第13話 透視の別の使い方
さて、今日から透視のスキルの訓練だ。
まあ朝の実験で徐々に透かして見る事ができるのは分かってるから、そんなに検証すべき事はないかな。検証する事が少ないのは千里眼と同じか。
あ、もしかして、この2つを組み合わせれば千里眼の最大距離が分かるんじゃないか?
知りたいのは千里眼でどこまでの距離を見れるかだ。でも壁があると千里眼の効果が阻まれるから、地上ではできない。そこで透視を使えば壁があろうと関係なく、距離を測ることができる。
問題は途中に人、特に女性がいた場合だ。透視してしまうとさっきのアミスみたいに…いや、思い出したら駄目だ。とにかく、知られないとはいえ問題になる。一気に透視のレベルを上げて、地平線が見えるくらいにしておけば良いか。
「実際に試すか」
考えていても仕方がないからな。実行に移さないと。
まず窓の方を見る。そして一気に透視のレベルを上げる。
「おお…何もない」
目の前には窓や壁があるはずなんだけど、俺の目には広がる空と地平線だけが見えている。
「さて、どこまで見えるかな」
千里眼で見える距離を伸ばしていく。でも地平線しか見えないから本当に千里眼で見ている距離が伸びているのか分かりづらい。そこで時折、透視のレベルを少しだけ下げる事にした。
「ゾッとする光景だな…」
人や動物が歩いている。それだけなら普通だ。ゾッとする事はない。でも、その人や動物は骨だった。そういう魔物の群れかと思って透視のレベルを下げたら肉が見えてきた。本当に人間だったようだ。俺は透視レベルを上げると、千里眼で距離を伸ばしていく。ちなみに骨だけ見えるのであれば、その透視レベルに設定しておけば良いかと思ったから、そのままにしている。これならプライベートな問題もないだろう。骨だという情報以外、何もないからな。
そうして千里眼と透視を使い続ける事、十数分。俺は1人の子供の大きさの骨を見て止まった。止まったという事は、これが千里眼の限界かな。訓練で伸びるかもしれないけど、とりあえず現状では限界のようだ。
この子供は誰だろう。悪いとは思うけど、透視を解除してみよう。一気に解除すれば衣服も見えるからな。裸を見ないで済む。
「………なんだ、俺か」
見えていたのは俺だった。試しに動いてみたけど、千里眼で見ている子供も同じように動いた。間違いなく俺だ。という事は世界一周を千里眼でできるのか。
「これで千里眼の訓練は終わりだな。でも現状を把握しただけで限界を知る事はできていない。今後は限界を知る訓練だな」
「ラソマ様、本当に大丈夫ですか?!」
部屋の外からアミスの声が聞こえる。
「大丈夫。もう実験も終わったから入って良いよ」
「失礼します!…良かった…無事だったんですね」
俺の姿を見たアミスが一安心する。千里眼の実験の最中、アミスが何度か訪ねてきたんだけど、実験をしていたから入室を拒否していたんだ。大丈夫だとは伝えていたけど、やっぱり心配だったんだろうな。
「ごめんよアミス、心配させてしまって」
「いえ!私の方こそ、ラソマ様も10歳なのに干渉し過ぎました。すみません…」
「怒っていないから、そんな顔をしないでほしいな。アミスは笑顔が一番なんだから」
「っ!はい!」
しょんぼりした顔だったけど、アミスが笑顔に戻った。
「ところで、アミスは僕に何か用?」
「特に用事があったわけではないんですけど…心配だったので来ました」
「そっか」
アミスは優しいから、俺が大丈夫だと言っても心配してくれたんだな。この優しさがかなり嬉しい。
その日の夜。寝ていた俺はトイレに行きたくなったので起きた。ドアを開けて部屋の外に出ると、暗い。廊下の窓から月や星の光が入ってくるから真っ暗ではないんだけど、電気に頼り切っていた前世から考えるとな…懐中電灯が欲しい。もしくは暗視ゴーグルとか………あ、もしかしてこれも透視でなんとかいけるんじゃないか!?
