第13話 三浦のポリシーと聖也の意地
悪魔が相手なだけに、さすがに三浦も警戒しながら後ずさりをしている。
「くっ、悪魔を呼び出してしまうなんて……。こんなことなら塩だけじゃなくって、聖水も用意しておけばよかった……」
やろうとすれば聖水まで用意できたのか!? いや、今気にするべきなのはそっちじゃない。
相手は悪魔なんだし、こうして契約を呼び掛けていても、いきなり俺達に襲い掛かってくることだって十分ありえる。
俺は用心しながら三浦をかばうように前に出て、悪魔の様子をうかがう。
「まあ、そう身構えるな。別に貴様らに危害を加えるつもりは無い。興味があるのはこの俺と契約して願いを叶える気があるかどうかだけだ。その気が無いならすぐに帰るさ。時間の無駄だからな。で、どうするんだ?」
契約……かあ……。
どうしよう。この悪魔と契約して、俺の持っている能力を消すように頼めば、能力に振り回されることも無くなるんだろうか。
……待てよ。今まではこの能力を扱いきれないって思ってたけど、能力を完全に操れるように願ったらどうだ? それが叶えば、能力を暴発させる心配も無くなるどころか、能力を上手く使って、美味しい思いをできるようになるかもしれない。
3つまで願いを叶えるって言ってるんだし、願いを2つで止めておけば魂を取られはしないよな。……このチャンスを逃したら次はないだろうから、ここは悪魔と契約してみるのも――。
「……ねえ、もしかして願いを2つまで叶えるだけなら、魂を取られないし、悪魔と契約してみようって考えなかった?」
静かだが、明らかに怒気を含んだ三浦の声が俺の背後から聞こえてきた。思わずビクッとして振り返ると、三浦が今まで見たことも無い鋭い目つきで俺を見据えていた。
ちょっ!! 悪魔よりも今の三浦の方がメチャクチャ怖え!!
「いや、その……契約すれば、この能力に振り回される心配が無くなるかなって……」
三浦の反応が恐ろしくて、契約すれば能力で美味しい思いもできるかなと考えたとは言い出せなかった。
言葉を選んで発言したつもりだったが、三浦の目つきがますます鋭くなっていく。
「あのねえ!! 悪魔と契約するって生半可な気持ちでやっていいものじゃないの!! 願いが叶うならどんな代償を払ったっていい、破滅したって構わないって、人生を投げ捨てるくらいの覚悟を持って臨むものなの!! 安易な気持ちで契約したら、あっという間に3つ目の願いまで使って魂を奪われるよ!! それにね!! 何の代償も無しに2つの願いを叶えるだけで終わるなんてムシのいい話があるわけないじゃない!!」
「そ、そうだったんだ……。ゴメン、俺、全然分かってなかった……」
三浦の
「そんなわけなんで、契約は結構です……」
「チッ、しけた人間め。それなら俺は帰るぞ」
俺が契約を拒否すると、悪魔が舌打ちして魔法陣に潜りこみ、宣言通りにあっさりと帰っていった。
悪魔がいなくなった後に恐る恐る後ろを振り返って三浦の顔を見てみると、先ほどまでの険しさが無くなり、いつもの表情に戻っていた。
三浦が激怒するとあんな感じになるなんて思いもしなかった。今度からは怒らせないようにしよう……。
「……さっきまでの私に驚いた? でもね、クラスメイトが破滅の道に踏み込もうとしてたんだもの。私だって必死に止めるわよ」
あそこまで怒ったのが恥ずかしいのか、三浦が少し顔を赤くしながらポツリと言った。
「いや……そうだよな。ゴメン、迷惑をかけた」
何か今日は今まで知らなかった三浦の一面を色々と知った気がする。
そう考えていると、周りが少し明るくなった。
何だと思って後ろを見てみると、魔法陣がまた光りだしていた。
まだ召喚が続くのかよ! ソシャゲの10連ガチャやってんじゃねえんだぞ!!
