第11話 魔物との初対戦
「アミス、今日も協力してほしい」
「はい、何ですか?」
「瞬間移動のことは話したと思うけど、自分以外の他人を移動できるか試したいんだ」
「分かりました!私を移動させるんですね?」
「いや、まずは魔物で試そうと思う」
「魔物ですか?」
「うん。人間で試して万が一の事があったら大変だからね。ましてやアミスに付き合ってもらうわけだし」
「私なら大丈夫ですよ?何があってもラソマ様を恨みません」
「アミスに何かあったら僕が困るよ。これから先も一緒に生きたいからね」
「ら、ラソマ様…」
「という事で外に出るよ。父様の許可は貰ってるから」
「でも2人きりで大丈夫でしょうか?いくらラソマ様の結界があるといっても」
「うん。父様も2人きりでは行かせてくれなかったよ。でも護衛と一緒なら良いって」
「護衛ですか?」
「今から会いに行くよ」
と言っても距離は近いけどな。何せ、屋敷の中だから。その人はレミラレス家の使用人だ。
その人とは屋敷の門で待ち合わせをしている。門まで行くと、そこには1人の青年が立っている。その青年が待ち合わせしている使用人だ。
「待たせちゃったかな?」
「いえ!そんな事はありません」
青年、マイト(20代前半)は緊張した様子で答える。ウチで働きだして1年は経つのに、まだ俺みたいな子供にも緊張している。他の使用人やメイドは慣れてきてるんだけどな。
「マイトさんが護衛なら安心ですね」
「うん」
アミスも納得してくれる。それはマイトのスキルが護衛だからだ。仕事の名前が護衛じゃなくて、スキルの名前が護衛。何があっても護衛対象を護り抜くスキルらしい。それも自分の命を省みずに、だ。すごいスキルだけど、俺としては誰にも犠牲になってほしくない。
「マイト、きみにも結界を張るよ」
「いえ、ラソマ様にお手を煩わせるわけにはいきません!」
「気にしないで良いよ。それに護衛として怪我をされたら、それこそ面倒だ。それなら、僕のスキルで最初から守っておいた方が良い」
「分かりました。よろしくお願いします!」
マイトが納得してくれたので、俺は全身タイツ型の結界をマイトに張る。ちなみに俺自身とアミスには既に張っている。全身タイツ型だけど、そのせいで衣服がピッタリするわけでもなく、衣服に合わせて結界が動くようになっている。
「それじゃあ行こうか」
「っ!?」
「うわっ!?」
アミスの声にならない悲鳴と、マイトの驚いた声が聞こえる。原因は俺だ。3人を結界で囲んで浮かせたんだ。この方法で魔物がいる森まで行く。歩いても行ける距離だけど、時間短縮だな。
「マイト、これは僕のスキルの1つだから安心してくれて良いよ」
「は、はい…すみません。宙に浮く事に慣れていなくて」
「アミスは前にもしたけど、まだ慣れない?」
「はい…すみません」
「2人とも、謝らなくて良いよ」
自分のスキルで飛行するなら慣れてくるだろうけど、他人のスキルだからな。自分で自由に移動できないなら、驚いてしまうのも無理はない。
「ところでラソマ様、どこに行かれるのですか?」
「森だよ。すぐそこだからね。森に入ってすぐに魔物が現れてくれたら良いんだけど」
「それは運ですね。魔物を惹きつける魔法が使えたら良いんですけど」
そんな魔法もあるのか。魔法といえばスィスルだけど、スィスルはまだ子供だから危険だし、そもそも、そんな魔法は覚えてないだろう。
運良く魔物に遭遇する事を願うしかないな。
森は屋敷の裏側にある。木々が生い茂っており、いかにも魔物が出そうだ!結界があるから魔物の強さは気にしない。なるべく実験に失敗して倒してしまっても大丈夫な、人間に害をもたらす魔物に遭遇したいな。
そんな事を考えながら森に入り數十分進んだ時、1匹の魔物に遭遇した。見た目も大きさも熊だな。
「あれは危険な魔物?」
アミス達に聞いた瞬間、熊の魔物は俺たちに向かって突進してくる。でも結界を張っているから無駄だ。熊の魔物は結界に衝突して態勢を崩す。でも、牙を出して唸り、威嚇してくる。
「えっと…危険な魔物?」
再度、アミスに聞く。もしかしたら縄張りに侵入してしまった俺たちを警戒しての攻撃かもしれないからな。その場合なら俺たちに非がある。
「はい。あれはBランクの魔物で危険です。普通に人も襲ってきます」
「そっか…それなら実験に協力してもらえるね」
「でも、どうしてBランクの魔物がこの森に…普通はいないはずなのに」
