第21話 個性の押し売り、惰性の押し入れ
◇ ◇ ◇
最近はよく驚くことがある。
例えば、皆に内緒で“個性”をいち早く使える様に訓練し、摸擬戦で俺に定着した“脇役”のイメージを払拭してやろうと思って、個性を発動し、切った相手から“手ごたえ”を全く感じないことや、その相手はそもそも“攻撃が当たってない”のに吹き飛び、摸擬戦に負けたこと。あとゲイ呼ばわりされた事。
それに集団戦闘の訓練で戦った坂下が、今までに見たことがないくらいの必死の形相で俺に食らいついてきたことや、突然動きが良くなったこと、そして最後に、俺達の“全ての動作”が“あいつ”の掌の上で踊らされてただけってことか。それとゲイって言われた事。
「まだ痺れが残ってるな」
俺達は負けた。
無能勇者と蔑まれる男と、クラスで目立たなかったオタクの男子や、読書ばかりで、話しをしているところを見たこともない様なウルトラ可愛い女子、そして坂下のパーティーに、完膚なきまでに負けた。
一体いつ、虎太郎の個性を知り、いつからこの作戦を考えていたのか、全く理解できない。それとなんで俺がゲイ呼ばわりされるのかも。
「くそッ…………なんで、なんであの時…………」
俺の横で刀矢が悔しそうに拳を握りしているのが見えた。
「仕方ないさ、向こうが上手だったんだ」
「そんなことない!俺が、俺があの時転ばなかったらあいつを速攻で倒して皆の所に助けに行けてたはずなんだ!」
あぁ、そうだろうな、あの“穴”が偶然できた物だったり、俺たちの前の模擬戦で偶然できたものだったらな。
だけど、俺は見ちまったんだよ。お前があの男の事しか見ず、突っ込んでいって、足を地面に付く瞬間に、あの穴が出来たのを。
そして、それを分かっていたかのように展開された障壁も、反応したにしてはタイミングが良過ぎるんだ。
どう考えても最初から“狙ってた”としか思えないんだよ。
それにだ、お前を一瞬で倒した会長の攻撃を、アイツは完全に見切って避けてた。
動きは大したことないが、“動き出し”が桁違いに早い。
会長が攻撃しようとした時には、アイツはもう動き始めてたんだ。
目の前でやられたら絶対に気が付かないレベルで、あらかじめ動いてた。そんな感じだ。
俺が気が付けたのだって、あの摸擬戦があったから、アイツを警戒してたからで、警戒していなければ俺も気が付かないまま、たまたま運悪く負けたと思ってただろうよ。
「でも、勝負に負けたのは事実だからな………」
「…………認めない、絶対に、こんなの認めないぞ」
そう言えばもう一つ驚いたことがある。
俺の友人つーか、腐れ縁のこの男、神崎刀矢の人格がこっちに来てから目覚ましい速さで歪んでいってる。
最初は慣れない異世界だからか?なんて思ってたけど、他のやつらみたいにヒステリックになったり、ホームシックになったりってわけじゃなく、ただ攻撃的になってるような印象を受ける。
もともと刀矢は大塚のことが嫌いだし、こいつが無能勇者って言い始めたのも知ってるし、それを周囲に定着させたのも知ってる。
だけど、だからって今回の事はやりすぎだ。
こいつの変化に敏感に反応した坂下は最近俺達と一緒にいることが少なくなり、時々どこかに行っては目を腫らせて帰ってきてた。
だからだろうか、坂下があいつのパーティーに入ったのは。
「あぁ、なんで俺がこんなこと考えてんだ?」
「友綱?大丈夫か?」
さっきの凶悪な表情とは打って変わって、向こうで良く見せた少しあほな顔を俺に向けてくる刀矢。
こいつは主人公だ、きっとこの世界に本当に招かれたのなんか会長とコイツだけなんじゃないかって、最初は思ってたけど、違うかもしれない。
俺達は、誰一人として招かれていないのかも知れない。しいて言えば俺達全員あいつの…………。
