第16話 カレーの時にう〇こはNGワードです!
十六
個人経営のレストラン『マレさん
ちなみにですが、『マレさん家』は看板が出ていない為、一日に訪れるお客さんの数はほとんど居ないのだとか。それでもお店が潰れないのは、きっとダストさんが出資してるからでしょうね。
……でも、勿体ないですね。せっかく落ち着いた雰囲気のレストランなのに。
まぁボクとしては、お客さんが居ない方が待ち時間が少なくて嬉しいですけどね!
「しかし凄いニャ、ユーリちゃん。まさか兄ちゃんに勝つニャんて」
「本当だよな! 俺もツヨケンさんに挑もうとは思ってたけど、これからはユーリに挑む事にするな!」
「……僕は、マイペースで頑張りますよ」
マレさんの料理を待つ最中、ミサトちゃん達が口々にボクとツヨケン君との模擬戦の感想を言って来ました。
ノルド君だけが言葉の通りにマイペースな発言ですが、クリス君はボクに挑むと意気込んでますね。面倒なので、止めて欲しいです。
「あたしもマイペースだニャ。目指す方向が違うし、ユーリちゃんとは闘っても勝てる気がしないニャ。と言うか、兄ちゃんが勝てニャいのに、あたしが勝てる筈ないニャ」
「ボクが勝てたのは、きっとまぐれです! ツヨケン君も全力じゃ無かったって言ってたですし。それに、ボクはまだまだ何も分からないです。クリス君と模擬戦をやるにしても、しっかりと授業を受けて学んだ後でお願いするです」
ツヨケン君とは喧嘩の様相だった為にそれなりにやりましたが、ミサトちゃん達とは”ほのぼの”と付き合いたいです。
……ミサトちゃんとは個人的にお付き合いしたいですが♡
ともあれ、その様な事で談笑していたボク達のお腹を、マレさんが作っている料理の香りが刺激して来ました。それは、文字通り刺激的な香りです。
「こ、これはまさか……!? カレー、ですか!?」
「えっ!? えっと……君は? 昨日から孤児院に入った娘だよね? ……と言うか、初めて作ってる料理なんだけど、君は知ってるの!?」
「あ、ボクの名前はユーリと言うです! い、いや、カレーな……そうです! 華麗な香りだと言ったです!」
ボソッと口にしたボクの言葉を、マレさんだけが聞いてました。……地獄耳です。
それはともかく、今のは少し危なかったですね。
それと言うのも、ボクは記憶喪失という事にしてるのに料理の名前を知ってたとなると、後々面倒な事になるです。
今の場合ですと、「どこでその名前を聞いたのか」とか、「私が考案した料理なのに、何でそれを知ってるんだ!」とか……確実に色々と聞かれるです。最終的には、「どうして知ってるのに黙ってたんだ! 怪しい……他国のスパイかもしれない!」などとなって、牢獄送りになる可能性もあるです。……何を聞かれてもシラを切り通すです。
「でしょー! 前々からダストさんに頼んでた香辛料が、やーっと届いたんだ♪ それでね? 君たち……ユーリちゃんって言ってたわね。ユーリちゃん達に実験台になってもらおうと思って! あぁ、大丈夫よ? 私は何回も味見してるから! お店に出す前に評価してもらおうって意味だからね?」
ほっ。とりあえずは大丈夫みたいです。
……ですが、実験台は酷いですね。まぁ、腕は確かだとカミーサさんも言っていたし、孤児院のご飯も美味しかったので心配はしてませんが。
ともあれ、マレさんが何を作っているのかは香辛料という言葉と匂いで分かります。
ずばり! カレー、ですね! この世界で初となるカレー。楽しみです!
「マレさんのご飯は孤児院で食べてるので味に心配はしてないですが、実験台は酷いです!」
「……ユーリちゃん。ヨダレが出てるニャ」
「ジュルッ! き、気のせいです!」
「あっはははははは! もう出来てるから、今出すわね!」
あまりにも良いカレーの香りと空腹に、知らずにヨダレが垂れてました。てへっ♪
カウンター席の向こう側は当然の様に厨房となっており、そこからマレさんは新作料理が盛られたお皿を四つ、丁寧にボク達の前に置いていきます。出来てたと言う様に、本当に直ぐに出て来ました。
「うぇぇぇっ!? マレさん!? これは何ニャ!? まるでウ〇コだニャ! こんなの食えないニャ!」
「見た目はそうだけど、匂いは美味そうだぞ?」
「僕は食べられるならば土でも食べるから大丈夫です、マレさん」
……ミサトちゃん、カレーの時にその言葉はNGワードです。
それはともかく、マレさんの新作料理は、ボクの想像通りのカレーでした。……見た目は少しアレですが。
ですが、ボクの知識が合ってるならば、マレさんが作ってくれた新作料理とは”キーマカレー”です。挽肉をふんだんに使った、カレーの代表的なメニューの一つですね。
ですが、もしもキーマカレーを知らない人が居たならば、きっとミサトちゃん達と同じ反応を示したと思うです。
「まぁまぁ! そう言わずに食べてご覧よ? すっごく美味しく出来たんだからさ! あ、パンの上に乗せて食べてね?」
ミサトちゃん達を宥めながら、マレさんは焼き立てのパンを……あ、コッペパンですね。それを一つずつ渡してくれました。
カレーと言えば、ボクの中ではやはり白米が基本ですが、パンでも大丈夫です。カレーパンもあるくらいですし、とても美味しく食べられるです。……と言うか、もう限界です。空腹の。
なので……
「ボクから食べるです! では……いただくです!」
……コッペパンを一口大に千切って、その上にスプーンで掬ったカレーを乗せ、口を大きく開けてそれを頬張りました。
「とっ…………っても、美味しいですぅぅぅ〜〜っっ!!」
噛んだ瞬間に香辛料の香りが口いっぱいに広がり、それと同時に爽やかな辛みと挽肉の旨み、そしてコクを感じました。その後に来る、焼き立てコッペパンの芳ばしさと甘み。それらが混然一体となって、一段も二段も上の味わいを奏でているです!