元々セレスを呼び出すのが目的だったのに、この魔法陣が天使どころか悪魔までランダムに呼び出す危なっかしいシロモノだと分かったため、俺は召喚への期待感よりも不安の方が強くなっていた。
どうしよう。もうこの魔法陣を止めた方がいいんじゃないだろうか。
俺が悩んでいると、魔法陣から光だけでなく黒い霧のようなものが漏れ出してきた。
ちょっと待て。さっきまでの召喚じゃあんなのは出てこなかったぞ?
……何か嫌な予感がする。
「三浦、魔法陣から離れよう。変な霧が出てるし、今度の召喚はさっきよりもヤバイ感じがする」
「う、うん。そうだね」
三浦も不安を感じていたのか俺の言葉に同意する。
俺と三浦が魔法陣から距離を取ると、いきなり魔法陣から更に強い光が発せられ、余りのまぶしさに目を閉じる。
「キシャアアアアアア!!!」
少ししてから、妙な叫びが聞こえてくる。目を開けると、おぞましい化け物が魔法陣の上に陣取っていた。
全長5メートルはあるであろう灰色のドロドロした身体に、無数のムチのような触手を持ち、三日月のように大きく開かれた口からは鋭い牙がむき出しになり、ギラギラと赤く光った両目で俺達をにらみつけている。
「何か明らかにヤバイのが来たああああ!!!!」
とてつもない化け物を目の当たりにして、そんな叫びが俺の口から出てきた。
「な、何これ……。
三浦の方を見ると、ぼうぜんとした表情で化け物を見たまま立ち尽くしている。
無理もない。まさか魔法陣からこんな奴まで出てくるなんて俺も思ってもいなかった。
一体どうすれば……。
いや、落ち着け。こんな時こそ無駄に威力が高い必殺技の出番だろ!!
事態に意識が追い付いていないからって、俺まで固まっている場合じゃない。
あの化け物が何かしでかす前に、必殺技をぶっ放して始末しないと。
「キュォォォォォォ…………」
俺が動こうとする前に、化け物が今までとは違い、静かに奇妙な声をあげた。
それと共に周りの空気がユラユラと揺らいでいく。
「あ……れ……?」
急激に意識が
あの化け物があげている声のせいか? でも俺は身体がとてつもなく丈夫になっていたはずじゃ……。
化け物が声をあげながら、ジリジリとこっちへにじり寄ってくるのがボンヤリと見える。 このまま、動けない俺達をじっくりと食べるつもりなのだろうか。
その時、俺のすぐ近くでドサッという音がかすかに聞こえてくる。
まさかと思い、自由が利かなくなり始めた身体を無理やり動かし、音がした方に顔を向けると、それは三浦が意識を失ってうつぶせに倒れた音だった。
三浦が手放した杖がカラコロと音を立てて転がる。
――俺が倒れたら、三浦は確実に化け物に殺される。
薄れつつある意識の中でも、この事実はハッキリと認識できた。
――冗談じゃない。こんな事態になったのも、元をただせば俺の能力が原因なんだ。そのせいで三浦を死なせてたまるか!!
細かいことなんかもう気にしていられない。
この化け物は何が何でも絶対に殺す。
視界はほとんど真っ暗になり、化け物もわずかにしか見えないが、それで充分だった。
途切れそうになる意識を必死に繋ぎとめながら、両手に力を込める。
「燃え尽きろおおおおお!!!」
俺が両手を突き出して叫ぶと、化け物の足元から巨大な柱を連想させる程の強大な光が、まるで視界の闇を払うかの様に、空に向かって撃ち出されるのが見えた。
「ギャアァァァァァ……!!!」
光に包まれた化け物が、悲鳴をあげながら燃え尽きていく。
頼むからそのまま消えてくれ。
天まで伸びる光の柱を見つめながら、俺はそう願わずにはいられなかった。
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