第12話 召喚成功?

「まあ、本はいいとして、セレスが死後の世界にいたとしても召喚できそうかな?」

「大丈夫だと思うよ。召喚は悪魔だけじゃなくて、天使も対象になるから。天使が呼び出せるなら、死後の世界に呼びかけられる可能性も十分あるでしょ」

「天使も召喚対象なの?」

「そうだよ」


 三浦が事もなげに言ってのける。

 まるでゲームみたいな話だとは思うが、三浦の話が確かなら、セレスと一緒に天使もいたわけだし、もしかしたらセレスを呼び出すことができるかもしれない。


「俺に渡された能力には直接関係無かったから省略してたけど、実はセレスだけじゃなくって、他に天使もいたんだよ。だから、セレスが呼び出せる可能性があると俺も思う」

「そうなの!? じゃあ早速、魔法陣を描こうよ!!」


 こうしてセレスを召喚する準備がスタートした。


「そこからここまでの部分は赤色で塗りつぶして。その後の部分からは黄色を使ってね」

 

 三浦の指示を受けながら、ひたすらチョークで魔法陣を描いていく。

 もちろん魔法陣を描きながら、セレス来い!! と全力で念じるのも忘れてはいない。


 しばらくして、ロウソクで囲った正方形の中に、本に書かれた通りの形をした魔法陣が描きあがった。


 自分でやっといて何だけど、誰かがこんな本格的な魔法陣を見たら、一体何が行われたって凄えビビるだろうなあ……。


「次に魔法陣の外枠と内枠のすきまに、この文字を書き込んでいって」

 

 三浦が今度は小さな紙切れを俺に手渡してくる。

 見てみると、そこには奇妙な文字が書かれていた。

 あれ? でもこの文字、ゲームで見たことがあるような……。


「これ、ひょっとしてルーン文字?」


 何気ない気持ちで三浦に尋ねてみる。すると、目を輝かせた三浦が急に距離を詰めてくる。

 

「分かる!? 吉村君が言った通り、これはルーン文字でセレスって書いてあるの!!」

「い、いや、ゲームをやってて見たような気がしたなー、ぐらいのものだったけど……。それにしても、ルーン文字でセレスって、よく書けるなあ」

「それはルーン文字の翻訳サイトを使って調べたの。女神セレスを指定して召喚するから、必要だと思って」


 興奮してきたのか、三浦の口調が徐々に早口になってくる。


「そ、そんなサイトまであるんだ。本当に手間をかけてるな……」

「そうでもないよ。それはルーン文字をそのまま使ってるだけでルーン・ガルドゥルじゃないから。あ、ルーン・ガルドゥルっていうのは魔法の力を込めるためにいくつものルーン文字を組み合わせて作るシンボルだよ。ただペンダントみたいなアクセサリーに使うのが基本で魔法陣に使うにはちょっと違うから今回はルーン文字そのままにしたの」

「な、なるほど、色々考えてるんだな……」


 早口で説明をまくしたてる三浦に圧倒され、俺はそれ以上の言葉を言えなかった。


 三浦が落ち着いてきたところで、俺はルーン文字で『セレス』と、魔法陣を一周させる形で何度も書き込んでいった。


「うん、これで魔法陣は完成したね。それと召喚の時には普段とは違う特別な衣装を身に着ける必要があるから、吉村君の分も用意しておいたよ」


 そう言いながら三浦は、本人が身に着けているのと同じ黒マントを出してきた。


 ちょっと待て。その黒マント俺も着なきゃいけないの?


「え……っと、それも前から用意してたやつ?」

「ううん。これは昨日急いで作ったの。聖別せいべつも終わっているから」


 そう言いつつ、曇りのない目をした三浦が俺に黒マントを手渡してきた。

 

「わざわざ作ってくるなんて。本当に色々と用意してたんだな……」


 今更身に着けるのを嫌だとも言えず、受け取った黒マントをそのまま羽織る。

 ……どう見ても不審者だよなあコレ。


「後は呪文を唱えたら、いよいよ召喚のスタートだね」

「呪文って言われても、何を唱えればいいか全然わからないんだけど」

「大丈夫、それも用意しているから。はい、これが呪文だよ」


 三浦が渡してきた小さな紙切れを受け取ると、俺は違和感に気づいた。

 何だこの紙? 普通の紙と違ってやたら固いし、つるつるとした感触がする。


「それは呪文を書くために用意した羊皮紙ようひしだよ、本格的でしょ」

羊皮紙ようひし!?」


 ファンタジーとかで呪文が書かれたスクロールに使われる紙じゃないか!! どうやって手に入れたんだ!?


