第20話:行方不明になったオーキス=メイガ―ビーム
【メイガ―ビーム家】――聖王都で、武器販売を行う有名な豪商の家名であった。
そこの次女”オーキス”は、ロイドが以前加入していた”勇者パーティー”のメンバーの物理攻撃も得意とする魔法使い、
そしてリンカや、サリスとは魔法学院時代の同級生だったようだ。
世の中は案外狭い。その事実をロイドは改めて痛感する。
そしてここからが本題。
リンカの家へ飛び込んできたサリスの話によると、オーキスが加入していた”勇者ステイ=メンのパーティー”は、ロイドをクビにした後、別の迷宮に潜ったきり戻ってこないのだという。時は既に一週間が経過しようとしていた。
「ちょっとヤバい気がするんだよね。オーキス達が潜った迷宮でさ、この間エレメンタルジンが現われたんだって。あいつ、魔法耐性があるし、でもオーキス達のパーティーって魔法頼りなところがあるし、物理も打撃ばっかじゃん? だから……」
と、そこまで言いかけてサリスは口を閉ざす。いつもは自信満々にそそり立つ長耳も、どこか不安げに垂れ下がっている。
相当心配している様子だった。
ステイは魔法剣士ではあるが、基本的には強力な攻撃魔法を剣へ付与して放つだけだった。そんな彼の先端を開くのが格闘家ゼフィの役目。オーキスは魔法を放ち、時にメイスで戦うバイプレイヤーとして立ち回り、神官のガーベラは回復を一手に担う。形の上では強固な布陣である。
しかし物理は打撃ばかりに偏り、決定打が魔法。相手によっては不利になり兼ねない。これまではそれでも高火力で押し切る”ごり押し戦法”で何とかなっていた。
対するエレメンタルジンは魔法への耐性が強く、更に打撃の物理攻撃にも防ぐ強固な表皮を持つ。確かにステイ一行に対しては脅威だ。
そして一週間も戻らないことから考えるに、ごり押し戦法が破られたのかもしれない。
「事情は分かったのだが、何故俺とリンカなんだ? サリスは今他の上位パーティーに加わってるんだろ? そこの連中と助けに行けば良いんじゃないか?」
Dランクのロイドに、声を無くした魔法使いのリンカ。今、サリスが加入しているだろう、優秀な人材で構成されたパーティーよりはるかに戦力では劣る。するとサリスは苦笑いを浮かべ、
「ここだけの話なんだけど上位での潰し合いなんて日常茶飯事なんだよねぇ。むしろ行方不明になったなんて、ライバルが減る絶好の機会だからだーれも助けてなんてくれないんだよね。うちのパーティーも、待ってましたと言わんばかりに、危険種ばっか狩ってポイント稼いでる始末でさぁ……」
上は上で大変らしい。ロイドには恐らく一生縁の無さそうな諍いの話であった。
「でもほら! 私とリンカはオーキスの友達だし! 親友だし! 親友のピンチに駆けつけるのが友情ってもんでしょ? ねっ、リンカ?」
サリスは迫るように言い放つ。するとリンカは、蒼い瞳をロイドへ向けてきた。
どうやら雇い主殿は、何故か被雇用者に判断を委ねたいらしい。
本当にどちらが雇い主だか分からない。だが、問われた以上、何かしらの答えを出す必要はある。
ステイは前の雇い主で、あのパーティーでの思い出は全て苦々しいものばかりであった。
特にステイの幼馴染で恋人のオーキスは喫煙者のロイドを毛嫌いしていた。元来の強気の態度にどこか馴染めなかった。
正直に言ってしまえば、断りたいとは思う。
散々冷遇されてきたので、ロイド自身には助ける義理は全くない。
しかしそんなオーキスは、良くしてくれるリンカや、教え子だったサリスの同級生で、しかも相当仲の良かった友達らしい。
「俺は、行ってもいいぞ。リンカが望むならどこへでも」
ロイドの言葉を受け、リンカはぺこりと頭を下げた。
どうやら感謝してくれてるらしい。そしてサリスへも強い頷きを返す。
「決まりだね! ぜーったいにオーキスを助けようねぇ!」
サリスは大げさな身振り手振りで感謝を口にする。
絶望的な状況だが、サリスの天真爛漫な声を聞くと、なんとかなりそうな気がしてならない。
リンカも珍しく表情を引き締め、気合十分といった様子だった。
Sランク魔法使い、文字魔法しか使えない魔法使い、そして殆ど魔法が行使できないDランクのロイド。
戦力的に偏っていて、決してバランスが良いとは言えない。
(いざという時は撤退も考えねばな……)
こうしてロイド達は、オーキスを探索すべく、翌日より”魔神ザーン・メル”が眠る、迷宮へ赴くことになったのだった。
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