第7刻:瑠璃%《ルリパーセント》の紅恋なり
福澤「
水戸「だな。ってことは誰かと遭遇できたってことか」
荒木「だからって、今回紅智にはあんな勝手な行動はやめてほしかったなぁ」
水戸「どうしたんだ? 確かに勝手ではあったけど、そこまで言うほどのことではないだろうに」
荒木「いやいや、今回は紅智をダシにした合コンだからな」
福澤「………は?」
荒木「いや、この面子だとロクなのが俺と、妥協に妥協して紅智くらいだし。福澤は売れっ子小説家だとしても学校内の知名度的に問題アリ、水戸はコミュニケーション性はともかく、会話内容に問題アリ」
水戸「好き勝手な言われようだな、福澤のはともかくとして俺に謝れ」
福澤「水戸くんは僕に謝れ」
水戸「ごめんちゃ~い。荒木もすぐに謝る俺を見習ってみろよ」
福澤「てめぇ………」
荒木「やなこった。普段からからかわれてる俺の身にもなりやがれ!」
と、荒木が叫んだ直後。
「―――遅れてごめんね」
「準備が滞っちゃって…………」
荒木&福澤『おぉ…………』
入室してきた女性陣二人に見とれる男性陣(水戸を除く)。
何故なら、わざわざ合コンのために着替えをしてきていたからである。
だが、そんな二人が目じゃないくらいの美少女がこの場の雰囲気を支配することになる。
綾黒「あれ? 紅智は?」
福澤&荒木『おぅぅっ!?』
二人に続いて登場したのは、あざとく黒髪をなびかせながらキョロキョロと部屋を見渡す学園の美少女、
スタイルの良さと
そしてそんな彼女を傍観する女子二人。
「いやぁ、流石、学園の美少女。服の選び我意があるねぇ」
「そうだね。着る人が着れば即興の安物も高級ブランドに劣らない代物になるのを実感したよ」
「これならお目当ての彼もオトせるんじゃないの?」
綾黒「………は、は!? そ、そんな相手私には………」
荒木「間違いないな。学園の美少女、綾黒瑠璃には好きな人がいる」
綾黒「~~~~~っ!」
いつもは余裕ぶる完璧才女もはっきりと心の淵を暴露されたのでは、羞恥心で平静を保ってはいられなかった。
なんだか面白そうなので、視点を三人称から綾黒による一人称にすることにしよう。
***
恋をしてることを暴露されてしまい羞恥心に悶える中、必死な表情で詰め寄ってくる荒木が無自覚ながらにまたもや追撃を加えてくる。
「で、綾黒は紅智のどこが好きなんだ?」
「っ、何で皆、京ばっかりなの?」
「そりゃお前、紅智を名前呼びしてるからだろ。そんで紅智がお前を名字呼びって、片想い一直線のやつじゃん」
「~~~~~っ」
「図星か。どうしてあんな奴がモテるんだか」
荒木がどこか遠い目で愚痴を
ちょっと待って。今日あそこまで意気投合してたよね二人。
泉「でぇ? 紅智君のどこが好きなの~?」
金田「この際ぶちまけちゃえ~」
「~~~~~っ! 教えない~~~~~~っ!」
この場は躍起になる。っていうか泉さんと金田さんのスタンスが分からないんだけど。
荒木「お、綾黒が認めたぞ。紅智をとっちめるか!」
水戸「そうだな、アイツにいるべき世界を教えてやる」
金田「紅智君はやらせるか! 童貞共!」
泉「学園の美少女の紅智君は私たち綾黒教徒が守る!」
「綾黒教徒? 私、そんなことにまでなってたんだ」
デリカシーなし男子達とスタンスが分からない女子達の内部抗争に半ば諦めて『綾黒教徒』という初めて聞く単語を反芻する。
福澤「何も知らなかったのはどうかと思うけど………………。まぁ、僕は紅智くんになにもしないよ。綾黒さんがどういう経緯で紅智くんを好きになってるかなんて当人の問題なんだし」
福澤くんが呆れているけど、私が注目したのはそこじゃない。
「私が、紅智を好きになった理由……………」
***
唐突に昔の私の話をしよう。
私の両親はとても優秀で、海外進出までしている大企業の社長とその秘書をしている。
東京港区のタワーマンション最上階に住んでいたほどだから生活のお金に困ることはなかったし、両親があまり構ってくれないこと以外、特に不自由なく品性ある日常生活を送ってきたつもりだった。
「瑠璃ももう小学生か」
「はい、お父様」
「勉学に運動はうまくやってくれると信じているが、瑠璃」
「はい、」
「くれぐれも、友達作りには気を付けろよ。自分よりも能力の低い者と戯れていると自分に甘くなり、落ちぶれるからな」
大企業の社長の娘として、優秀な能力は基本だからそんな父の抑圧にも、当時の私にはしっかりと納得できてしまえていた。
「はい」
今思えば当時の私は歪だった。何せ親の受け答えに「はい」としか言っていない時点で相当狂っていたことが一目瞭然だった。
「るりちゃん、るりちゃん」
「はい」
休み時間に一人で勉学に勤しんでいると、私に話しかけてくる女の子が一人。
「女の子達皆で話してたんだけど、『じょしかい』ってものをしてみようってことになって。だからさ、遊ばない?」
皆で『じょしかい』をしたい。
今回の話題の要点をまとめて、早急に私がするべき返答を告げる。一秒でも時間を無駄にはしたくない。
「…………お父様が許してくれないと思います。だから結構です。お誘い感謝します。ごめんなさい」
「……………………」
理路整然と返答すると、流石にその女の子もどうしていいのか分からなくなったようで、そそくさと私から離れていく。
私は女の子のそんな様子をちょっと見送った後、少し息を吐いてから教科書に視線を落として勉学に戻った。
「るりちゃん行かないって」「あの子、空気読まない子だよね」「何かあってももう誘わなくていいよ」
「……………………」
別に何を言われても構わなかった。あの子達と私じゃあ生きている次元が違うのだからと、勝手に見くびっていたから。
***
長い時期が経過して、一年ほど前。私は未来学園の一年生となった。
今は丁度、クラスの中で自己紹介が行われているらしい。
「………ってなことが取り柄です。宜しくお願いします!」
「はい、ありがとう。では次の人」
自分の番なので、「はい」と答えて起立し、クラスの全員を見渡せるようにする。
「私は綾黒瑠璃です。宜しくお願いします」
簡潔に自己紹介すると私は着席する。周囲が私を見ては騒がしいし、先生も微妙な表情をしているのが見てとれるが気にしない。我関せずといった感じだ。
『………………』
「…………あの、綾黒さん………?」
まぁ、先生も表情をひきつらせながらも私を呼びつけるあたり、何か不満があるようだ。
「はい、何でしょうか」
「それだけじゃ皆が綾黒さんのことを分からないでしょう?」
「はぁ……………分からないと、言われても………………………」
「…………………ほら、趣味とか自己PRとかあるじゃない」
「いえ、そういうことではなく………………」
「…………………?」
「別に皆に私を知ってほしいとは思っていませんので、分かってもらえなくても結構ですし。そうでなくても、私は趣味もなければ自己PRもないので………………」
「あ、ああ綾黒さん? あなた、何を言って…………………」
再びクラスは騒然とする。
「不思議ちゃんだよね、あの子」「でも何かなぁ」「う~ん、分からん」
クラス中の視線が私に向くも、決して不満そうな視線は多くなく、むしろこちらを興味深そうに見てくるような感じだ。
中学校の時と比べてえらくマシなものである。中学校の同級生と同じ高校に進学すると鬱陶しく平穏を乱してきそうなので、敢えて高校は東京を離れた田舎の高校にしたのも間違いじゃなかったかもしれない。
「なぁ、お前ってさ」
ふと、そんなことが頭によぎった時、前から声がした。
見てみると、紅髪で紅目の紅尽くしの純朴そうな顔立ちをした不良少年が肘を椅子に乗せてこちらを振り返っていた。
「はい?」
「もしかして人間不信?」
「どうしてそうなるのか皆目検討も付きません」
「そっか。そりゃ悪い」
相手は何でもなかったように前に向き直る。
私の心配でもしているのだろうか。奇抜で興味深い人でもあるし、この人は一応、覚えておこうかな。警戒対象として。
彼の背中を見ながら、私は久しぶりに家族以外の人に興味を持ったことを実感していく。
紅智京くん。今まで私に関わったきた人のように、君が私に幻滅するまでどれくらいかかるかな?
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