第3話 行ってきます異世界

 そんなこんなで、イジメられ、周囲の人間も巻き込まれるのが嫌なのか、俺に近寄ろうともしなくなり、俺は学校では完全に孤立してしまったわけだが、まあそれが案の定俺にとっては都合が良くてですね。

 話に合わせる必要もなければ、昨日見たドラマの感想を聞かされることもない。

 生憎と俺は癖でトレーニングをしているせいもあって、この年頃の連中の話しに付いていけないんですわ。


 まあ、そんな俺でも、たった一人話ができるやつがいるんだけど、そいつってかなり無口で、しかも隙あらば俺のことをたたっ切ろうとしてくるような物騒な奴なんだわ。


「おい大崎」


 そうなんです。今俺の席の前で、俺のことを殺したそうな目で見ながら、名前を呼んでくれる人が俺のこの学校で唯一話せるソウルフレンドの恵比寿秋葉さんなんです。

 旧家のご出身で、代々続く実践的総合武術とか言うグラップラー顔負けの怪しげな道場の跡取り娘さんです。

 あ、ちなみに俺は両親の生命保険と団体信用保険で手に入れた自宅でのうのうと生きてる親不孝者の大崎悠里と申します。


「どうしたんだよあっきー」


「その名前で私のことを呼ぶなと何度言ったら……まあいい、そんなことより、父がお前に会いたがっている、放課後少し顔を貸せ」


「あ、マジ?もう俺達の関係バレちゃたかんじ?仕方ないなぁ、お義父さんにはしっかりと説明して、俺達のことを認めてもらえるように―――」


 頭がかち割られるんじゃないかってレベルのチョップを食らった。

 これあれだぜ?たぶん瓦とか割る感じのやつだぜ?それを頭に容赦なく振り下ろしてくるとかこの女相当サイコ野郎なんじゃね?


「冗談通じないから友達出来ないんだぞ」


「それをお前だけには言われたくない」


 まあ、なんでこいつが俺に話しかけてくれるかって言うと、不良少年をあしらった時に、その現場を見てたらしいんだわ。

 んで、そのすぐ後に絡まれたからあいつらの仲間かと思って少しいじわるな方法で撃退したら号泣されて、そこから命を……まてまて、話しの飛躍の仕方が尋常じゃねえじゃん。

 なんで絡んできた奴撃退して俺そんなに狙われてんのよ。今更ながら驚きだわ。


 その後はまあ実家に呼び出されて、丁寧な歓迎を受けて、その後にパパにぼこぼこにされたんだけど、もうね、本当に意味が分からないよ。

 呼び出したくせに「覚悟は良いだろうな?」とか言い出すからねあのパパ。

 しかも登場する作品間違えてますよ完全に。男の塾とか、指先一つでアベシとかそう言う感じの顔だもん。

 それに比べたら俺の顔なんて一筆書き出来そうな程手抜きだわ。


 まあ、でも話ができる友人……なのかわからないけど、そう言った存在は必ず必要で、俺は恵比寿とよく話す様になってから表立ってイジメられることも少なくなり、それなりの生活を再び取り戻した訳だ。