「さすがにそれはないか」
身体能力は俺達の中で最低、個性も全く強くないと、自己申告でだが言っていた。
加護も恩恵も感じられない。圧倒的に弱く、不憫だなんてことは一目でわかる。
無能勇者だって言われるのも納得の弱さだけど、でもライトノベルではこういうやつが覚醒し、強力な力を得ることもあるんだ。
現状が既にファンタジーの中みたいな状況だし、そうなる可能性を無視することは出来そうにない。
「友綱、さっきからなに一人でぶつぶつ言ってるの?」
「あぁ、なんでもない…………本当に何でもないさ」
俺は一体どうするべきなのか。
まあ、よくわからねえが、暫くは様子見だな。
それにしても、須鴨さん、いつ見ても可愛かったわ。
今度食事でも誘ってみようかな。
そんなことを考えてたら、意外とすぐに訓練は終わりになり、神崎は王に呼び出され、俺はあいつの後をつけてみることにした。
これで何かわかるとは思えないが、それでもあいつの考えてることくらいはわかればいいと思うけど。
あいつはすぐに仲間と別れ、1人で闘技場の裏手に向かっていった。
やっぱりなんかあるのか?
そう思いつつ、息をひそめ、尾行を続けていると、人気の少なくなった辺りで、急にあいつが足を止めた。
「―――よっ」
「―――ッ!?」
視線は切っていなかったはずなのに、何故か俺の背後からあいつの声が聞こえ、急いで振り返ると、案の定あいつがそこにいた。
「俺程度の尾行じゃ簡単に見破れるってことか」
「いんや、そうでもねえさ、それにお前に話があったのは俺も同じだからな、丁度いいと思って泳がせてたんだよ」
何から何までお見通し、それに全部掌の上ってことかよ。
「話ってなんだよ」
「お前はあの訓練中、唯一俺のことを見てた。行動を外から監視してた。だから気がついてるんだろうなって思って、少し“お願い”しとこうって訳よ」
お願い、ね、本当にそれがただのお願いだと思っていいわけがない。
人気のない場所で、得体の知れないやつと二人っきり、しかも、俺を殺そうと思えば簡単に殺せるような奴とだ。
そんな状況でお願いって言われても、ただの脅迫でしかねえよ。
「なんだよ」
「そうつんけんすんなよ、たださ、俺の事は黙っててくれると嬉しいってだけだ」
「何を黙ってりゃいいんだよ、まったく見当がつかねえな」
「そうかいそうかい、んじゃそのままの調子で一つお願いするわ。あぁ、それとだ、あんまし“この国”を信用しない方が良いぞ」
大塚はそれだけ言うと、俺の前から去ろうとした。あまりにも自然に帰ろうとしやがるから止めるのが若干遅れちまったくらいだ。
「まて!どういうことだ!お前は何を知ってる!」
肩を掴んで強引に振り向かせれば、大塚は心底めんどくさそうな顔をしながら渋々話し始めてくれた。
「俺が言うのも面倒だし、取り合えず泉に飛び込んで色々聞いてこいよ。そうしたらわかるから、あぁ、そこで聞いた話は他言無用で頼むぞ」
「そんなことしなくてもお前が直接―――ッ!?」
肩を掴んでいたはずの大塚の体が突如眩い閃光を放ち、俺の視界が奪われた。
光が収まったころには既に、アイツは姿を消しており、その場には俺だけが残された。
「なんなんだよったく…………」
憂さ晴らしに地面を蹴り付け、その後、俺はその足で泉に向かて歩みを進めていった。
そしてそこで、ランバージャックが今どういう状況にあり、そしてどうして俺達が召喚されたのかを知ることになった。
そしてもう一つ、俺の体に刻まれた“奴隷紋”の内容がきれいさっぱり“切取られている”事も、泉の女神によって教えられた。
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