第70話 生きる権利とユイの本性

「なぁ、フミ。人間は殺さない方がいいのか?」

「あ、当たり前です!だって、彼らには生きる権利があります!」


 フミはケイに向かって言い放った。それは至極真っ当で、道徳的で、当然のこと。なんの罪もない人が潰されたのだから。


「………………」

「あなたは、なんの罪もない人を、殺したのですよ!!」


 ビシッと指を刺し、怒鳴りつける。フミの怒りは沸点を超えていた。

 だが、それはケイも同じ事だった。


「……お前、その言葉を死んでいった魔物達にも言えるか?」

「っ!!!」


 フミの言葉が詰まった。ケイのあまりにも冷たい目、静かに怒っているその眼差しを感じ取った。


「素材になるから。何もしていないのに存在するから「危険だ」と、お前の言う『生きている』だけで、殺された魔物達に向かって言ってみろよ」

「そ、それは……」

「生きる権利があるのは人間だけじゃねーぞ? 勝手に敵と決めつけて、攻撃してるのは人間だ。加えて、ここにいるほとんどの人間は亜人を奴隷扱いしてるじゃねぇか」

「だ、だから、私は……この国に帰って来て、巫女になって救おうと……」


 さっき、大声で話していたフミが嘘のように小さくなっていく。理想と現実があまりにもかけ離れていた、自分は一方的な押しつけをしていたことに気が付いた。

 黙らせるようにケイはただ、一言。


「お前じゃ無理だ」

「……………………」

「ユイ、行くぞ。鈴木がこの街を出た」

「ん、分かった」


 ケイが城から降りようとした時、フミは話し出す。


「じゃ、じゃあ、ユイさんが止めさせてくださいよ。ケイさんの言いたいことはわかりました。ケイさんがこの方法でやるなら、ユイさん、私に力を貸してくださいよ」


 藁にも縋るような思いで出た言葉。ケイとユイは見つめ合うと頷いて、


「ユイ、先に言っとくぞ」


 そう言って、ケイは下に降りた。


「お願いです! ケイさんを止められるのはあなただけなんです! あの人は悪魔だ! 存在してはいけない! だから、今なら止めらるんです! 一緒に正気に戻しましょ! お願いします!」


 フミは肩を揺さぶって、無言のユイに語りかける。何度も何度も、涙を流しながら、自分は間違ってはいないと肯定するために語りかける。

 瞬間、フミの体は地面を這いつくばっていた。


「ガハッ……!! な、なんで……なんであなたまで一緒の顔をしているんですか! ユイさん!!」

「技能『重力操作』。私……ユイはお前が嫌いだ。薄汚い手でケイに触るな! 気持ち悪い目でケイを見るな!」

「!?!?!? く、口調が……変わって……グッ!」


 重力を当てられて、倒れるフミを頭の上からユイが踏みつける。メリメリとねじ込む顔面を容赦なく踏む。


「ケイが悪魔? ケイが危険? そんなの最高じゃない!! ケイはユイの理想にどんどん近づいている。ユイは見たい。1番近くで見たいの。わかる?」

「グッ……狂っ……ているの……です! あな……た達は、異常で……す!」

「ユイの目的はただ1つ。ケイをこの世の王にする。じゃあ、ケイが呼んでるから行くね」


 一緒に旅した仲間だったからなのか、飛び降りたユイは技能を解除する。

 残されたフミは血と涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る