スキルの強化は俺の想像次第だ。透視は物を透かして見る事ができる。これを『物』と断定せずに使えばどうだろう。例えば、この暗闇。暗闇を透かして見る事が出来れば、明るくなるんじゃないか!?
真っ暗な状態を透かして見る事をイメージしながら集中する。トイレに行きたいけど、それは後だ。
最初、俺の視界は月や星以外の明かりのない暗さだったけど、徐々に明るくなってきて、最終的に昼間のようになった。
「…これだけ明るければ、暗闇は平気だな」
一発で成功したことに喜びながら、俺はトイレに向かった。
1週間後の夜。寝ている時に違和感があったので起きた。違和感の正体は屋敷に張っている結界に何かしらの衝撃があったから。衝撃のあった場所は門の前。俺の部屋からは門が見えるので、窓まで移動して外から気づかれないように門を見てみる。外は夜だから暗いけど、透視で暗闇を透かして見る事ができるから明るい。でも門までは距離があるから千里眼で確認する。
そこには5人の男が剣や棍棒を持って、門の鍵部分に殴りかかろうとしている瞬間だった。次の瞬間、実際に男たちは殴りかかったり、切りつけたりしている。でも、その程度の攻撃で傷がつくほど結界は弱くない。
さて、どうしようかな。無視しておく事はできないし、俺が捕まえに行ったら父さんたちに怒られそうだ。そんな事を考えていたら、屋敷の内側から塀を飛び越える人影があった。
「あれは…」
父さんの執事だな。執事という言葉だけ聞けば戦闘とはなんの関わりも持たないような人の筈なのに、塀の飛び越え方が普通じゃなかった。動きの身軽さには驚かされる。まるで漫画の忍者みたいだ。もう60歳近いはずなんだけどな。
そして執事は門に攻撃している男たちに近づくと、攻撃を始めた。執事は武器を持っておらず、殴って倒している。動きは完全に達人だな。相手は5人もいたのに、あっという間に終わりそうになった。
「あ、逃げる!」
相手があと2人になった時、1人の男が仲間を囮にして逃げようとした。すかさず念動力で逃げようとした男の足を動けなくさせる。そのせいで男は転んだ。囮に使われた男を倒した執事は、俺に転ばされて起き上がろうとしている男を倒した。
「あれ?気づいたのか」
念動力で動きを止めたのは一瞬だ。それなのに執事は俺の部屋を見ながらお辞儀をして、上げた顔は微笑んでいた。
「俺が何かをしたのかが分かってるんだな。…どれだけの手練れなんだよ…」
この世界の執事は怖い。いや、父さんの執事だけかもしれないけど。
翌朝。俺の部屋にアミスが来る。これはいつも通りだ。でも今日は執事も来た。
「おはようございます、ラソマ様。昨晩は助けて下さり有り難うございました」
そう言って執事は頭を下げる。
「ううん、気にしなくて良いよ。たぶん、僕が何もしなくても解決したと思うし」
これは本心だ。執事は強かった。俺が介入しなくても解決できただろう。
「それでもラソマ様にはお礼が言いたかったのです。本当に有り難うございました。それでは失礼いたします」
そう言って執事は部屋を出て行く。律儀だなぁ。でも、だからだろうか。兄さんやスィスル、それに俺はあの執事を慕っている。まるでお爺ちゃんのような存在だからだ。
「いったい何があったんですか?」
事情を知らないアミスが聞いてくる。でも、この話を俺がすると自慢のようになるから言いたくない。というより、話すほどの内容でもないと思う。
「んーと、内緒」
「そ、そんな!?」
アミスが内緒にされた事にショックを受けている。
「僕は自慢とか興味がないんだ。だから内緒というより、言いたくないんだよ」
ショックを受けたアミスが可哀想だから正直に言おう。
「そうだったんですね。でも、いつか教えてくださる事を期待していますね」
「うん、気が向いたらね」
ここまでもったいぶってしまったら、言っても反応が薄くなってしまうかもしれないな。そう考えて心の中で苦笑いした。
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