ロスト メモリー 記憶を失った勇者さま
伊達 虎浩
第1話 記憶を失った少年
【プロローグ】
空を見上げ、流れる雲を見る。
空は青く、流れる雲は白い。
雲の形は、わたあめみたいな形をしていた。
空とは、全世界共通の空ではないだろうか。
いや、空の景色は共通といった方が、分かりやすいだろうか…。
さて、と。
では、この目の前の
空から地上へと視線を戻すと、変な格好をした男が、これまた見た事もない何かを振り回していた。
「がはははは。お祈りはすんだか?あ"あん?」
お祈りと言われたが、別に両手を胸の辺りで重ねていたわけではない。
それよりもだ。
熊みたいなガタイに、熊みたいなその胸毛。
モヒカン頭に、ブーメランパンツみたいな格好。
おまけに鎖だかチェーンだかよくわからない物を振り回すのは何故だ?
よくわからない物には、丸い鉄球みたいな物が付いていて、トゲトゲした物がついていた。
アレってもしかして、ゲームや漫画、アニメで見るモーニングスターというヤツなのだろうか?
と、とりあえず、コイツは無視しよう。
おそらく、関わってはいけない系の人だと思われる。
そう決めつけ、首を動かして辺りを見渡すと、自分と同じ位置に面する場所、すなわち地上に、数名の人がいる事に気がついた。
「頑張ってーー!!」
などと、言いながら手を振る女性。
黒いローブ姿に、赤い髪を左右に結んでいるその女性に、見覚えなどない。
これはいわいる、勘違いをしてしまうヤツなのだろう。
道端で手を振られ、自分かと勘違いしてとりあえず手を振ったら、後ろから声が聞こえてきて、恥ずかしい思いをしてしまうアレだ。
そもそも頑張る理由が自分にはないのだから。
コイツも無視だな。と、判断して、再度辺りを見渡す。
高い壁があり、壁の上にはいくつもの椅子が並んでいる。長い階段のように見える椅子。その椅子には、これまた見た事がない顔がずらりと並んでいる。
仮面でも被っているのだろうか。
しかし良く出来ている。と、作った人を褒めてやりたい気分だ。
オオカミ男に、猫耳娘。ファンタジー世界では獣人族と呼ばれている彼等に扮した顔がずらりと並んでいる。
また、真っ直ぐ伸びた耳が印象的であるエルフ族や、口元からアゴまで伸びたモジャモジャのヒゲが印象的であるドワーフ族らしき人に扮した人まで見えた。
何かの仮装パーティーなのだろうか。
しかし、自分が参加した記憶がない。
何故、仮装をした人達が自分を見ているのかが分からない。そして、自分が立つこの場所は砂であり、周りは円状となっている。
まるで、闘牛場のようなこの場所に、仮装をした人多数。
どうなっているのか、誰か説明を!!と、声をかけようとしたその時であった。
「さあさあさぁあーー!たぁいへぇんお待たせしましたぁーー!!もう間もなく始めさせていただきます!!」
煽るような口調。
大変が、たぁいへぇんんと、聞こえてしまったのは、決して気の所為ではないハズだ。
声がする方へと顔を向けると、棒らしきものを握りしめた青年が、握り拳を作りながら、マイクパフォーマンスをしている姿が目に入る。
お待たせしました。と、青年は言ったのだからそれは、これから何かが始まるという合図なのだろう。
良かった。と、内心思った。
説明してくれるのだろう。と、そう思ったのだ。
その予想は見事に的中した。
しかし、気分は最悪である。
思わず、聞き間違いかと思ってしまうほどである。
彼はこう言ったのだ。
「ただ今より、試合を開始します!両者、宜しいですね?」と。
ふざけやがって。と、思うのが普通だろ。
よく分からない場所に、良く分からない仮装をした人達。挙げ句には試合だと。
何のだよ?そう思うのが普通だろう。
当然、聞き直そうとしたのだが、次の言葉に声を失ってしまうのである。
「では、これより、勇者の息子であるカイト対暴走機関車と呼ばれるグリズリーとの試合を開始致します。両者、殺さないようにお願いしますよ?」
ゆ、勇者?こ、殺すな?
というより、何故、俺の名前を知っている。
「カイト!!負けんじゃないわよーー!!」
名前を呼ばれ、無意識に首を向ける。
振り向くと、先ほど頑張ってと声援を送ってくれた少女の隣にいた女性が、こちらに向かって手を振っていた。
水色の長い髪をポニーテールにしたその女性に、勿論見覚えなどない。
だから、誰なんだよ…お前ら。
良く見ると、先ほど頑張ってと応援してくれた女の子が、落ち込んでいるように見えた。
しょぼーん。
思わず、そう聞こえてしまいそうなぐらいのへこみようである。
「……もしもし」
もしもし?と、声がする方へと顔を向けるカイト。
いや、もしかしたら違う事を言ったのかもしれない。あまりにも小さい声だった為、そう聞こえたに過ぎない。
顔を向けると、眠たいのか、やる気がないのか、無表情の女の子が、右手人差し指をたて、ツン、ツン、と、している姿が目に入る。
後ろ、後ろ。と、いったジェスチャーを受け、バッと振り向くと、先ほど無視しようと決めていた男が、ぐるぐる回していた物、モーニングスターらしき物がこちらに向かってくるではないか。
ビュン!!
シャァァァっと、空気を切り裂く音とともに、こちらに向かってくる鉄球。
速い。
「な、何やってんだよ!?避けろよ!!」
と、先ほどの女性陣の中、唯一の男である人が声をかけてきたが、その先どうなったのかは分からなかった。
歓声が聞こえる。
そんな中、一番多く聞こえたのは、罵声であった。
薄れゆく景色。
すーっと、目を閉じ、眠りにつく。
ここが何処なのか、ここで何があったのか、全く持って自分には分からない。
いや、今はよそう。
考えるのをやめ、そっと、両目を閉じるのであった。
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