第15話 王様は……


 混乱する俺達の耳に、突如女性の声が響いた。思わず飛び上がる。

 振り向くと、親父がつまらなそうにテレビをつけていた。女性のレポーターが砂漠で何か言っている。


「ちょっ、親父やめろって!」

「なんだよ、ここは俺の家なんだから好きにさせろ。お前はそこの外人さん達と仲良くやってればいいじゃないか」


 そう口を尖らせて抗議された。

(拗ねてる……! なんて大人気ない親父なんだ!)


 慌ててリモコンを取り上げようと親父ともみあいになる。スヴェンたちは目を丸くしてテレビを見ていた。テレビを初めて見たらしい。


 テレビの中ではレポーターが興奮して、砂漠を指さしている。


《――数時間前、白い光と共に、サハラ砂漠の赤い砂が消失しました! ご覧ください! 砂丘がまるまる消えてきます! 竜巻ではありません! 風は全くありませんでした!》


 ぴたり、と俺はリモコンを奪おうとする動きを止めた。

(白い、ひかり――? 赤い、砂?)


 フラッシュバックする。

 俺が王鳴で転移した時は、全て白い光に包まれはしなかったか?


 ……ハッと気付き、スヴェンたちにまくし立てた。


「わかった! 砂漠の赤い砂だ! 王鳴によって砂漠の砂が召喚されて、雪の核になり、赤い雪を降らせたんだ。あれは王灰じゃなかったんだ。王様は焼かれてない! それどころか、王鳴が使われたってことは、王様はまだ生きている!」


 スヴェンは思わずといったように立ち上がった。


「それは本当か!」

「ああ、あの赤い雪は、俺たちを諦めさせるために打ったヘルン市の罠だったんです。おそらく王様を脅して召喚させたんだ」


 だけど、火葬場は破壊した。もうヘルン市で王さまを燃やすことはできないはず……。


(なら、火葬場が無事な他の都市に移送されるのか? それとも……)


 考え込む俺の耳に、またテレビの女性の声が割って入ってきた。


《先ほど入ったニュースです! ○○国××の火葬場が、白い光に包まれて消失しました! 繰り返します! 火葬場が消失しました!》


 ……火葬場? まさか火葬場を召喚したのか!?


 テレビに映っている、観光客が撮影した火葬場が消える映像をみて、アクセルが唸った。


「移送をしてる間に雪雲が消えると判断したのか。ヘルン市は異世界の火葬場を使って、ヘルンで王様を焼く気だ!」


 スヴェンが眉根を寄せて、苦々し気に言う。


「……時間がない。涼太、我々をヘルンまで戻せるか? 全軍を擁してヘルンを攻撃し、王を救い出さねば!」


 俺は頷いた。

「やってみる」


 目を閉じて強く祈る。

(みんなでヘルンに戻る、みんなでヘルンに戻る――! 王様を救うんだ!)


 しかし、……なにも起こらない。

 何度か試してみても、同じだ。俺は深いため息を吐いた。


「――だめだ、命の危機じゃないと転移できないかもしれない」

 先の二例を見る限り、俺の王鳴は火事場のクソ力だったようだ。死にかけないと発動しないらしい。


「……誰か俺を刺してくれないか?」


 そう言ってみんなを見回すと、驚愕して戸惑っているようだった。


「王族を害すなど、俺には……」


 忠実な軍人であるスヴェンが、それだけはできないとばかりに首を振った。

(ならば……)

 アクセルに視線を移すと……しばらく葛藤していたようだが、真剣な目で俺と目を合わせ、頷いた。


「……俺がやる」


 アクセルは腰にあったナイフを鞘から抜いて、静かに構えた。俺は頷いた。

「悪い、頼む」


 親父は、まさかと顔を青くして、よろめきながら立ち上がった。

「お、おい。お前ら一体何を――!」

「親父、悪りぃ。すぐ帰ってくるから。……やってくれ、アクセル!」


 言い残す間もあればこそ。アクセルはナイフを振りかぶり、一直線に俺の胸を刺してきた。

 また、ゆっくりと時間が流れる。こめかみが拍動し、息が苦しくなる。

 

 白い光が溢れ、部屋を埋め尽くした。

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