「何か原因があるのかもね。とにかく、害があると分かった事だし、スキルの実験をするよ」
「はい。気をつけてください」
「何かありましたら、私が命に代えてお守りいたします!」
マイトが張り切りながら言う。
まあ、誰の命も危険にさらすことなく、スキルの実験を終えたいね。
さて、実験開始だ。まず俺は魔物の斜め後ろに瞬間移動して、魔物の胴体に触れる。触れたことで魔物が俺に気づき行動を起こす前に、5メートルほど離れた場所に一緒に瞬間移動した。
「うん、できたな」
「ガアアッ!」
魔物は俺に向けて前足を振ってくる。でも結界で防いでいるから、その攻撃は無駄だ。魔物の前足は俺に当たる前に結界に当たる。勿論、その程度の攻撃で結界が破壊される事はない。
次に執拗に攻撃を続ける魔物を、触れずに瞬間移動させてみる。結果、俺から少し離れた場所に瞬間移動させる事ができた。触れなくても瞬間移動はできるし、俺が一緒に瞬間移動しなくても対象だけを瞬間移動させれるようだ。
なんだ、問題なく実験が終了してしまった。あとは魔物にした事と同じ事を人間相手にすれば良い。魔物で実験は成功してるから人間でも成功すると思うけど、少しだけ心配だ。
「その前に、この魔物を片付けるか」
未だに突進してくる魔物を念動力で宙に浮かせて動きを封じ、その首を念動力で捻る。そうして地面に下ろすと、魔物は動かなくなった。…魔物とはいえ、命を奪うのは辛いな。でも放っといたら誰かを襲っていたかもしれないし…そう割り切る事にしよう。
「実験は成功したよ」
瞬間移動でアミスたちの傍に戻って報告する。
「ラソマ様、お怪我はありませんか!?」
「ないよ。どうして?」
「あの魔物がBランクの魔物だからです!」
「すごいですね!ラソマ様、Bランクの魔物をまさしく一捻りでしたね!」
アミスは心配し、マイトは興奮している。そう言えばBランクの魔物だって言ってたな。それなら簡単に倒さない方が良かったのかもしれない。
「Bランクの魔物ってどれくらいの強さなの?」
「なりたての冒険者では遭遇した時点で終わりです。並の冒険者なら数人で倒せる強さですよ」
「…そんなに強くなかったよ?」
「動きが早くて攻撃が当てにくく、逆に魔物の攻撃は強くて危険なんです」
「結界と念動力があれば、どうにでもなる問題だね」
「そうですね。ラソマ様が冒険者になれば、きっと大成すると思いますよ!」
「冒険者か…それもいいかもしれない。将来は冒険者か」
「ラソマ様、私の意見だけで決めないでくださいね?!貴族なんですから、危険な仕事に就かなくても生きていけます」
アミスは必死に言ってくる。それは分かってるんだ。貴族として生まれたから、危険な仕事をしなくても、贅沢をしなければ生きていける。でも冒険者は夢なんだよな。せっかく異世界に来れたんだから一箇所に留まらず、自由に色々な場所を巡りたい。
「さて、次は人間で実験か」
「それなら私を!」
「いえ!僕が実験台になります!」
「それじゃあ、アミス、マイト。覚悟はしておいて。でも絶対に成功させるから」
「「はい!!」」
絶対に成功させてみせる!
「さあ、握って?」
俺は両手を2人に向けて出す。触れなくても瞬間移動できるはずだけど、どうせなら触れて移動したい。
「ラソマ様のお手を…」
そう言ってアミスがゆっくりと俺の手を握る。でも力が入ってないな。
「それでは失礼して」
マイトも遠慮がちに弱々しく俺の手を握る。手を握るくらい遠慮しなくても良いんだけど、そんな簡単な話ではないんだろうな。
目的地は自宅の屋敷の裏側。そこなら、いきなり俺たちが現れても驚く人はいない。ついでに帰れるから楽だしな。
「それじゃあ行くよ」
「「はい!」」
次の瞬間、俺たちは目的の場所、屋敷の裏側に瞬間移動した。アミスとマイトは…うん、無事みたいだな。2人の体は、元のままだ。
「2人とも、大丈夫?」
「は、はい。ここは…屋敷の裏側ですか?」
「正解。帰るのが楽だと思ったんだ」
「本当に一瞬でしたね」
森の中から屋敷の裏側に一瞬で来れたからか、2人は呆然としている。まあ、瞬間移動なんて、この世界でも限られた人しかできないみたいだし、体験した事を考えたらこの反応も仕方ないか。
瞬間移動は無事に成功した。残る実験は手を触れずに相手を瞬間移動させる事だな。
数日後。手を触れずに相手を瞬間移動させる実験は、何の問題もなく成功した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます