大葉区陸・短編集
大葉区陸
やり過ぎ知り過ぎ騙し過ぎ
テレビを付ける。聞こえてくるのはどこぞの山だか温泉だかの案内など。特に何も考えず、男はそれをぼぉっと見つめていた。何かしら意味があるわけではない。考えがまとまらないからそうしているにすぎなかった。
「行くか――」
仕事の始まりとばかりにコートを着る。憂鬱さを詰め込んだような表情で玄関に向かい、ドアを開けるとそこには……戦艦のような形をした宇宙船が空にシルエットを落としていた。
始まりは一カ月前。それはあまりにも唐突に、世界各地に出現し続けた。
いかなる兵器を以てしても破壊は不可能。せせら笑うかのようにミサイルを撃ち落とし。何かを観察するかのように世界各国の主な首都などに一定期間留まっては、移動を繰り返す。しかも大方は首都、というだけで正確な規則性は一切が不明と言って良い。今は日本に停船しているが果たして何時他の国へ行くのかすらわからない始末だ。
その態度を知る事はできず。不気味でしかあらず、そして対処は不可能。
そんな悪夢のような存在に対抗するため国、ひいては世界の命運をかけある人間に依頼がなされた。
彼の名は
あらゆるレーダーでも彼の宇宙船の内部の構造を知る事は不可能だった。例え時珠の使うそれであろうと同じであるという結論に至ったその後、ある策が浮上した。
時珠がタイミング良く開発していた敵宇宙船への侵入やコンタクトを可能とする転移装置と、須楽の潜入工作技術。それにより宇宙船へ潜り込み情報を取得。
全てを打開してもらいたい……それが日本政府から下った依頼だった。
危険性を悠長に判断している時間はない。うかうかしていると他の国へ向かってしまい機を逸する。
(嘘のような変わり者の天才の助手として仕え、バカみたいに強大なSFめいた存在に喧嘩を売る。俺がそんな大役を仰せつかるとはな)
須楽はどこかぼんやりとした実感の無さと、同時に腹や頭に鉛を詰め込まれたかのような、閉塞感と不安感を抱えていた。
機械工学に長け、まるでお伽噺の領域な超天才である時珠を企業スパイなどから守るため、暗躍してきたのが助手である自分――須楽の役目だった。
だからといって、それと呼応するようにこんな嘘みたいな宇宙船が唐突に現れるなどということは、当然と言えば当然の世の流れなのか。それともただのアホらしい偶然か……はたまた宇宙人までもが博士の頭脳を狙っているのか。
少なくとも、最後のひとつだとはあまり思えない。身辺を警護していても特におかしな点は見当たらなかった。
時珠は研究を除いた日常においてはごく普通に暮らし、近所づきあいや買い物などをしている。攫おうだの殺そうだの考える輩が潜伏しているのだとすれば既に何らかのアクションをしていてもおかしくはない。昨日だって研究所の隣に住む外人がおすそ分けだとか言って煮物を持ってきてくれたのだ。
「結局、わからん尽くしで挑む他ない、というわけか」
そう誰に言うでもなく愚痴のようにぼやくと、いやと言葉が返ってくる。
「だからこそ、この作戦が重要なのだよ。須楽君」
いつの間にか自室から研究所の転移装置を備えた部屋にたどり着いていた。そこに居たのは上司であり先生でもある存在。
「博士」
時珠博士だ。
「つまり理解しえぬことをこれから理解するために君は行くのだ。この潜入は責任重大であるが、あくまで最初の一歩でもある」
情報を持ち出すのが肝要。そして詳しくはまだ言えんが、そこから更に敵を打倒するための手段も既に構築されている、と時珠は語る。
なるほど確かにそうだ。少しばかり須楽の不安が消えた。
だがそれでもなお気をひきしめねばならない。結局のところ、飛び込んだ先には何が待っているのか知れぬのだから。
観測した限りでは宇宙船のフォルムは地球の人間の使う乗り物とそこまで変わらない(もっとも素材やデザインはそれこそ正に宇宙船と言った感じのものではあるが)
ということは相手の価値観や体系も既存の人類と一定以上は逸脱していない……ハズである。あくまでそうである可能性がいくらか高い、という話だが。
能動的な攻撃をしていないため、単なる地球監視用のカメラ装置という線もある。それはそれで不気味ではあるが……