 入手経路に疑問を持ちつつ、改めて羊皮紙ようひしを見てみる。すると、いかにも厨二病の人間が書いたと言わんばかりの文章が書かれていた。おまけに、文字は赤みがかった黒色で書かれており、普通のボールペンやマーカーペンで書かれたものとは明らかに質感が違う。


「あの……この呪文は? それとインクもなんか独特な感じがするんだけど……」

「呪文はもちろん私が考えたんだよ。呪文は召喚のイメージを増幅させるのに必要なものだから、オリジナルでも問題ないの。あ、そのインクは人ならざる者の力を借りる呪文を書く時に使うものだから」

「へ、へえー……、そんなものまであるんだ……」


 ……もうどこからツッコんだらいいのか分からない。


「そうそう、もちろん私も呪文の詠唱えいしょうに参加するからね」

 

 そう言うと三浦は鞄から小ぶりな木製の杖を取り出した。

 呪文を唱えるのは俺だけでいいと思うんだけど。……もういいや、ここまで来たら三浦の好きにさせよう。


 しかし怪しげな魔法陣を描き、ロウソクに火を灯して厨二病チックな呪文を唱える黒マントを羽織った人間2人……。

 この光景を誰かに見られたら、間違いなく通報されるよな。


「早く! 早く召喚をしようよ!!」


 警察への通報を心配している俺とは対照的に、三浦はもの凄くテンションが上がっていて召喚が待ち遠しくてたまらないといった感じだ。


 こうなったら、この現場を誰かに目撃される前にサッサと済ませてしまおう。

 呪文を唱える前に軽く咳払せきばらいをして調子を整える。


「よ、よし、じゃあ……」


 俺が羊皮紙ようひしに書かれた呪文を読み上げ始めると、三浦が杖の先を魔法陣に向け、俺に合わせる形で同じ呪文を詠唱しだした。


「「来たれ人類を守護する者よ、人類を導きし者よ、希望の光を司る女神セレスよ、汝の光は人類の未来を照らし出す。我は汝の加護を望む者。我が呼びかけに応じ、幽世かくりよに開かれし門より現世うつしよへと出でよ!」」


 セレス、頼むからこれで来てくれ!

 これ以上騒動を巻き起こすのはもうウンザリなんだよ!


 そう願いながら呪文を唱え終わると、魔法陣から光が立ち上った。


「やった! 召喚が成功したんだ! 女神セレスが来るよ!」


 光る魔法陣を見て、三浦が歓喜の声を上げる。


 ま、まさか本当にセレスを呼び出せたのか?


 驚きながら魔法陣に見入っていると、発せられる光が一段と強くなった。

 やがて光が収まるとそこにはセレス……ではなく幼稚園児ぐらいのサイズをした小さな天使が立っていた。


 あの時セレスと一緒にいた天使か? ……いや、違うな。確かこれよりもう少し背が高かったはずだ。

 三浦の言った天使を呼び出せただけでも十分に凄いけど、目当てが外れただけに少しガッカリした気分になる。

 せめてセレスへのツテに関する何かを聞けないだろうか――。


「凄い!! 女神じゃないけど本物の天使!!」


 興奮しきった三浦がスマホで夢中になって天使をパシャパシャ撮っていた。


「なに!? なに!? いきなりどうしたの!?」


 三浦落ち着け! 天使がいきなりの撮影に驚いて泣き出しそうな声を出してる。っていうか、俺が質問したいんですけど!?


「あ……ゴメンね。驚かせちゃって」


 困惑している天使の様子に気づいて、三浦が落ち着きを取り戻したのか天使に謝る。


「ちょっと教えて欲しいことがあるんだけどさ、セレスって新米女神を知らない?」

「セレス……? ううんわかんない。ぼくてんしになったばかりだし、まだおつかえしているかみさまはいないの」

「じゃあセレスを知ってそうな神様とかは知らないか?」


 俺の続いての質問に天使が首をプルプルと横に振った。


 これじゃあ天使を呼び出せても何の意味もない。

 困った俺は三浦の方を見る。すると三浦が「帰してあげていい?」と小声で尋ねてきたので「それでいいよ」と返事をした。


「そっか、突然なのに色々とありがとう。おうちには帰れる?」

「うん、ちゃんとひとりでかえれるよ。それじゃあふたりともばいばい」

 

 三浦がついさっきまで無我夢中で天使を撮影していたとは思えない程の穏やかな声で話しかけると、天使がうなずいて、魔法陣にゆっくりと吸い込まれる様にして帰っていった。


 有益な情報は得られなかったが、天使を召喚できたということは、セレスのいる世界に呼びかけができたのかもしれない。運が良ければセレスを召喚できたんだろうか。


 名残惜しそうに魔法陣を見ていると、再び魔法陣が光り始めた。


 え、まだ召喚が続いているのか?

 さっきと同じ様に少しすると光が強くなり、光が収まると――。


「俺を呼び出したのは貴様か。ならば俺と契約すれば、貴様の魂と引き換えに3つの願いを叶えてやろう」


 今度は頭に角が2つ有り、黒色の翼と灰色の身体をした典型的な感じの悪魔が現れた。

 

 確かに天使だけじゃなく、悪魔も召喚されるとは聞いたけど、いきなり真逆過ぎるだろ!!

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