?」
ここぞとばかりにイラつかせてくる。コイツ一回殴りたい。
「どうしてお前がそれを知ってるんだ? 伝言は綾黒にしか伝えてないはずなんだが」
「お? 綾黒を愛していると認めたな、お前」
「何を言ったところでお前は信じないだろ。弁明は時間の無駄だ。そんで、どこで伝言を知った?」
「伝言もクソも、お前知らねぇの?」
「は?」
「生徒会選挙でお前と綾黒、演説しただろ?」
「まぁ、したな」
「それがきっかけで綾黒が全校で有名になって、同時にお前らが付き合ってる疑惑が立ってる」
「後者はもう今更感が拭えないけど、そんなことになってたのか」
前から付き合ってる疑惑はあった。綾黒が感心を示さなかったので、俺もとやかく言わなかっただけで。
「そのせいか綾黒に一目惚れした連中が躍起になってる」
「………………………マ、マジで?」
「おう、マジで!」
水戸がノリ良く答えたところで、俺はその話題への興味を失った。
つまり全校の男子が綾黒を巡って恋愛合戦を繰り広げる訳だ。
「…………ふーん、そっか」
「お、平静を装っておられますが、心の底ではめっちゃ慌ててんだろぅ?」
「…………この際だからはっきり言っておくが、俺は綾黒のことは好きだ。けど、あいつのことを恋愛対象としては見ていないよ」
「……………つまり、好きだけど、付き合おうとは考えてないってことか?」
「そういうこと。けど、あいつのことは好きだから、せめていい人と幸せになってくれればそれでいい」
だからぶっちゃけ綾黒争奪恋愛合戦そのものには興味がない。強いて言えば、その結末が気になるだけだ。
「つまんねぇの。でも、だったら尚更成り行きくらいは見ようぜ? 俺も気になってるところだしな」
「……………いや、行かねぇって、さっきから
***
俺と水戸は綾黒への告白(かもしれない)の成り行きを聞こうと、向こうからの声が聞こえるよう、綾黒を背にして渡り廊下の角の物陰にひっそりと隠れた。
様子を伺っている水戸曰く、綾黒と向かい合うように土樹君が立っているとのこと。
そこで俺はふと、我に返った。
「(…………結局、来てしまった)」
まぁ、俺が土樹君の人柄を知らないという理由もある。
校内ですら帽子をかぶり、夏の今でさえパーカーなどの厚着を着ている男子だったと覚えている。
とりあえず男子制服(ズボンで)判別できたが、顔立ちや声音が女子っぽいのがコンプレックスなのだろうか。
「僕は
「はい。私は綾黒瑠璃です」
「………忙しい中、見知らぬ僕のために来てくれてありがとうございます」
「いえいえ、大事な話があるんですよね?」
「はい。………率直に告げます。あなたのことが好きです。付き合ってください」
男子とは思えない小柄な体躯から、勇気を振り絞った精一杯の気持ちが告げられた。
正直、意外に思ったが、俺よりもよほど面食らっている奴がいる。
「…………………え」
「何か綾黒が戸惑ってるぜ(小声)」
「うん。それは何となく分かる(小声)」
それにしても、土樹君って聞けば聞くほど女子みたいな特徴してるよな。綾黒を好きになったのって女子なのに格好いいところに惹かれたからとか…………。
………いや、待て。もしや――!
「……………水戸。少しお手洗いに行ってくる(小声)」
「え、おい。この大事な場面、聞かなくていいのかよ(小声)」
「そうしたいのは山々だが、こっちも限界なんだ。それに綾黒が告白を受け入れようが、土樹君いい人そうじゃん。俺はあいつが幸せになれるなら、それでいいって言ったよな(小声)」
「ちょっ、(小声)」
俺は無理やり押しきり、半ば強引にその場を去った。
***
俺が戻ると、既に綾黒と土樹君はいなくなっていた。
「おい、水戸。二人は?」
「お、おう、紅智。綾黒と土樹は帰っちまったぞ」
「そっか。二人に聞きたいことができたんだけどな」
「おいおい、勇敢だな。」
「──ま、お前でもいいや」
「………は?」
水戸が呆けた声を出したが、そんなことはお構い無しに俺はスマホの画面を見せた。
「─────な」
それだけで水戸は虚を突かれたように驚愕の表情を浮かべた。つまり、全部理解していた上であんなことをしていたということだろう。
「なぁ、これ。一体どういうことなのか、教えてくれるのか?」
と、問いかけながら、俺のスマホの画面に表示されているついさっき録ったばかりの動画を再生させた。
***
カメラの先では、土樹君と綾黒が緊迫とした雰囲気になっていた。
土樹君は告白の返事を待つことへの緊張、そして綾黒は突然の告白に対する驚きと戸惑いというところだろう。
『私なんかのことを好きになってくれてありがとうございます』
『……………それで、返事は』
『――はい。これからよろしくお願いいたします』
『――本当ですか? ありがとうございます! よろしくお願いします!』
『では、記念に二人で帰りましょうか』
『はい!』
『…………………』
水戸は静観してその成り行きを見守っていた。綾黒と土樹が手を繋いで向こうへ行こうってところで、
――土樹と綾黒が振り返りながら、物陰に隠れている水戸に話しかけた。
『あれ? そこで何してるんですか?』
『あ、本当ですね。水戸君。どうしてここに?』
『………へ、あ。今あか』
水戸が何か言おうとしたが、その間もなく、土樹はさっさと歩いてきて、水戸の隠れていた物陰を覗こうとしながらこう言った。
『あれ? こんなところで綾黒様が告白される場面を覗いてどうしたの?
――紅智君』
と、本人がいないにも関わらず、その名を呼んでしまった。
『今、紅智はいねぇぞ。鏑木』
『――え? どういうこと?』
土樹君――否、鏑木さんはフードとウィッグ、厚着を脱ぎ去り、男子制服以外の変装を解いて水戸を問いただす。
『最後まで演技を見せようとしたら、ショックを受けるのを避けようとしたからかトイレに行っちまった』
『とりあえず、どこまで聞いてたの?』
『返事は聞いてねぇ』
『……………はぁ、どうして肝心なところで』
『俺だって紅智を引き留めようとしたんだけどよ、そんな暇なく行っちまったんだよ』
『……………これじゃあ、紅智君が綾黒様のことを好きかどうか、確信ができないじゃん』
『……………悪かったな』
どうやら、鏑木さんは土樹君に化けて、綾黒に真実を知らしめようとしたらしい。
そして綾黒や水戸もまた、そのグルだったことの確信ができた。
…………まったく呑気なもんだな。
本人がその話を録画していたにも関わらず、全部ベラベラ話してくれやがった。
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