第26話 友情努力勝利、性欲我欲逃避。

 ゴルゴースの石化は、石化された直前の記憶が残らないのが特徴であり、よく暗殺や誘拐に使われる。

 だからこそ、採取したら届け出を出さないといけないアイテムの一つだ。

 昨日の看守も、おそらく石化したこと自体覚えていないだろう。

 そして、今俺の目の前にいる二人もそうだ。


「おはよう」


 石化を解除し、頬を数回叩いて二人の目を覚まさせる。

 片方はバトラーの恰好をした妙齢の男で、もう片方は20代中盤くらいのイカつい鎧を身にまとった男だ。


「質問に答えるつもりはないし、俺が誰かを教えるつもりもない」


 何かを言おうとした給仕長の腹を蹴り上げ、黙らせる。

 それを見たのか、近衛騎士も開けた口をゆっくりと閉じてくれた。


「お前らが今いるのは、初代ランバージャック王妃の残した“開かずの茶室”だ。そして、そこにいるってことを加味してよーく頭を働かせながら俺の質問に答えろよ」


「バカなっ!あの茶室を開けられるのは千器ただ一人のみっ!」


「わかってない様だからさ、少し体に教えてやるよ。俺は“よく考えて”質問に答えろって言ったんだ。誰も“好き勝手話していい”なんていった覚えはねえぜ」


 俺が当時よくつけていた仮面をつけ、盗まれていた装備の一つ、討伐ランク49のインフェルノスパイダーの糸を撚り合わせて作った糸で二人を拘束している。

 この事実から、すこしは察してくれると思ったんだけど、想像以上に察しが悪いみたいだ。


 足元でぼろ雑巾みたいになって転がる近衛を見た給仕長はごくりと生唾を飲み込み、静かにうなずいてくれた。


「俺はな?俺が必死こいて集めた物を誰かに横取りされるのが死ぬ程嫌いだ。それに、それを我が物顔で使いつぶそうとしてるやつも殺したくなる。言っている意味が分かるな?」


 給仕長に剣をつきつけながら優しく語り掛ければ、冷や汗を顎から一滴たらしながら頷いた。


「まともに戦えば俺はこいつにだって勝てないような糞雑魚だけどさ、英雄でもなく、勇者でもなく異能者でもないような奴を、不意打ちで拉致ることなんか朝飯前でできるくらいには経験を積んでるんだよ」


 常人には毒も効くし、呪いの類も有効だ。

 それに後頭部をぶん殴れば意識は飛んでくれる。

 

「俺が誰なのかは別に話す気はねえけどさ、だけど、“俺の領地”に土足で踏み入って、しかもそこのやつらを使って随分と好き勝手してくれたみたいじゃん?」


 坂下たちから切り取った奴隷紋を、この二人に貼り付け、新たな契約を結ぶ。


「俺の事を他人に知らせるな。これ以上俺のモノに手を出すな。出させるな」


 これが新たな契約の条件だ。

 空白の奴隷紋でしかできないが、内容を全部切取ってやれば簡単にそれが可能になる。

 勿論、実力差があったり、相手が正常な精神状態だったらできないけど、そのために俺がわざわざこんな格好で、こんな場所で話しをしているんだ。


 当然儀式は成功だ。


「お前らがな、俺の大事なマリリンを夜な夜な辱めてるって考えるだけでこっちは……………マリリンで抜けなくなるんだよくそ野郎がっっ!!!」


「あがっ!?」


 は?みたいな顔をしてきた給仕長をぶん殴り、地面で辛うじて意識だけはある近衛もぶん殴ってから外に捨てた。

 これだけ脅かしてやれば十分だろ。


 それに何より、こいつらがマリポーサにあんなことやこんなことさせてるとか許さん。

 俺だってしたことないのに、そんなことをこいつらがしていいはずがない。

 あの美乳は俺のだ。誰にも渡さん。


「さてと、後顧の憂いも無くなったし、とっとと演習場に向かいましょうかね」


 茶室には500年以上誰も入っていないのに埃一つないままだ。

 それもそのはず、当時のランバージャックの第一王女に言われて、この茶室には様々な環境を維持する術式を組み込んである。

 あのバカ王女との少しだけ懐かしい思い出の場所でもあるこの場所を、こんなことに使ったってバレたら怒られるかもしれないな。


 初めて第一王女をここに招いた時に、彼女が浮かべた涙を思いだしながら、扉をそっと閉め、演習場に向かった。

 ぶっちゃけちょっと遅刻しそうだからかなり全力で走る羽目になったけど、まあこの際だからいいだろう。

 こんな時こそ勇者の身体能力が羨ましくなるぜまったく。

 必死こいて走ったおかげで、どうにか訓練の開始には間に合うことができた。

 初めての外での訓練だし、遅れてたらやばかったな、ってのと、あれ、もしかして俺いなくても始まってたら泣いちゃいそう、って言うのが半分半分くらい………いや後者9割だったわ。


「わりぃ遅くなった!ちょっとおばあさんが木に引っかかっててさ」


 思いつく限り最高の言い訳をかましてやったら、そこら中から冷ややかな視線を浴びてしまった。生憎と俺はそんな視線で悦に浸るような人間じゃないのよ。







 

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