一度口にしたら、次、また次へと、もう止まらないです! これ程の美味しいカレーは、今まで生きて来た中で一番です!
ボクの目の前のお皿はいつの間にか、まるで舐めた後の様に綺麗になってました♪
「ゴクリ……っ! そ、そんなに美味しいのかニャ!? だ、だったらあたしも食べてみるニャ……!」
「お、俺も……!」
「僕は食べ終わりました」
ボクの美味しそうに食べる姿に余程刺激を受けたのか、ミサトちゃん達も恐る恐るといった感じで食べ始めました。ノルド君は、どうやらボクと同じタイミングで食べていた様ですが。
「か、辛いニャ!!
舌を出しながら辛いと喋るミサトちゃんが、とっても可愛いです♡
「見た目と違って、美味いなぁコレ! 病みつきになる辛さって言うか、後を引くって言うか……! とにかく、とんでもなく美味い!」
「でしょー? なんと言っても、このマレさんの自信作だからね! ……とは言っても、ミサトちゃんにはまだ辛いかぁ。改良の余地ありね!」
ミサトちゃんも何だかんだ言いながら完食した所を見ると、辛さはともかく美味しかった様です。
「「「「ごちそうさまでしたーっ!」」」」
「お粗末さまでした! あ、そうそう! この料理の名前だけど、さっきのユーリちゃんの華麗なって言葉から取って、『カレー』という名前にしようと思うんだけど……どうかな?」
キーマカレーを満足の内に食べ終え、ごちそうさまをした所で、マレさんからその様な提案がありました。
ボクとしては元々の知識を誤魔化した言葉だったですが、カレーと付ける事には賛成です。だって、カレーですし。
と言うか、この世界でカレーという名前の名付け親的な事をボクがしても良いですかね? 何だか、インドの人達に申し訳ない気持ちになるです。
……ですが、かつての世界はもう存在しないので、仕方ないですよね!
「ボクは賛成です! 華麗なカレー……美味しかったので♪」
「じゃあ、決まりね! 材料や値段など少し調整して……一ヶ月後に新作としてメニューに載せるわね!」
という事で、『マレさん家』の新作メニューの名前はカレーという事になりました。……マレアカレー、なんて呼ばれるんですかね、その内。
あ、ちなみにですが、マレさんのマレというのは愛称で、本名は『マレア=クーネル』だと言ってました。愛称の方が可愛いですね!
その後、改めてごちそうさまとマレさんに告げたボク達は、南区から東区へと抜ける裏道を通り、孤児院へと帰って来ました。
何だかんだで疲れたので、さっそくお風呂に入ろうと着替えを取りに部屋に戻ろうとしたボクに、ミサトちゃん達はスラさんの事を訊いて来ました。
「所でユーリ。その左肩に乗ってるのって……スライム、だよな?」
「あたしもずっと気になってたニャ」
「僕もです」
やはり、気になるですよね。
ですが、曖昧に答えても仕方ないです。それに……もしも曖昧に答えて、それが原因でスラさんを処分なんて事になったら嫌ですし、ボク自身もスラさんを見てるだけで心が癒されるので離れたく無いです。なので、嘘偽り無く説明したいと思うです。
「ボクの魔法で生み出したです! とっても可愛いですし、とっても強いです!」
「ヌヴァー! 主より生み出された私の名前はスラさん。以後、お見知りおきを。ヌヴァー」
「うわっ!? 喋ったニャ!!」
「マジか……!」
「僕はノルドという名前で、ドワーフです。お見知りおきを」
ミサトちゃんとクリス君は喋るスラさんに驚き、ノルド君はスラさんに対して真摯に自己紹介をしてました。
しかし三人とも、ボクの予想よりは良い反応です。受け入れてもらえた、という事ですかね?