 それから月日がたって、俺は高校生になった。

 その頃には既にこの世界にもかなり馴染めてきて、馴染めてっていい方が正しいのか分からないいけど、それでも順応することができてきた。

 幸いなことに俺が進学した学校は、中学時代のやつらが一人もおらず、俺がいじめられてたことを知っている人間は当然いなかった。

 まあイジメられてるって認識はあんまりなかったんだけどね。せいぜい手の込んだイタズラするなぁ程度だし。

 向こうのいじめはこっちよりもよっぽど苛烈で、悪辣なものだったし、そう言う現場を腐るほど見てきた俺から言わせれば、本当にただのイタズラ程度の物だった。


 高校生活はそれなりの充実と、平穏を与えてくれたが、どうにもそれを破壊しそうな気配がするクラスメイトが存在している。

 1人は、文武両道、眉目秀麗、運動神経抜群で、もうどこの少女漫画から飛び出してきちゃったのって感じの男、神崎刀矢。

 名前がもう物騒で物騒で、刀に矢とか、貴様いつの時代だよ。 

 せめて荷電粒子砲とかにしなさいよ。まあ名前じゃ無理だけど。神崎荷電粒子砲、なかなか親の顔が見たくなるな。

 次がこの世のギャルの生態系の頂点に立ちそうな女、坂下雅だ。

 まあ、見た目ギャル、性格ギャルなのに、サブカルの話しもできるし、ゲームもできる、オタクも運動部の連中も分け隔てなく接するスーパー女子だ。

 そして三人目、こいつからは俺と少し似た臭いを感じる系男子、宮本友綱君。

 要するにあれだ、脇役。

 顔もそれなり、スポーツもできる、しかし、どこからともなく溢れる少し残念なオーラが脇役感を如実に物語っている気がする。

 そして4人目、こいつが最も厄介な奴で、藤堂虎太郎という。

 ムキムキのスポーツ系イケメンで、口調は少し荒いし、態度も横柄だけど、顔がいいし、スポーツもずば抜けてできるせいか、その行動にフィルターがかかってしまっている感じがする。


 めんどくさそうな連中とは極力お近づきにならないように細心の注意を払って生活してるんだけど、どうにもこいつらのコミュ力は53万を遙かに超えているようで、俺の心の壁を容易に突破し、時たま話しかけてくる。


 なんてはた迷惑な連中だ。


「ゆーりん、何してんのさ」


 朝のHR前に自分の席で世界平和について思考を巡らせていると、案の定要注意人物の1人、坂下が話しかけてきた。


「あぁ、世界平和について考えてたんだよ」


 まあ、もちろん嘘だが。

 なんで俺がそんな知らん奴のことまで考えなきゃいけないんだよ。

 もう既に自分の事も手に余る状況で他人の幸せなんか考えられるか。


「んー、世界平和、むっずかしいこと考えてんねぇ。アタシバカだからそういうの苦手なんだよね」


 でしょうね、俺だって苦手だよ。


「とりあえず、おっぱい触れば平和になんじゃない?」


「よし、じゃあまず俺から平和にしてくれ」


 おっと、危ない危ない、つい変なことを言いそうになっちまったぜ。


「えぇーゆーりん変態じゃん、なんでアタシなのよ。お金払えば触らせるくらいだったらおーけーしそうな子いるよ?」


 あれ、口から出てましたかね。

 これは失敬。


「まあ俺ほどの男になるとオパーイ程度じゃ平和に何かならないけどな」


 むしろ違う意味で平和ではいられません!

 異世界でも童貞を守り続けた男を舐めるな。


「ほほう、そんな事言うんだ、じゃあ雅ちゃんが触らしてやったらどんな反応するか確かめてやろうじゃないの」


 ニヤッと笑いながら少し周囲を見渡し、俺にズッと寄ってきた坂下。

 もちろんこれも冗談であり、機嫌がいい時に極々稀に見ることができる光景だ。


「ほれほれ、今なら誰も見てないぞよ?」


 なんだこれ、え、まさかこいつ俺のこと好きなんじゃね?

 なんてことはない。俺は異世界で学んだんだ。

 この後胸を触ると、どこからともなく藤堂の群れみたいなのが現れて、俺は有り金を全部巻き上げられるんだ。

 そう言う経験を何度もしてきてる悠里さんを舐めるんじゃありません!

 だからお願い、静まれ俺の右手ぇぇぇぇぇッ!!!


 


 なんてバカなことをしていると、俺の、俺達の足元が眩い光を放ち、少し懐かしくなるような幾何学模様が浮かび上がった。


「げっ……」


 俺が声を上げたのと同時に、教室に大声を上げながら誰かが入ってきた瞬間、俺達は異世界に召喚された。



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