しかし極端に考えればあれはああいう形をした宇宙生物で、内部に転移した瞬間胃の中で溶かされる……なんてことも考えてしまう。
だとしても転移装置のシステムの問題から、またエージェントとしての技術力から。彼自身を送り出すことが最適と結論出てしまった以上彼は断ることができなかった。
「……転移の瞬間、危険だと判断したら即時戻ってきたまえ」
気休めでも、そういってくれるのは嬉しかった。
須楽が拳を握りしめ転移装置まで向かい、立つ。そこには最後の局面としての覚悟を決めた顔があった。
(これから私は果たして死に行くのだろうか。それとも生き残るために行くのだろうか)
願わくば、後者であらんことを。そう独白しながら彼はこの地球上から消失し……
未知へと向かった。
「――驚きと言えば驚きだな」
そこに広がっていたのは、何らかの施設と思われる廊下。酷く機械的かつ近未来風ではあるがごく普通のそれは、恐らく使用者がヒト或いはそれに近い存在に類する者だという……ひとまずは須楽自身の瞬間的な死は意味しないという、証左でもある。
(情報をかき集めるだけ集めるか)
光学迷彩を起動。携帯している再転移のための複合機械に今までの道筋を覚えさせ、マップを作成しつつ中心部と思われる場所へ向かう。
数分か、あるいは数十分か。静かに目立たぬように足音と体重を消し去る歩法を使い向かっていく。
そして彼は到達した。
(トビラ……誰かが出入りするのを待って)
なんとか合わせる形で入り込む。などと思った瞬間。扉があいた。
好都合だ。そう思い――そう、思い。彼がそこから見た光景に対し。
「はい?」
声が出た。
「……須楽君は無事なのだろうか。
転移装置の造られたモニタールームの中でもうひとりいた、女性助手。賽原に向かって博士は問うた。
そのセリフは今のでもう十三回目だ。そう妙齢の助手である賽原は計測しているが、文句は言わない。自分もそれ以上に同じ文言を頭の中で繰り返しているからだ。
「あ」
吐息のようなたどたどしい、返答にもならない発声。緊張で舌が上手く回らないが、それでも言葉をどうにか出していく。
「あの人……須楽君は凄腕です。科学者の助手としては不自然なほどに。だから危険と踏めば」
やはり既に引いているだろうと。同じく何度も自分を励ますために脳内で使っていた理屈を紡ぐ。
だろう、ね。と時珠も返した。ふたりとも道理ではわかっている。だが……だが、不安ではあるのだ。事は未知に過ぎる。とっかかりが無さすぎる。
いかなる観測方法でも内部を見透かすことは不可能だったあの船で、何が起こっているのか。誰も今はわからない……エージェントである須楽が帰ってくるまでは。
電波的に探知されては危険であるし、通信はできるかどうか疑わしいため今のところモニターは沈黙を保っている。
と。
ふとモニターに灯がつく。
「なにぃッ!?」
ありえない。一瞬須楽からの連絡かと思ったがそれは前述の理由からありえない。ということはつまり。
「奴らから……宇宙船側からのコンタクト」
画面に映っていたのは僅かに耳の尖った壮年の男だった。
人間ではありえない鉱物のような鈍色じみた体色をしているが、それを除けば地球人とさして変わらない。少なくとも意思疎通はできそうだ。
他にも異常な体躯をした筋肉の人間や、明らかにおかしな骨格構造の存在がいた。
混成種族の宇宙戦艦――字面だけでは映画か何かの設定のようだったが、そこには本物としてのリアリティがあった。
悠々とこちらを見回し、鈍色の男が問いかける。
「初めましてだな。我々が何者かということは君達もわかっているだろう? 地球上空に浮かぶ宇宙船のメンバー。惑星……そうだな。君たちの言語に合わせて仮にAとでもしておこうか。惑星エーからの「侵略者」ということになる。私はリーダーのグウキ」
そして隣に居るのは異様なまでに死んだ目と表情をした……
「須楽君っ!!!」
須楽そのひとが、いた。
「あ、貴方たちは須楽君に何を」
顔を蒼白にした賽原に対して場違いなほどに能天気な雰囲気で、艦の職員らしき捻じれた骨格の男が答える。
「いやですねェ。心身共になーんもしてやしませんですともよ。私たちの目的を教えただけで」