ともあれ、スラさんの紹介も終わったですし、さっさとお風呂に行くです! ……の前に着替えを取りに部屋に戻るですが。
……という訳で、ボクは今、地下にある浴場へとやって来ました。
しかし変ですね。今朝の様子だと、ミーナさんが直ぐにまとわりついて来ると思ってたですが、ミーナさんの部屋の前を通っても、院長室の前を通っても、ミーナさんの気配すら感じなかったです。
まぁ、気にしても仕方ないので、さっさとお風呂に入るです!
あ、ちなみに孤児院のお風呂は、経営者のダストさんの粋な計らいによって、マジックアイテムによる24時間入浴システムなるものが完備されてるのだとか。いわゆる、源泉掛け流しの様な物ですね。……循環システムですかね?
ともあれ、脱衣所でローブを脱ぎ、パンツ一枚の下着姿のまま浴室へと入りました。
「さて、と。ミサトちゃんから借りたパンツを洗って、それからゆっくりとお風呂に浸かるです」
「ヌヴァー! 主よ。私も食事を頂きたいのですが。ヌヴァー」
洗い場でミサトちゃんから借りたパンツを脱いだ所で、足元から声が聞こえて来たです。口調でも分かる通り、声の主はスラさんです。
スラさんがお風呂の中にまで付いて来て、ボクの足元でその小さな身体を可愛らしくプルプルと揺らしながら、食事の要求をして来ました。
「……食事なんて言われても、何を食べるです?」
「ヌヴァー! 本来であれば魔物や動物、それに植物などを摂りますが、ここではそうもいかないですね。となれば、主の身体から出る物で良いのです。ヌヴァー」
……ボクの身体から出る物……?
スラさんの言葉に首を傾げていたら、スラさんは唐突にボクの足をヌメリヌメリと登って来て、あろう事かボクの股間に張り付きました……!
そして、前と後ろを完全に塞がれてしまったです……
「ひゃうぅっ!? は、離れるです、スラさん! ……ん! ……ダメぇ……」
「ヌヴァー! いつでも良いのです。ここで待機します故。ヌヴァー」
擽ったい様な、気持ち良い様な。身体の芯が熱くなる様な、力が抜ける様な。
何とも言えない感覚に、ボクの身体から力が抜け、浴室の床にペタンと力無く尻もちをついてしまいました。それと同時、力の抜けたボクの身体は意思に反して粗相をしてしまったです。
ですが、浴室の床面は汚れる事は無く、股間だけが
「ヌヴァー! 私は安住の地を見付けましたよ。いつ如何なる時も、私は主をここにて守りたく思う所存です。ヌヴァー」
どうやら、本当にスラさんがボクの身体から出た物を吸収したみたいです。試しに濡れていないか触ってみた所、スラさんの身体自体は濡れている様な感触でしたが、ボクの手は濡れていませんでした。
次に、もしも他人に見られた場合の事を考えて股間を確認してみましたが、スラさんが無色透明な為か、ボクの小さなクレバスはそのまま見えてました。お尻の方もですね。一見しての違和感は全く無かったです。
そうなると、これは便利かもしれないですね……! もしも我慢の限界を超えて漏らしたとしても、これならば人にはバレないですし、スラさんも満足出来て、正に一石二鳥です。トイレに行く手間も省けるです。
……もしかして、大きい方も大丈夫ですかね? 聞いてみるです!
「スラさん! ……んぅ……」
ボクが呼び掛けたらスラさんが動き、思わず変な声が出てしまったです。
あ、改めて……!
「スラさん! お……大っきい方も大丈夫です?」
「ヌヴァー! 私の体内は主を除くあらゆる物を分解吸収して、それを栄養と出来るのです。ご安心を。ヌヴァー」
素晴らしいです! 後は、この何とも言えない感覚をボクが克服出来れば良いだけです!
まぁ、パンツを履くのと同じと考えれば直ぐに慣れるとは思うです……!
さて、と。それではミサトちゃんから借りたパンツを洗って、湯船で疲れを癒すとするですかね。
ザバァァァッッ!!
「あーつーいーっ!! もう! どうして直ぐに入って来ないのよ!? のぼせちゃったじゃない!」
「ひいぃぃっっ!!?」
これからのトイレ問題がスラさんのお陰で解決し、気持ちも新たにミサトちゃんのパンツや身体を洗おうとしたら……湯船の中からお化けが出ました。……間違えました。ミーナさんが真っ赤に染まった肌を晒して飛び出てきました。
誰も浴室に居ないと思っていただけに、危なく口から心臓が飛び出そうになったです。
先程出切った筈なのに……チビったです。スラさんのお陰でミーナさんにはバレてませんが。
ともあれ、ミーナさんの釈明を聞かないとですね。
ミーナさんの返答次第によっては、お灸を据える必要があるです。いつもこんな事を繰り返されたら、休まる暇がないですからね!
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