水嶋さん

ろくちゃん

第1話

角のある波なんて無かった。どこまでも凪いだ水面に突然落ちてきた水滴は飛沫を上げ……盛り上がったなだらかな波紋は広がって……


広がって溶けて見えなくなる。



足元で跳ねる雨粒がズボンの裾を濡らしていた。


ビルにくっ付いた大型の液晶が雨に烟って滲んでいる。


画面いっぱいに大写しになった女優かタレントかよく知らない芸能人がはにかみながら大きな石の付いた指輪を見せている。どこかの金持ち青年実業家と結婚が決まったらしい。

瞬くフラッシュの中でインタビューを受けていた。


「今あなたの人生は何色ですか?」


どうでもいい記者の質問に頬を染め、「薔薇色です」と答えた。



「なあ…薔薇色って何色だ?薔薇って赤も黄色もピンクも紫もあるだろう」


「そんな直接的な意味じゃ無いと思うんですけどね」


「何が?色を聞かれたんなら色を言えよ」


「まあ…いいじゃないですか、どうせ俺たちに関係ないし、色番調べろなんて言われませんよ」


「言えば調べてやるのに…」

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