目的、つまり何かしら絶望するような真実を聞かせられたということか。
モニター室に緊張が走る。そう硬くなるなと、余裕の態度でグウキ達は話を切り出す。
「我々の目的は地球侵略ということに「なっている」のだ。そのために全ての存在を屈服させるという「こと」にせねばならない」
そこで科学者たちが違和感を覚える。何かおかしい。
そして今まで沈黙を保っていた須楽が喋る。
「ああ、大丈夫ですよ。こいつら……いや、この人たちは……」
建前でここに来ただけなんです。
「た……たてまぇえ?」
その通り! と高らかにグウキが叫び。
「我々の正体は惑星エー(仮)地球侵略作戦の臨時特別艦隊であり、同時に……」
すぅぅと空気を吸い数秒溜め。
「地球に旅行に来たツアーご一行なのであるッ!!」
沈黙と異様な寒々しさがその場を支配した。
「…………はい?」
それは須楽が最初に彼らを見た時と同じ種類の疑問を帯びた声だった。
明らかになんのこっちゃというその声色を聞いて異様に捻じれた骨格の男が、次いで概略を説明しだす。
「つまりですねェ。丁度私達の母星では一年ほど前に地球と言う奇妙な星を見つけ。その存在に対してどうすべきかという事を判断するため尖兵が送られることになったんですわ」
「可能なら征服してくるかという目的も含めてな。我々の超科学を持ってすれば簡単だろうと考えられ、乗組員が星の法に基づいて募集された……だがそこでリーダーに選ばれたのは私だった」
引き継ぎ自慢げに語るグウキ。先ほどと同じく迫力のある面の筈なのだがなんだか気の抜けた雰囲気になっていた。
「元々それなりの権力者であり富豪であった私は秘密裏に地球の情報をキャッチして調べる事に成功していたのだ……そこで思った」
「この星、凄く楽しそう……とな」
おいおい。と地球人側の意思が完全に一致する。
「そこそこ平和だが娯楽や景観に乏しいこの星に飽き飽きし、情報を共有した我等は裏で決起したのだ」
こっそり地球で遊んできた後に撃退されたフリして帰ってこようと……
「それ良いのか!? 地球人のワシが言うのもなんだが良いのか!?」
時珠博士が魂の叫びをあげた。
「いや、可能ですけどどうせ侵略してもそこまでメリットありませんしィい。文化的なものは学ぶ面も大きいでしょうが一気に攻め込むと台無しになる可能性大ですしー」
地上のモニター室の空気は完全にドン引きと弛緩した空気の両方に支配されていた。
「だから私もこんな顔してるんですよ……見てください、この広くてメインの指揮を取るハズの部屋が土産物で一杯ですよ土産物で!」
画面の向こう、呆れ果てたように須楽が敵の部屋の壁などを指さすのを見ていくと、成程確かにところ狭しと世界中の民芸品やら色々な土産がそこには置いてあった。修学旅行の木刀やらコケシまである始末だ。なんて緩い雰囲気の中枢なのだろうか。
最初に須楽が部屋の内部を見た時は思わず気が抜けてしまい、奴らにアッサリ発見。そのまま須楽が宇宙船に潜入せしめた事実を驚かれつつも事情を説明されたのだった。
世界各地の首都などで停止していたのはこういうことかと合点が行く。
ようはこいつら地球人に化けてこっそり降下、この一カ月ほど世界各国の名所などで遊び歩いていたのだ。たまに世界の首都ではなく地方などが含まれていたのも単にそこに行きたかっただけだ。
「ハッハッハ、だがまさか我々の船内に入りこめる技術者が居るとは驚きだ。しかしどうだろう、ここは黙って内緒にしてお互い手打ちにするということで。どうせ戦力ではこっちが上だ、そちらも得だと思うのだが」
船内全体が朗らかな、それでいてアホとしか言いようないムードでありながら脅しをかけてくる。
「我々も前々から仕込んできた情報改竄の準備は完了しましたし、幻のコダイブンメーの遺産とかチョウノーリョクシャみたいな存在に撃退された感じにすれば本星を誤魔化せるからですにー」
ねじくれた骨格の男もケラケラ笑っている。やけに地球の娯楽に慣れている。
そこまで順応したかこいつらと須楽は呆れた。しかしある意味では、こいつらみたいなノリの観光客が何百億という単位で来るか、逆に尖兵以上の超戦力を投入される可能性もあるわけだ。
(これは要求を呑んでごまかさなければ危険なのでは……?)
「いや、そんなその場しのぎのネタで騙す必要はない」
そう須楽が考えていた時、時珠博士が苦々しげな、それでいて何か決めたような顔でそう返した
「は、博士……確かに凄くおかしいですし、完全に舐められてますけど。でも……彼らの技術と力は本物です」
意固地になっては危ないのではと、賽原がおどおどしながらも説得しようとしたが。それに構わず時珠は僅かに目を泳がせ。
「……ワシ、もう作っちゃったんだよ。最終兵器」
「…………」
再度、は? という声が皆からあがる。
「いやな。いくらなんでもあんな行動している相手が只者であるはずがないし、正体は解らずとも敵の「武力」の凄まじさは既に証明されていたわけだ」
だから作っちゃったんだよ。決戦仕様の超兵器。
そう言って時珠が指を鳴らすと。モニター室の天井が割れ。隣の建築物……研究所内では常々謎とされていた格納庫の封印が解けていった。
「一体なにが……」
と言ったのは誰なのか。そんな確認をする余裕もなく事は進んでいく。
全員が今ひとつ彼の言った事を理解できぬままポカンとしているが、知ってか知らずか時珠は腕組みをし、何故か今は誇らしげな顔をして周囲を見据えていた。
研究所は変形し、道を開けていく。轟音と震動、そして奇妙な熱量と存在感が宇宙船のレーダーからも知覚されていった。
数十秒ほどして賽原が空を仰ぎ見ると、そこに見えたのは。
黒や銀の基調をした、明らかに特異なエネルギーの籠っている重々しい金属の体表面。
あまりにも破壊的としか言いようのないトゲやドリルの付いたマッシヴな造形。
正しく鋼鉄の巨人。あらゆる物質も何もかも破壊せしめんとする数十mのバケモノ。
つまるところ。
それこそが。
すなわち、巨大ロボであった。
「世界最強白兵戦ロボ」
拳を握りしめ。
「マグナム、Gィィィィッ!!!」
叫び声と共に腕を振り上げるその姿。よくわからぬ時珠の迫力にその場の皆が気圧され、暫くの沈黙が走った。
「な、ななな……なんという物を作ったんですか博士ぇ」
最初に静寂を破った者――賽原はもはや腰を抜かしながら涙目になっていた。明らかに精神的な許容量を超えておりそろそろ危ういのではないだろうかと思わせる。
「博士、いやこれって。いくらなんでも……」
やり過ぎではないだろうか。いくら天才だと言ってもこれはアリなのか。
須楽の脳裏にそんな疑問が浮かぶが、今まで会話していたこの宇宙船員たちの存在も相手が相手だっただけにどう言っていいものやらわからない。
迷いつつもかろうじて最初に聞けたことは。
「どうやって動いているんですか……?」
技術者、科学者としての疑問だった。
「賽原君、須楽君。動力やパワーなどを今説明しても良いがおそらく私以外には簡単に理解できない上に迂闊に理解したら君らは卒倒するだろう。そういう代物なのだ。よって割愛する」
何気なく恐ろしいことをサラッと返してくる。
「しかし……どーすんだよ! その、なんだ……秘密裏に国家予算的な枠の金を国際レベルで使っているのだぞ!?」
そして流れるように時珠が惑星エー(仮)艦隊に向かってキレた。えっ俺達? みたいなノリで困惑する相手方。そりゃ確かに言われた方は寝耳に水ではあるだろう。
「いや誰も知りませんよ! 勝手に作ったのは時珠博士じゃないですかっそんなしょーもないものをっ!」
つい須楽も暴論だと思い反論した。グウキたちを庇いたいわけではないがこれはいくらなんでも難癖だ。まあ博士の怒りも理解できなくはないのだが。
「しょうもないとは何だね、ワシだって趣味だけでこれを造ったわけじゃないんだぞっ趣味だけで……」
まあ、多分に趣味の要素も混じってはいるが……と徐々にか細く弁解が始まる。
「し、しかしだ。にしたってメインの目的としてはだ。人類、ひいては地球の存亡を危惧する気持ちから真剣に造った事には違いないのだ。そしてだからこそ莫大かつ強大凶悪な技術と資金とワシのつてから人脈をつぎ込んである。むしろしょーもない存在ではないからこそ問題なのだ……」
一同は悩み混乱した。
いくらなんでもそこまで手間をかけたロボが無駄でしたとなれば関係各所から暴動が起こりかねない。表沙汰になるのも時間の問題だろう。税金泥棒どころではなく下手をすればテロリストか何かとして処理される可能性すらある。
ふと、少しして時珠が何か思いつき、決意した顔を見せた。
「須楽くん。とりあえず君と合流したいので渡した装置のAボタンを押したまえ」
「えっ、あっ……はい」
と、言われるがままに携帯している装置のAと刻まれたボタンを押すと。
目の前に時珠が現れた。
「なっ――」
「AボタンのAは取り寄せ(Apport)のAだ。つまり君の転移場所に私を送り込むようにしてある」
なぜ博士が今それを……と聞く暇もなく時珠はズンズンとグウキたちに進んでいく。
「君たち。耳を貸せ」
そういうと有無を言わせず乗員へと色々と語りかけていった。不思議なことに、喋りかけるたびに彼らの顔色はあからさまに悪くなっていく。慌ててコンソールらしきものを操作して何かを解析していた。
「わかったようだな。あのマグナム-Gの恐ろしさが」
「博士まさか……」
「うむ、マグナムの動力や能力の詳細を手短に教え込んでやった。どうやら地上に居るあれを必死で確認しているようだな。流石に妙に科学力が高いだけに理解も速い」
さぁて、ワシが死んだり自棄になったらアレに仕込んでおいた非常用装置がどう発動するか……知りたいかね?
そう睨みつけた時珠の前に全員が恐怖していた。
ついでに宇宙船の画面の向こうの賽原はスペックの詳細を聞いていないものの、色々と耐えきれなくなったのか気絶した。
(一体何を、何を仕込んだんですか博士)
後に様々なゴタゴタが終わるまでの話だが――須楽は結局最後までそれを聞くことはできなかった。
「まあいい。ワシの要求は簡単だ、つまり――」
テレビを付ける。聞こえてくるのは、ニュースの連日放送。
内容は「巨大ロボマグナム-Gと惑星エーから来た宇宙戦艦との熾烈な激闘」という、テレビアニメかと言いたくなるような派手な応酬だ。
あの後、博士が要求したものはつまるところ「見せかけの戦闘」であった。
本星を誤魔化すかなり尤もらしいリアリティのある材料として。
そしてこのロボは無駄に作られてしまった存在なのだとバレないため。
更に地球は普通にやりあってもお前らを倒せるんだぞという今までのフリーダムな行いへの意趣返しもかねて。
出来レースの、派手なだけで被害ゼロのある意味高度な作戦と技術と演技による戦闘が展開されていたのだった。
その場に居た惑星エー(仮)艦隊の面々と須楽と時珠と賽原、そして元々乗る予定だったパイロット……後から知った話だと、実は隣の家の外国人青年だったのだが。
それら以外は誰もこのことを知らない。
戦況の変化を知ったパイロットの彼も割とノリノリで戦っている。抜け目がない上に適応力あるなあと須楽は感心したものである。
一説にはある統計ではグッズ展開や社会に対しての大きなカンフル剤として経済に良い影響があるとの意見もあるし、他の戦いなどしてる場合じゃないと紛争などが……全てではないが、一部解決された例も聞く。
少なくとも茶番とは必ずしも言い難いのは事実だった。
だが…………
「結局なんだったんだろうなあ、これ」
今も須楽はあのロボットの技術を狙う悪徳企業や犯罪組織の奴らから博士を護ったり助手として研究を助けてはいる。
が、あの時。果たして己のやった事は偉業なのか意味のない行為に過ぎなかったのか。
それを知る者はおそらく誰も居ない。
ただ言えることがあるとすれば。
「色々とやり過ぎだよな、これ」
窓の外、今も爆裂する七色の閃光と共に拳や大砲を振るうロボと宇宙船を見て。
彼は自室で一言そう呟いた。
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